ラブミーチャン記念をヴィヴィアンエイトで制覇し、笑顔の関係者

 予想通り「道営勢3頭立て」の競馬となった。2歳牝馬の地方全国交流重賞「第10回ラブミーチャン記念」(SPⅠ、1600メートル)が9日、笠松競馬場で行われ、北海道から遠征のヴィヴィアンエイト(斉藤正弘厩舎)が岡部誠騎手の騎乗で逃げ切り勝ち。2着に金沢シンデレラカップVのシトラルテミニ(田中学騎手)、3着にはバラライカ(今井貴大騎手)。道営勢のワンツースリーで3連単は450円と人気通りの決着になった。

 ラブミーチャン記念は世代別牝馬重賞シリーズ「グランダム・ジャパン」2歳シーズンの第6戦。ダートグレードを5勝、NARグランプリ年度代表馬に2度輝いた笠松の快速娘・ラブミーチャンの活躍をたたえる記念レース。

1周目ゴール前。道営勢3頭が先行し、上位を独占した

 ■岡部騎手の円熟の騎乗で逃げ切った

 ヴィヴィアンエイトはフリオーソ産駒でデビュー4戦目となった。前走、門別・ブロッサムカップを好位から差し切り勝ち。2着のモズミギカタアガリ(黒沢愛斗騎手)はその後、エーデルワイス賞(JpnⅢ)を制覇しており、ヴィヴィアンエイトの力上位は明らか。来年、地方通算5000勝に手が届きそうな岡部騎手の円熟の騎乗で、ヴィヴィアンエイトは格の違いを見せつけて重賞2連勝とした。

1着でゴールするヴィヴィアンエイトと岡部誠騎手

 道営勢3頭が先団を形成。好スタートから先手を奪ったヴィヴィアンエイトは、3コーナーで田中学騎手騎乗のシトラルテミニに迫られたが、最後は楽な手応えで抜け出し、2馬身差をつけて逃げ切った。バラライカにはさらに5馬身。金沢勢のショウガフクキタル(青柳正義騎手)が4着、笠松勢はエイシンコーネリア(丸野勝虎騎手)の5着が精いっぱいだった。バラライカは渡辺竜也騎手が落馬負傷のため、今井貴大騎手に騎乗変更となった。
 

ラブミーチャン記念を制し「パワーでねじ伏せた」と笑顔でレースを振り返る岡部騎手

 ■栗毛馬でかわいい顔「笠松まで来たかいがあった」

 ラブミーチャンと同じ栗毛馬で、初騎乗の岡部騎手はレース後「かわいい顔をしている。返し馬でも力を出せば負けないと思った。気持ち良くハナを主張したが、目標にされてちょっと厳しいペースでしたね」と回顧。4コーナーからはシトラルテミニを振り切って突き放す強い競馬を見せてくれた。

 「最後はこの馬がパワーでねじ伏せ、はるばる北海道から笠松まで来たかいがあった。これからもどんどん活躍してほしいですね」と完封劇を決めてにこやか。さらなる成長を期待していた。

  ヴィヴィアンエイトは昨秋の金沢シンデレラCに挑んで5着だった道営・アニモミホ(斉藤正弘厩舎)の妹。母はウイングパラダイスで、ともに岡部騎手が騎乗。縁のある血統で鮮やかな「秋の大輪」を咲かせた。
 

斉藤正弘調教師(中央)は「成長ぶりにびっくりです」と喜びを語った

 ■この馬の良さは「しぶとさですね」

 斉藤正弘調教師は「トップジョッキーの岡部騎手に任せた。内枠だったんで、行くなら行っていいよと。輸送もこなして、道営馬でほぼ門別の競馬をしている感じでうまくいき、ホッとしました」とにこやか。この馬の良さは「しぶとさですね。行って良し、ためて良し。成長ぶりにびっくりです」と。今後については「大井の東京2歳優駿牝馬に出たいね。冬場も門別での坂路調教を生かして、チャンスがあれば、またこちらへ」と意欲を示していた。
            

2年連続リーディングへ勝利を量産している渡辺竜也騎手

 ■渡辺騎手ら若手3人、調教・レースで相次ぎ負傷

 3番人気のバラライカは3着に粘り込んだが、騎乗予定だった渡辺竜也騎手にアクシデント発生。3Rで先頭を走っていたサラアデールが3コーナーで前のめりになり、渡辺騎手は振り落とされた。救急搬送されたが、受け答えができて意識はあったそうだ。けがの具合が心配されるが、顎の辺りを負傷したもよう。4R以降は騎乗変更となった(7頭とも名古屋の騎手)。最終日の10日も予定していた9頭で騎乗変更となった。

4月にデビューし、こつこつと勝利を積み重ねている松本一心騎手

 笠松の騎手はこのところ、調教中にも若手2人が受難。4月にデビューしたルーキーの松本一心騎手は足の肉離れのため「負傷療養中」となり、ラブミーチャン記念シリーズ4日間は騎乗できなかった。次回、21日からの笠松グランプリシリーズでは元気に復帰を果たせるといい。

通算100勝ラインを突破し、一人前のジョッキーになった深沢杏花騎手

 深沢杏花騎手は、開催初日の攻め馬で落馬し鼻骨を骨折。当日は騎乗できなかったが、2日目から痛みをこらえて元気いっぱい復帰した。レース後には「大丈夫です。痛いのは我慢しています」と7戦を無事乗りこなしてホッと一息。騎手控室では笑顔も見せていた。

 地方通算100勝ラインを突破し、一人前のジョッキーに仲間入りした深沢騎手。騎乗馬も増え、本番レース中はなかなか休めないようで「根性娘」ぶりを発揮。心配していたファンらも「頑張り屋さんだねえ」と奮闘ぶりをたたえていた。2日目は2着を含め「掲示板」が5回と大健闘。けがに強い一面を見せてくれた。

深夜から朝まで攻め馬に励むジョッキーや候補生

 ■1人で30頭前後に騎乗するハードワーク

 騎手不足の笠松競馬では、一時激減していた所属馬が徐々に増えてきている。深夜から始まる調教では、名古屋の騎手が乗ることはほとんどなく、レギュラーの11人は1人で30頭前後に騎乗するハードワーク。午前8時ごろまで、1頭15分刻みでびっしり乗ることもあり、落馬事故などが心配されている。笠松の場合、レースよりも攻め馬中のけがが多い傾向にある。各厩舎の調教助手や騎手候補生(2人)も騎乗しているが、本番で騎乗するレギュラーの負担はやはり大きい。

 3年前、笠松でも騎乗したことがあるJRAの山田敬士騎手は、9月に調教中に落馬し、左手を負傷。回復のめどが立たないため、引退を決断した。1年目に新潟で距離誤認。笠松では重賞の返し馬で落馬し「お騒がせジョッキー」でもあったが、母子家庭育ちで「弟2人を進学させたい」と頑張っていた。JRAで通算40勝を挙げたが、ジョッキーの道を断念することになるとは。ほのぼのとしたキャラで応援していただけに非常に残念だ。リハビリに励むとともに、今後は競馬関係の何らかの仕事で頑張ってほしいものだ。

本番に備え、不良馬場でも攻め馬をこなすジョッキー

 体重制限など厳しい体調管理が求められるジョッキー。特に若手は騎乗技術が未熟で、ひ弱さも目立ち、一層の体力強化が求められている。馬にまたがれば、攻め馬から真剣勝負であり、命懸けの仕事。ベテランも若手も十分な準備と細心の注意を払って騎乗を末永く続けていってほしい。

 ■ワラシベチョウジャはジュニアキングへ

 ところでラブミーチャン記念に「笠松の新星」ワラシベチョウジャの名がなかった。多くのファンが全国の強豪との対決を楽しみにしていただけに残念だった。これまで「月1」のローテーションで使われ、デビュー以来5連勝。笠松生え抜き馬で、笹野調教師も「ここが大きな目標だった」というネクストスター笠松(1着賞金1000万円)を勝ったことで「久々の大物登場」とファンも期待していた。

 主戦は渡辺騎手。元気に騎乗していた初日、2日目には4勝ずつの固め打ち。「きょうも勝ちまくったね」と声を掛けると「まくっています? いい馬に乗せてもらってますから」とのことだったが、人気通りに勝つのはすごいことだ。

ネクストスターを制覇した「笠松の新星」ワラシベチョウジャと渡辺騎手

 ワラシベチョウジャについても聞いてみた。次走は「ジュニアキングの予定です」とのことで、順調なら12月7日の登場となる。ラブミーチャン記念参戦は見送られたが「今回のような強いメンバーと戦いたかったんですけど。そうでないと馬が強くならないですよね」とちょっと残念そう。無傷の5連勝中だが「競走馬はどこかしらで負けるわけだし。ディープインパクトですら1回(有馬記念でハーツクライに)負けているから」と、強豪相手に敗れても大きな経験になることを強調した。

 これまでの5戦。2走目以降は全て中3週で使われてきたワラシベチョウジャ。ネクストスター(10月12日)からなら、中3週でラブミーチャン記念に出走可能ではあった。体調が悪いわけではなく、今は笠松の厩舎にいるそうで「元気ですよ。休むなら牧場に上げれば良かったですが、ずっとここにいて、攻め馬をしています。牧場で坂路などを走らせた方が成長するんですが」とも。

 期待の大きい生え抜き馬。「そんなにメチャ走るとは思っていないですが、成長のためには(ラブミーチャン記念で)強い馬に挑戦したかった」と本音を漏らし、愛馬の飛躍を願う渡辺騎手。地方重賞戦線をにらんだ熱い思いがひしひしと伝わってきた。

 2歳若駒で「未完の大器」と呼べるワラシベチョウジャ。「全国レベルの馬にどう育て上げるかは渡辺騎手の腕次第」と報道陣の期待も大きい。「弱いところを狙っていてはねえ。今のうちに成長させないと。決めるのは馬主さんや調教師の先生ですが」と、次世代スターの将来を見据えて乗り役としての高い志を示した。以前、名古屋には地元重賞を勝ちまくったサムライドライブやエムエスクイーンがいたが「内弁慶」の印象が強かった。ワラシベチョウジャには全国区での活躍を期待したい。

 次走ジュニアキングは2カ月ぶりのレースとなる。渡辺騎手のけがの状態も心配だが、持ち前のバイタリティーで早期復帰を果たし、ワラシベチョウジャとのコンビで笠松競馬を盛り上げてもらいたい。

ウマ娘ファンにも好評のラブミーチャン展

 ■ラブミーチャン展好評開催中

 ラブミーチャン記念の熱戦とともに、競馬場近くの笠松町歴史未来館では「ラブミーチャンのふるさとを訪ねて展」もファンの熱気でにぎわっている(~12月17日、月曜休館)。オグリキャップ、ライデンリーダーなど歴代名馬やラブミーチャンの主戦だった浜口楠彦騎手のコーナーもあり、盛りだくさんの内容。「ウマ娘シンデレラグレイ」の主役・オグリキャップのプリティーダービー等身大パネルではツーショット写真の記念撮影も楽しめる。笠松競馬ファンやウマ娘ファン必見の写真やグッズが並んでおり、入場無料なので気軽にのぞいてみてください。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。