眼科医 岩瀬愛子氏
緑内障の治療に限らず、さまざまなところから処方された薬の情報を1冊に記録しておくための手帳を「お薬手帳」といいます。外来に来ている患者さんに見せていただくことがよくありますが、いろいろな使い方をされていて気になるので、この機会に説明したいと思います。
いつ、どこで、どんなお薬を処方してもらったかという情報は、すなわちご自身の健康の記録であり、大切な情報です。処方された薬を見れば何の治療をしているのか、すぐ分かるからです。複数の医療機関を受診している場合、他の医療機関での処方薬を見ることで治療中の病気の存在を知り、処方や治療方法を変えることがあります。
例えば緑内障で、閉塞(へいそく)隅角緑内障という型があります。この型は、抗コリン薬という種類の薬を使用するのは眼圧が上がるので禁忌とされています。抗コリン薬は病院で処方される薬だけではなく、市販薬にも使われています。花粉症やかゆみ止めの抗ヒスタミン薬、風邪薬、睡眠薬、酔い止めの薬、抗うつ薬、抗精神病薬、尿失禁の薬などの一部がそれに当たり、内科などで出されて飲んだ時だけ眼圧が上がっていることがあります。眼圧が不安定な理由が、こうした薬を飲んだからだと、お薬手帳を見せていただいて気付くことがあります。
また、ステロイドホルモンの内服薬や、アトピー性皮膚炎などで広範囲のステロイドホルモン軟こうを長期に使用している場合も、眼圧が上がることがあります。
逆に緑内障の薬で、不整脈や徐脈、ぜんそくが起こることもあります。長期通院されている患者さんで、初診時から年齢が上がり、不整脈やぜんそくになっていることがあります。そうと知らずに以前と同じ点眼薬を継続していて、咳(せき)が止まらなくなり、内科の咳止め薬がどんどん増量して処方されているのを発見したこともあります。そういう場合は、点眼薬を別の薬に変えます。
このように、別の医療機関で治療中の病気のことを自分から話されない場合も、お薬手帳を見せていただくことで、他の主治医と連絡を取って安全な処方に変えることができます。ところが、そんな大事な情報なのに、薬局でいただいたシールを捨ててしまったり、貼っていなかったりすることがあります。医療機関ごとに1冊ずつ持っている方もいます。それでは意味がありません。ぜひ、全てを1冊にまとめてください。
1冊にする以外に大事なのは、長い間使用して手帳が新しくなった時に、過去のアレルギーの記録や副作用が出た薬の記録などを、次の手帳に移行しておくことです。そして、携行するのは医療機関に通院する日だけではありません。旅行先で具合が悪くなって救急外来を受診する時、転居した時、災害時などにも、使用中の薬について全て自分で言える場合は少なく、お薬手帳が代弁してくれます。今回の新型コロナウイルスのワクチン接種の場合も、アレルギーの記録や副作用が過去に出た薬の情報は大切なので、書いてあるお薬手帳を持っていくようにしましょう。
時々、スマホのアプリでお薬情報を管理されている方がいます。薬の使用時刻にメッセージが来るなど便利な面もありますが、自分が倒れた時など、パスワードが分からないと医療機関の担当者は見ることができません。紙のお薬手帳が有用だと考えます。
(たじみ岩瀬眼科院長、多治見市本町)