皮膚科医 清島真理子氏
手足口病は名前の通り、手のひら、足の裏、口の粘膜に小さな水疱(すいほう)ができる感染症です。主にコクサッキーウイルスA16(CA16)、CA6、あるいはエンテロウイルス71(EV71)というウイルスが原因です。ウイルスに一度かかると終生免疫ができますが、原因ウイルスの種類が複数あるので、他のウイルスに感染して再び手足口病を発症することもあります。
7~8月に多く流行しますが、9~11月にも発生します。以前はCA16やEV71が数年周期で流行していましたが、最近は主にCA6による流行が1年おきに起きています。2022年には秋に小規模な流行がありました。今年は今のところ全国的な大流行はありませんが、もう少しの間注意が必要です。今回は手足口病についてお話しします。
小児に多く、大部分が5歳以下の乳幼児ですが、小学校でも時々流行があります。乳幼児からの家庭内感染や保育施設などでの職員への感染など、成人にも発症します。
症状は手のひら、指、足の裏、口の粘膜に小さな水疱が多発します=写真=。口の中では水疱がつぶれてびらんや潰瘍となることもあります。肘や膝、お尻、肛門周囲にも同じような皮疹が出ます。かゆみはなく、痛みや痛がゆさを感じることがあります。全身症状として発熱、下痢、食思不振を伴うことがあります。発熱は小児ではあっても微熱のことが多く、成人ではしばしば高熱となります。
ウイルスの種類によって症状が少し異なります。EV71が原因の場合には急性髄膜炎を合併しやすく、高熱、頭痛、嘔吐(おうと)などの症状が出て重症になります。CA6による場合の特徴は、皮疹消退後1~2カ月経過した頃に爪の横溝や爪の脱落が見られることです。爪はその後生えてきますので心配は要りません。
腸管内でウイルスが増殖するので、糞(ふん)便を介した感染がほとんどです。一部では咽頭(喉の後部)から排出されるウイルスの飛沫(ひまつ)感染もあります。感染の拡大防止のためには、感染者との濃厚接触を避けて、手指の消毒、排せつ物の適切な処理を徹底し、タオルや食器などを共有しないことが重要です。症状がなくなっても患者さんの便中では2~4週間、咽頭からは1~2週間にわたりウイルスが排せつされるので、便や唾液は感染源になる可能性があります。
手足口病はウイルスに対する薬もワクチンもありません。通常、特別な治療をしなくても回復しますが、口の痛みのために食事や水分が取れない時は脱水に気を付けて補液を行うこともあります。また、手足や口に水疱があって、高熱、頭痛、嘔吐が続く場合は髄膜炎を合併している可能性があるので早めにお近くの医療機関を受診してください。