「行け、行けー」の大声援に応えて深沢杏花騎手(笠松)が第1戦、ゴール直前で鮮やかに差し切り、ジョッキー戦で悲願の初勝利を飾った。
「LJSレディスジョッキーズシリーズ」ザ・ファイナルの名古屋ラウンドはナイター開催。笠松ラウンドではルーキーの小笠原羚騎手(名古屋)が2着、1着で総合トップに立ち、木之前騎手と深沢騎手が4位で並んだ。
小笠原騎手は笠松ラウンドに続き、名古屋最終戦で2勝目を挙げて総合V。深沢騎手は第2戦も7番人気馬で4着に食い込み、総合2位に入った。佐々木世麗騎手(兵庫)が3位に踏ん張り、3人は晴れの表彰台に上がり、スマイル全開で輝いた。
■第1戦グイッとひと伸び、深沢騎手歓喜のゴールイン
名古屋第1戦の6R、深沢騎手は3番人気のベアショット(牝3歳、坂口義幸厩舎)に騎乗。3番手から4コーナーでは逃げた中島良美騎手(浦和)を追って、外から2番手に浮上。最後の直線ではラスト50を切って、鋭い差し脚でグイッとひと伸び。塩津璃菜騎手(兵庫)の追撃をクビ差抑えて歓喜のゴールイン。
深沢騎手はこれまでのジョッキー戦ではレディス、ヤングとも騎乗馬に恵まれなかったこともあり、優勝や表彰台からは見放されていた。YJSで13戦勝利がなく、LJSでは21戦目でうれしい1着ゴール。優勝騎手インタビューで喜びを語った。
■お母さんら応援「心臓ドキドキ、バクバク」
JRA元騎手の細江純子さんが司会を務めた。ファンから「おめでとう」と祝福の声が飛び、深沢騎手は「素直にうれしいです。外枠だったので前めで競馬をしてほしいとだけ指示があり、返し馬の感じがとても良く、スタートもポンと出てくれた」と好発進。
「道中いつでも動ける状態で3コーナーまで行けて良かった。中島さんが早めに前へ動いていたが、じりじりと伸びて手応え良く3コーナーを回って大丈夫だなと。最後まで馬が伸びてくれて勝てました」と笑顔がはじけた。
深沢騎手は兵庫県姫路市出身でお母さん、お姉さんら家族も応援に駆け付けて、記念撮影で喜びを分かち合った。お母さんは大接戦だったゴールの瞬間「心臓がもうドキドキ、バクバクしていました。初めての感覚でしたね」と大喜び。
家族は笠松ラウンドでもゴール前で声援を送っていた。深沢騎手がレディス戦前の4Rを勝った姿を見て「良かったです」とお姉さん。LJS3着では「頑張っていたと思います」とお母さん。深沢騎手はこのところ、7番人気馬で後方から差し切り勝ちもあり、調子を上げていた。
■師匠にも「表彰台に乗ってこいよ」と励まされ
深沢騎手は検量室前でも取材陣のインタビューに爽やかな表情。「3番手から理想通りの競馬ができたし手応えがあった。(3着の)中島さんの仕掛けが早かったのでちょっと焦りました。(ゴール直前)後ろから脚音も聞こえてきて『やばい、残ってくれ』と。最後は馬が頑張ってくれました」
出遅れて届かず2着の塩津騎手は悔しがっていた。笠松で最後差されて3着があった深沢騎手は「気持ち分かります。笠松では悔しかったので勝ちたいなと。結果を残せて良かった。渡辺騎手たちに『頑張ってこいよ』と言われ、調教時には先生に『表彰台に乗ってこいよ』と。(名古屋で騎乗した)兄弟子の筒井騎手にも励まされて、ちゃんと勝てて良かったです」とプレッシャーもあったが勝利で期待に応えた。
ゴールの瞬間は「ハナぐらいは出ていて、勝ったのが分かった。(騎乗馬の)8番が表示されて良かったです」。名古屋での騎乗は増えており通算6勝目。「普段から名古屋でも乗っていて良かった。(コース取りは)内から外に出さないといけないから。相手は瞳さんと璃菜ちゃんだと思っていた」。4位から30ポイント上乗せでトップとは7ポイント差の総合2位に浮上。2着で総合5位に上がった塩津騎手と健闘を誓い合い「優勝のチャンスありますね。ここまで来たからには勝ちたいですね。頑張ります」と闘志。ファンが差し出す多くの色紙にサインで応えていた。
■第2戦は小笠原騎手が制し宮下騎手2着、深沢騎手4着
第2戦の8Rは宮下瞳騎手が断トツ人気(単勝1.3倍)。先行した塩津騎手と神尾香澄騎手(川崎)が失速。好位から浮上した宮下騎手と小笠原騎手の一騎打ちとなった。最後は4番人気ミキノオーボエ(牝3歳、井上哲厩舎)に騎乗した小笠原騎手が抜け出して1着ゴール。宮下騎手は1馬身差の2着。
第1戦出走馬取り消しのためシリーズ3連覇に挑めなかった木之前葵騎手が意地を見せ、3着に追い込んだ。上位3着までを名古屋勢が独占、笠松の深沢騎手が4着で続き、それぞれ地の利を生かした結果となった。
総合トップを狙っていた深沢騎手。7番人気馬とのコンビで、5番手から4コーナーではいい感じで上位争いに加わる勢い。直線では3番手に押し上げたが、最後は木之前騎手にかわされて4着だった。
検量室前に戻ってきた深沢騎手。総合順位は「2位だと思います」とうれしそう。まずは4着で掲示板を確保し「表彰台」を確定させた。
■「おばあちゃんに勝ったところを初めて見せられた」
勝利騎手インタビューで小笠原騎手は地元ファンに迎えられてにこやか。笠松に続く勝利で総合優勝も決め「すごくうれしいです。1戦目は失敗でしたが、2戦目は先輩や先生のアドバイスを受けてうまく乗れた。瞳さんの馬がすごく強いと思い、目標にして大外から全体の流れを見て乗れた。3コーナー馬なりで上がっていき、直線で抜けてこのままに逃げ切れると」。
家族も応援に駆け付け「おばあちゃんに直接勝ったところを初めて見せられて『おめでとう』と言われ良かった」と総合Vの喜びに浸った。
■宮下騎手「調教師になってから乗ってもらおうと」
2着に敗れた宮下瞳騎手。5Rでは華麗に逃げ切って地方通算1382勝目を飾った。既に調教師免許に合格し、11月いっぱいでジョッキー生活に別れを告げる。LJSは総合4位に終わり「すごくいい馬に乗せてもらったのに結果を出せず残念でした。もっと馬のペースで走らせてあげればよかった」と振り返った。
それでも「羚ちゃんが勝てて良かった。どんどん上手になっていて、調教師になってから乗ってもらおうと思っています。騎乗してもらえるような馬をつくっていきたい。(レースでは)今までライバルでもあり、教えられない部分もたくさんあったけど、今後は全て教えられる側になるので、ペース配分とかいろいろとアドバイスしてあげたい」と新たな調教師への道に意欲を示していた。
「騎手免許取得」では5か月ほど後輩だった細江さんは、宮下騎手に声を掛け、調教師試験合格などを祝福。「(8Rの騎乗馬は)ちょっと人気になり過ぎたね。まだキャリアはダート2戦目だったし」。2着という結果に残念そうだったが、半端ないオーラを感じさせるお二人で素晴らしい存在感。ツーショット写真は「永久保存版」にもなった。
木之前葵騎手は「一生懸命追っていたら、最後に動いてくれました」と深沢騎手を追い抜いて3着を確保した。第1戦で騎乗できず、3連覇を逃したのは残念だった。
■「表彰台に上がるとお肉がもらえるね」
4着に食い込んだ深沢騎手は「羚ちゃんより先着しないと優勝はないので、内に閉じ込めたかったが、前へ行かれた。瞳さんもマークしていて4コーナーでは『あるかな』という感じでしたが、最後は追い出したら伸びあぐねてしまった。3着はほしかったですね。でも人気よりも上に来たんで良かった。レディスは初めての表彰台でうれしいですけど、2位なんで悔しいですね」。総合3位に入った佐々木騎手とも喜び合い「一緒に表彰台に上がるとお肉がもらえるね」と賞品の話で盛り上がり、うれしそうだった。
お母さんら家族が目の前で応援していて、深沢騎手は「だいたい来ているときは負けるんですが、勝てて良かった。あしたはテンション高めで調教乗れそうです」とルンルンだった。
ナイター開催の総合表彰式後は地元に戻り、寝る間もほとんどなく、未明の0時15分から朝7~8時まで笠松競馬場でびっしり攻め馬に励む。ブラックコーヒーやエナジードリンクで活力アップ。太陽が昇ると眠くなるそうだが、元気に1頭ずつ丁寧に場内を周回。ハードスケジュールをこなして、翌日からのレース本番に備えた。
■LJSファイナル「寂しいですね。JRAの騎手含め交流できるといい」
女性ジョッキーが華麗な手綱さばきで競うLJSは今回でラストとなった。JRAの騎手を含めより多くの女性騎手が参戦することで「復活」も期待されているが、まだ何も決まっていないようだ。
LJSの存在意義について深沢騎手は「全国の女性騎手たちが集まって情報交換したり、技術を競い合う場として毎年楽しみにしてきた。個人的には世麗ちゃんや玲花先輩と仲がいいんで、たまに遊びにも行きます。(LJSは)他のジョッキーとも会えていろいろ話ができ、すごくいい時間です。レースではちょっとバチバチというか真剣に乗っているが、それ以外ではキャッキャッしていますね」。
普段のレースと比べて「こういう特別なレースで勝つとさらにうれしさが増します」。今回でLJSはラストになり「寂しいですね。JRAの騎手とも交流できるといいですね。年も近いですし、人数も多くて盛り上がるので」と深沢騎手。宮下騎手は「レディスが最後となり、ジーンとくるものがあった。ゲート裏とかで最後かあと改めて思いました」と残念がった。レディス戦の復活を望む声は、他の女性騎手や応援するファンからも多く聞かれ、主催者側の熱意が期待されている。
■「1勝ずつ積み重ねて」「信頼されるジョッキーに」
9R後の総合表彰式で上位3人が表彰台に上がり、活躍がたたえられた。
初出場で総合Ⅴを飾った小笠原騎手は「こんな機会で勝つことができてうれしいです。緊張しましたが、他場の先輩騎手との違ったレース展開を見ることができた。1勝ずつ積み重ねていけるよう頑張っていきたい」。
LJSは4位が最高だった深沢騎手は総合2位で「(第1戦で)勝つことができて良かったです。大勢の女性騎手と乗ることができていいレディス戦でした。1鞍1鞍大切に騎乗し、関係者の皆さんに信頼されるジョッキーを目指します」。
前回2位だった佐々木騎手は3位。2戦目5着で「直線で伸ばしきれなかったのは自分の技術不足でした。最後まで1位を取れず、また悔しい結果になりました。地元の競馬場で1鞍ずつ勝っていきたいです」。
賞品として「みかわ牛」のおいしいお肉の詰め合わせも贈られ、3人はうれしそう。表彰台前に詰めかけたファンからは「杏花ちゃん、おめでとう」などと声援が飛んでいた。
レース前には紹介セレモニーが開かれ、出場騎手9人の紹介&一言インタビューもあった。
宮下瞳騎手は「最後になるので、皆さんに楽しんでいただけるよう、悔いのないレースをしたい」と、深沢騎手は「いつも騎乗している名古屋なので、しっかり乗って頑張ります」とアピールした。現在妊娠のため休職中の浜尚美騎手(高知)も笠松ラウンドに続いて名古屋にも来場し、9人にエールを送った。
スタンドには家族も来ていた深沢騎手。紹介式で手にした花束は「小さい女の子にあげました」とファンたちとの交流も深めていた。
■深沢騎手、飛躍へ大きな一歩
深沢騎手は2年前、金沢での敬馬賞(準重賞)を10歳馬ツクバキセキで勝ったことがあったが、ジョッキー戦は、ほろ苦い思いが多かった。特にYJSでは「くじ運」が悪くて10番人気ぐらいの馬が多く、悔しさも味わってきた。
それだけに「ヤングでも勝っていなかったが、きょうはいい馬が当たりましたね」と勝利の女神がほほ笑んでくれ、ラストチャンスを生かすことができた。デビューして6年目。競馬場の不祥事でレースには騎乗できない時もあったが、今回の1勝はジョッキー人生での飛躍へ大きな一歩となった。
■LJS最終順位
(名古屋1、2戦着順と総合ポイント)
P
①小笠原羚(愛知) 6着 1着 88
②深沢杏花(笠松) 1着 4着 63
③佐々木世麗(兵庫)7着 5着 48
④宮下瞳(愛知) 8着 2着 44
⑤神尾香澄(川崎) 5着 8着 42
⑥木之前葵(愛知) ― 3着 42
⑦塩津璃菜(兵庫) 2着 7着 40
⑧中島良美(浦和) 3着 6着 35
⑨関本玲花(岩手) 4着 9着 30
(同点の場合は最上位の着順優先)
■師匠の田口輝彦調教師は地方通算1000勝を達成
笠松競馬は変則日程で、年末まで毎週2日ほど開催される。LJS総合2位で表彰台からの素晴らしい景色を眺めることができた深沢騎手は「うれしかったです」とにこやか。「田口先生や筒井さん、渡辺さんらにも『よく頑張ったね、おめでとう』と言ってもらいました」と喜んでいた。
所属厩舎の師匠である田口輝彦調教師(60)は11月27日の笠松10R、中央重賞2着がある11歳馬ヒストリーメイカー(筒井勇介騎手騎乗)で地方競馬通算1000勝を達成した。深沢騎手がプラカードを持ち、笠松・名古屋の調教師、ジョッキーらが偉業を祝福した。2002年4月の初出走から8532戦目。ミツアキタービン(オグリキャップ記念)、イイネイイネイイネ(くろゆり賞)など重賞は18勝。名トレーナーとして信頼は厚く、田口貫太JRA騎手のパパとしても知られている。
現在、笠松競馬エースの渡辺騎手はレース直後に負った脚のけがで療養・充電中だが、持ち前の回復力で早期復帰を目指している。笠松競馬場内で実習に励む小林樹騎手候補生は、笹野博司厩舎の調教も手伝い、毎朝25頭ほどの攻め馬にチャレンジ。笠松のジョッキーは少人数でも深夜から精力的に頑張っている。過酷な日々は続くが、けがには十分気を付けてレースに備えていただきたい。
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
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