ショウリオウに騎乗し、国内女性ジョッキーで初めてとなる年間100勝を達成した宮下瞳騎手

 名古屋競馬の宮下瞳騎手(43)=竹口勝利厩舎=が7日、名古屋第6Rで3番人気のショウリオウ(牡3歳、植松則幸厩舎)に騎乗し、国内女性ジョッキーで初めてとなる年間100勝を達成した。

 鹿児島市出身で気が強い美人ジョッキー。ショウリオウとのコンビで「勝利女王」に輝いた。大台まで「あと2勝」に迫っていたが、1日3勝の固め勝ちであっさりクリア。100勝目はショウリオウとの息ピタリ、華麗な逃げ切りを決めた。地方競馬通算では915勝(12月10日現在)で、女性騎手の日本最多勝記録を更新中(2位は高知・別府真衣騎手の729勝)。もう一つの大きな夢である「通算1000勝」到達もぐっと近づいてきた。

 4年前の夏、日本唯一のママさんジョッキーとして現役復帰を果たした宮下騎手。翌年から61勝、53勝、49勝とコンスタントに50勝前後をマークしていたが、今年は一気に倍増の100勝突破を果たした。名古屋リーディングの4位にもつけており、躍進ぶりは「すごい」の一語。「1000勝できたら、かっこいいですね」という本人の言葉通り、新たな大台も来年にはクリアできそうな勢いだ。

2月の東海クラウンをメモリートニックで逃げ切り、笠松で3連勝を飾った宮下騎手

 コロナ禍で無観客レースになる直前の2月20日、笠松競馬場に宮下騎手の姿があった。最終のメインレース・東海クラウンをメモリートニックで逃げ切った。この開催、17日の黄梅賞をハッピーフェイスで制してから、笠松での騎乗機会3連勝と波に乗っていた。装鞍所エリアに戻ってくると、西日を浴びたゴーグル姿が輝いており、華麗で頼もしかった。1週前にはポルダディソーニで名古屋重賞・梅見月杯を勝ったばかり。「笠松で3連勝ですね。名古屋の重賞も勝ったし、最近絶好調だね」と声を掛けてみると、「いやー、昨年は笠松であんまり勝ってないですから、頑張ります」と笑顔キラキラ。

 「騎手に絶好調はないと思うよ。走るのは馬だからね」と、東海クラウン3着だった佐藤友則元騎手の声が聞こえてきたが、宮下騎手は半端なく「乗れている」状態だった。「今年は、かなり勝ちそうだ」と思ったが、予感は的中。この頃の勢いそのままに、その後も名古屋で勝利を量産し、晴れて100勝ラインを突破した。笠松では年間100レース以上騎乗していたこともあり、通算65勝を飾っている。コロナの影響で移動自粛もあって、宮下騎手の笠松での騎乗が少なくなったのは残念である。

 100勝達成後、喜びのコメント。

 宮下騎手「100勝は私にとって夢のような数字で、まだ実感がないですが、うれしいです。達成できたのは、関係者の皆さんにいい馬に乗せていただいたおかげで、感謝しています。日々勉強で『馬と一緒に楽しみながら競馬ができたらいいなあ』と感じています。攻め馬に行く前にストレッチをしていますが、けがのないように、一鞍一鞍大事に騎乗していきたいです」

 ■ポルタディソーニと出会い、重賞4勝
 
 それにしても、今年の飛躍は素晴らしい。これまで名古屋の重賞を5勝。初勝利はヘイセイチェッカーで制覇した2002年・クリスタルカップ。復帰後にコンビを組んだポルタディソーニ(牝6歳、吉岡泰治厩舎)では4勝を飾っている(17年・秋の鞍、18、20年・梅見月杯、19年・名港杯)。

ポルタディソーニとのコンビで重賞4勝を飾っている宮下瞳騎手。東海菊花賞では水野翔騎手ら笠松勢もパドックを周回した

 宮下騎手の今年の好調ぶりは、やはりポルタディソーニとの出会いが大きかった。JRA(1勝クラス)からの移籍馬で、先行策が得意な宮下騎手にとって、相性抜群のパートナー。逃げ、好位からの競馬で重賞ウイナーへと駆け上がった。「賢くて小さいのに根性がある。スタートと二の脚が速い馬なので、好ポジションを取りやすい」という元気娘。宮下騎手も重賞勝ちが自信になって好循環。信頼されるジョッキーとして有力馬への騎乗依頼が増え、勝ち星量産につなげた。

 数々の女性ジョッキー記録を更新してきた宮下騎手。先輩の小山信行騎手と結婚した05年、通算350勝目を笠松で達成。当時、吉岡牧子騎手(益田競馬)が持っていた女性騎手の日本最多勝記録に並んだ。マヨヒメに騎乗し、2着に半馬身差で勝利。場内で花束贈呈のセレモニーも行われた。

 2児のママとなり、復帰後も活躍。NARグランプリ優秀女性騎手賞には10回も輝き、「復帰してからは楽しんでレースに乗れています。(子どもたちも)勝ったときは一緒に喜んでくれ、力をもらっています。重賞をまた勝ちたいです」と語り、純粋にジョッキーライフを満喫。名古屋競馬場のスタンドでは「お母ちゃん、調子いいね。ほとんど馬券に絡んでる」とオールドファンの声を聞いたこともあった。

 円熟味を増した騎乗ぶりは、日本の女性ジョッキーのお手本。笠松でも見せてくれた「経済コースのインから、最後の直線で大外へ」といった力強い手綱さばきはすごみがあった。名古屋では水野翔騎手、渡辺竜也騎手らの騎乗も増えており、対戦が楽しみだし、笠松での騎乗がもっと増えるといい。
 
 地方競馬の女性ジョッキーは昨年3人、今年は2人がデビューし、増加傾向にある。宮下瞳、木之前葵(名古屋)、深沢杏花(笠松)、竹ケ原茉耶(ばんえい)、関本玲花(岩手)、中島良美、北島希望(浦和)、別府真衣、浜尚美(高知)、岩永千明(佐賀)の各騎手計10人が活躍。JRAで通算100勝を突破した藤田菜七子騎手の存在も大きく、女性ジョッキーに対する負担重量の減量制度は、笠松や名古屋でも昨春から2キロ減(従来は1キロ減)となり、騎乗機会の増加につながっている。

4月に笠松でデビューした深沢杏花騎手。勝利の味は格別だ(笠松競馬提供)

 ■深沢杏花騎手、3カ月ぶり勝利(笠松10勝目)

 笠松競馬で20年ぶりの女性ジョッキーとしてデビューしたのは深沢杏花騎手(18)=湯前良人厩舎=。順調に1着ゴールを積み重ねていたが、9月11日にナラ(湯前厩舎)で勝って以来、勝利から遠ざかっていた。騎乗馬の行き脚がつかずに後方のままというレースも目立ち、「勝てない日々がちょっと長いなあ」と心配していたが、3カ月ぶり、187戦目でようやくトンネルを脱出。4月のデビュー以来、無観客レースが続いていたが、笠松も9月22日から観客入りとなり、緊張感やプレッシャーがあったのでは...。

 12月4日の最終レース・初氷賞でマルヨバリオス(牡5歳、柴田高志厩舎)に騎乗。6番人気だったが、好位から抜け出して、筒井勇介騎手騎乗のライトリーに2馬身半差をつけての強い勝ち方。ゴールの瞬間、深沢騎手はその身を馬体に沈めるようにして、久々の勝利の喜びを全身で味わっていた。3着に入った木之前葵騎手からか、祝福の声も掛けられたようで、後ろを振り返って大きくうなずいていた深沢騎手。「ジョッキーをやっていて良かった」と体感できた格別の一瞬になった。ファンの前で待望の勝利を飾ることができ、ホッとしたことだろう。

 女性騎手は、かつての笠松でも2人が所属していた。1992年に17歳でデビューした中島広美騎手が最初で、通算120勝を挙げる活躍を見せた。田口輝彦騎手(現調教師)と結婚し、出産とともに現役を引退。両親がともに元笠松競馬騎手という貫太君(17)がJRAの騎手を目指して競馬学校に今春入学。2年3カ月後のデビューを目指している。笠松の女性2人目は93年デビューの岡河まき子騎手で、通算20勝を飾った。

 深沢騎手はこの秋、地方・中央交流のダートグレード競走にチャレンジするチャンスをもらった。白山大賞典(GⅢ)にリンクスゼロ(湯前厩舎)で挑み、武豊騎手、クリストフ・ルメール騎手ら名手と一緒にゲートイン。盛岡・南部杯(GⅠ)でも自厩舎のナラで挑戦。結果はともに大敗に終わったが、貴重な経験になった。1年目は「30勝」を目標にしていたが、馬場改修もあって、実質約7カ月で12勝(笠松10勝、名古屋2勝)。有力馬に乗る機会は少なく、まずまずの数字だろう。
 
 深沢騎手は水泳が得意競技で、地方競馬教養センター時代には男子を圧倒していた。最近はなかなか泳ぐ時間もないだろうが、総合的な身体能力は高いとみられ、ジョッキーとして今後の成長が期待されている。新人女性騎手に適用される「負担重量4キロ減」の有利さも生かして、スタンド、ゴール前やネット映像で応援するファンのハートを熱くする思い切った騎乗を見せたい。先輩騎手らのアドバイスをよく聞いて、挫折することなく、50勝、100勝ラインを突破して早く一人前に。笠松の女性ジョッキーとして先駆者である中島騎手の120勝超えも目指して、騎乗技術を磨いてほしい。