耕作されなくなった農地が増えています。なぜ増えているのでしょうか。理由を探るため、記者は山の茶畑へ草取りに向かいました。高齢化や低価格など、一筋縄ではいかない現状がそこにはありました。

茶畑で草取りする記者=いずれも揖斐川町春日六合、上ケ流地区

 11月中旬のある日。車で目的地に近づくにつれ、冷たい雨はしぐれてきました。狭い山道を抜けると一気に空間が広がりました。岐阜県揖斐郡揖斐川町春日六合の上ケ流地区。「天空の古来茶」と呼ばれる在来品種を栽培していることで知られています。標高300メートルを超える一帯には茶畑が広がり、「岐阜のマチュピチュ」とも呼ばれます。この茶畑の一角がピンチだといいます。

展望スポットから一望できる茶畑。その美しさから「岐阜のマチュピチュ」と呼ばれる(2018年9月撮影)

◆「ヤマビルに気をつけて」

 ある所有者が今年、高齢を理由に茶作りをやめました。この茶畑は上ケ流地区の茶畑中心部にあり、手が入らなくなるとススキや雑草が生え、茶畑全体の景観を損なう可能性があります。危機感を覚えた関係者が募った草取りボランティアに参加させてもらいました。

 最初にしたのは、作業着の裾をガムテープでぐるぐる巻いたこと。「これだけ寒いとまず大丈夫だけど、ヤマビルがいるかもしれないから」。ヤマビル怖い(被害には遭いませんでした)。

 案内された茶畑は1ヘクタールぐらいでしょうか。在来種の茶畑です。一部にササが侵入しています。この茶畑の草を取り、お茶の木の上部を整えることが今回のミッションです。

 なぜこの時期に草取りや枝を整えたりするのでしょうか。来年春のお茶の葉を育てるためです。整枝(せいし)作業といい、この時期にしないと来春に新芽が出てこないそうです。

草取りをした茶畑

◆モザイク状の茶畑は美しいが、歩きにくい

 茶畑に入ります。在来種のお茶の木はモザイクのように育ちます。それが美しいのですが、木の間を歩くのは苦労します。間隔は30センチほど。狭くて歩きにくいです。目的地にようやく到達し、草を取ります。「来年出てくる新芽が枯れるから、取った草は茶の木の上に載せない」「繁殖しないよう取った草はしっかり回収して」などの注意を受けながら手作業です。中には小さなとげがびっしり生えた草もあります。手袋をしているのですが、布を突き通して指に刺さります。痛い。

フカフカの土。根っこもするっと抜ける

◆フカフカの土をつくった人たちがいる

 それにしてもほとんどの草は意外と楽に抜けます。不思議に思い、土を見てみるとフカフカです! 根っこからするっと抜けるのです。拾った落ち葉を入れているそうです。

 上ケ流茶生産組合長の佐名敏己さん(73)によると、一帯の茶畑には昔から山の草木を入れ、有機肥料を入れ、育ててきたといいます。

 時間をかけて茶畑自体を育ててきた人たちがいたことを感じずにはいられません。耕作をやめるということは、そうした人の営み自体をストップしてしまうことです。上ケ流地区ではピーク時には26ヘクタール茶畑がありました。今は半分ぐらいになったそうです。なんとかならないのでしょうか。...