泌尿器科医 三輪好生氏

 中高年男性で病気でもないのに何となく体がだるい、意欲が湧かないなどの不調を感じることはないでしょうか。このような時に見過ごしてはいけないのが男性更年期障害です。2021年の調査では、中高年就労男性のおよそ1割が更年期障害に苦しんでいるという調査結果があります。

 女性の更年期障害は女性ホルモンであるエストロゲンの低下が原因ですが、男性の場合は男性ホルモンであるテストステロンの低下が原因と考えられています。女性ではエストロゲンが急に減少する閉経時期の50歳前後に発症しやすいのに対し、男性のテストステロンは20歳前後をピークに以後緩やかに減少していくため発症時期は定まっていません。40代以降のどの時期でも起こり得ます。

 テストステロン分泌の異常を来すような病気やテストステロンを作る睾丸(こうがん)に異常がないにもかかわらず、加齢またはストレスに伴いテストステロンが低下することで起こる症状のことを加齢男性・性腺機能低下症(late-onset hypogonadism、LOH)症候群と呼びます。

 LOH症候群の症状は、全身倦怠(けんたい)感、性欲低下、筋力低下、ED(勃起不全)、集中力低下、不眠、いらいらなど多岐にわたります。また、加齢男性のテストステロンの減少は心血管疾患や糖尿病の危険因子といわれています。

 診断は体調不良などの自覚症状の評価とテストステロンの採血によって行われます。LOH症候群と診断された後の治療方法には行動療法と薬物療法があります。行動療法としてはストレスの解消や十分な睡眠、運動や食事療法などがあります。肥満やメタボリック症候群はテストステロンを低下させる原因といわれており、食事療法による減量や生活習慣の改善が有効です。ウオーキングやジョギングなどの有酸素運動はテストステロンを増加させます。運動療法として1回40~60分程度の有酸素運動を週に3日以上実施することが有効です。

 薬物療法としてはテストステロン製剤の筋肉注射を定期的に打つ方法があります。保険適応外ですが男性ホルモンのクリーム剤もあります。前立腺がんや男性乳がんの治療を受けている人はがんを悪化させる可能性があるのでこれらの薬剤は使用できません。症状の緩和を目的として漢方薬や抗うつ薬、抗不安薬、ED治療薬などを使用することもあります。治療を希望する場合は男性更年期の専門外来を設けている病院やクリニックを受診することをお勧めします。またLOH症候群は日常のストレスや生活習慣の乱れなどと密接に関わっていることを考えると、行動療法などまず自分でできることから改善を試みるのも良いと思います。