笠松競馬でデビュー。パドックから返し馬に向かう明星晴大騎手 

 惜しい! 歓喜のゴール目前で差し返され、初勝利まであと一歩だった。

 笠松競馬に頼もしい新人ジョッキーがデビューした。17歳の明星晴大(みょうじょう・せいだい)騎手で「新星」キラリ。名前の通り爽やかな好青年が早春の日差しを浴びて躍動した。

 身長168センチの大型新人で、父は競輪選手として活躍中の明星晴道さん=愛媛=。同じ公営競技の世界で夢に向かってチャレンジする「黄金ルーキー」のデビュー戦からの奮闘ぶりを追った。

 開催4日間、勝利は逃したが11戦して2着3回、3着2回と馬券圏内によく絡んだ。連対率27%、3着率は45%。この数字だけでも将来性豊かな新人といえよう。

 4月1日、明星騎手は笠松2Rでいきなり3着に追い込むと、5Rでも2着に押し上げて上位に食い込んだ。ファンには「最初から結構乗れるなあ」といった印象を与え、愛媛県からはご家族も応援に訪れ、スタンドから熱い声援を送った。

 昨年7月から約5カ月間、笠松競馬場内で騎手候補生として、攻め馬などの実習に励んだ。地方競馬教養センター第105期生として「努力と感謝を忘れず、誰からも信頼される騎手になれるよう頑張ります」と2年間学び、晴れて騎手免許試験に合格した。

パドック前で整列した明星騎手(左)ら。ファンにあいさつし、騎乗馬とレースに向かう

 ■身長168センチで笠松、名古屋随一の長身

 地方騎手免許の交付は4月1日付。明星騎手は2007年2月10日生まれで、今年の新人14人のうちでは「最年少」ともいえるが、デビュー戦は一番乗りとなった。愛媛県新居浜市の出身。身長168センチは笠松、名古屋の所属騎手では随一の長身で、パドック前での整列でも「高いなあ」とファンの声が飛び、目立っている。リーディング上位の後藤佑耶厩舎に所属し、長江慶悟騎手は兄弟子。勝負服のデザインは「胴黒・黄星散らし」で、好きな戦法は「逃げ」。笠松の地でゲートインを果たし、長いジョッキー人生の第一歩を踏み出した。 

 他場に比べて半数程度とジョッキー不足の笠松競馬では、明星騎手の加入でようやく12人になった。それでも松本剛志騎手と長江騎手は負傷療養中で、厳しい状況が続いている。年齢層は10~20代が6人で半数になり、エースの渡辺竜也騎手をはじめ若手の活躍が目立ち、中堅・ベテランや名古屋勢との攻防は見応えがある。

 ■積極策、3コーナーで先頭を奪った

 明星騎手、初日は4鞍騎乗。ゲートから出遅れることはなくスタートダッシュを決めた。惜しかったのは5R。積極策で3コーナーでは先頭を奪った。「もしかして」と初勝利の期待も高まったが、最後は伸び切れずに2馬身半差の2着。最終12Rでは自厩舎のヒルノグラスゴーで4番人気。最後方からで「これは厳しいかな」という位置取りだったが、4コーナー大外を回って4着に追い上げた。騎乗した4頭とも5番人気以内で、ファンの後押しを背に受けてよく踏ん張った。

初日12R、自厩舎の馬で最後方から追い上げて4着でゴールする明星騎手(6)

 ■「緊張しましたが、初勝利目指したい」

  最終レース後、デビュー初日の騎乗を終えた明星騎手に感想を聞いた。

 ―12Rは最後方からよく追い込んできた。4鞍乗って2、3着もあったね。

 「最後は4着でした。(4鞍騎乗は)しんどかったです。内容的にはどうですかねえ。5Rで邪魔しちゃいましたし。まあ、緊張しましたが、初勝利目指して頑張りたいです」

 ―家族や先生には何か声を掛けられましたか。

 「家族には『頑張れよ』と言われました。先生には『思い切っていけよ』と言われ、そうしたつもりでしたが、思うようにいきませんでした。無事に帰ってこられたことは良かったです」

 惜しいレースがあり、もうちょっとだった。初日から馬券に絡んで、騎乗馬次第では初勝利が近いかも。

 身長は候補生の頃から伸びてはおらず、体重は48キロ。細身でどうやら食べても太らない体質か。騎手としては大切なことで、後藤佑耶調教師には「体重調整や騎乗技術をアップさせるよう頑張って」と言われて日々精進。昨春入った松本一心騎手や厩舎先輩の長江騎手ら若手と競いながら一人前のジョッキーへと歩んでいきたい。

紹介セレモニーで「笠松競馬場を盛り上げていけるように頑張ります」とあいさつする明星騎手

 ■「笠松競馬場を盛り上げていけるよう頑張ります」

 初日8R後には明星騎手の紹介セレモニーも開かれ、ファンに温かく迎えられた。笠松と名古屋の先輩騎手計8人も「新人ジョッキーの応援団」として勢ぞろい。けがで休んでいる兄弟子・長江騎手の姿もあった。

 ジョッキーになったきっかけは「父と高知競馬場に行き、そこで見た競馬の迫力に憧れて騎手を目指しました」。競輪選手のお父さんからは「同じスポーツ選手としての心構えを教えてもらいました。これから精いっぱい笠松競馬場を盛り上げていけるように頑張ります。応援をよろしくお願いします」と詰め掛けたファンの前で力強く決意を語った。

 花束が贈呈された後、調騎会会長の後藤正義調教師から記念品としてレース用のムチも贈られた。ファンから大きな拍手が湧き起こり、ジョッキ―人生のスタートを祝った。

 ■「感謝 笑顔」の横断幕掲示、家族で応援

 スタンドには愛媛から駆け付けたご両親ら家族5人の姿があり、「感謝 笑顔」と書かれた横断幕を掲示するなどして熱烈応援。前半のレースで3着、2着があり、初勝利も期待しながら「とにかく無事でゴールしてほしい」と温かく見守った。紹介セレモニー後、ご両親に話を聞いた。

「明星晴大 感謝 笑顔」と書かれた横断幕の前で応援するご家族 

 ■競輪でも「お客さんのいないレースは寂しい」

 父・晴道さんは競輪選手として東海地区でのレースに参戦することも多いそうだ。

 「大垣や岐阜のレースでは、こっちに来て走ることもあるので、日程が合えば晴大のレースを見て帰ろうかなあと。競輪のレースはすごく変則的で、開催予定はバラバラですね。モーニング、普通、ナイター、ミッドナイトと朝8時半から夜11時半まで、四つに分かれています。無観客(大垣などのミッドナイトは全て)には慣れてきましたが、お客さんのいないレースは寂しいですね」

 晴大君は「お父さんのような公営競技に憧れて」とジョッキーを目指したそうで、やはり影響を受けたようだ。

 「どうなんですかね。ジョッキーという仕事を、僕らから押し付けることは一切なかったです。むしろすごく特殊な世界で、ちょっと難しいんじゃないかと思っていました。高知競馬には一緒に行ったこともあり、興味を持ったんだと思います。身長は騎手にしては伸びた方ですね」。お父さんは189センチとさらに長身で、競輪選手として高い身体能力をキープされている。           

 ■「レースに乗せてもらえるだけでもありがたいこと」

 晴大君に期待することは「本人がこうだと思って頑張ってやってくれることが一番です。技術とかは先生や先輩に聞いて徐々に上がっていくと思いますから」

 笠松は若手が増えている。お世話になっている後藤佑耶厩舎は名門。今年、リーディングで一時トップに立ち、現在は2位。いい馬がそろっており「チャンスもあるでしょうか。でもあいつは取りあえず、レースに乗せてもらえるだけでもありがたいことです。初日のきょうは4鞍も乗せてもらって。12Rもドキドキしますね」と笠松デビューに胸をときめかして、一家で勇姿を見守った。

 JRAや地方競馬の若手騎手が対決するヤングジョッキーズシリーズは笠松ラウンドも開かれる。「1年目から乗ることができるんですね。地元出身でもある田口貫太騎手の名前はよく聞きますし、(晴大には)とにかく真面目に頑張ってほしいです」と長いジョッキー人生に期待を込めていた。   

愛媛から応援に訪れた家族と活躍を誓う明星騎手

 ■「皆さんに感謝し、努力を続けることを忘れずに」

 晴大君のお母さんには、まずどんな性格なのか聞いた。「わりと何でも器用な子で、小さい頃から運動が好きでした。野球では、守備練習とか家に帰ってからも自分一人で暗くなるまでやっていました。何かに夢中になると一生懸命に取り組む性格ですね。小中学校ではサードなどを守ることが多かったです」

 初日から好成績の晴大君に対して。「いまできることは皆さんに感謝をすること。努力を続けることを忘れないようにしてほしいです。(レースでの)勝ち負けはよく分からないですが、お父さんがやっている競輪とは違って、私から見た競馬は『チームスポーツ』のように思え、いろいろな人が関わることが多いので、常にそういう人たちに感謝の気持ちを忘れないでいてほしいですね。応援の幕の『感謝』は本人が好きな言葉として入れ、『笑顔』はおじいちゃんが選んでくれた言葉です」

 第1志望は高知だったそうだが、笠松には縁があって来ることになった。「高知は地元から一番近い所で、希望は出していたようです。私たち家族はどこでもこだわりはなく、本人が行きたい所ということで笠松に」と最終レースまで家族5人で声援を送った。愛媛から車で来たそうで、お姉さんらは雨の中、2日目のレースでも晴大君の活躍ぶりを見守った。

2日目1R、ゴール目前で差し返されて惜しくも2着だった明星騎手(右)  

 ■1番人気、先頭に立ったが悔しい2着

 2日目1Rの3歳未勝利戦。明星騎手が騎乗するセレシュ(牝3歳、伊藤強一厩舎)には専門紙などに本命の◎印が付いており、1番人気に推された。「初勝利なるかも」と笠松競馬場に駆け付けると、装鞍所騎乗でパドックに明星騎手の姿はなし。癖馬なのか出遅れたレースもあったが「家族も観戦しているここで決めてほしいな」と1着ゴールを願って観戦した。

 展開的には3番手を進み、3コーナーからは塚本征吾騎手や渡辺竜也騎手との競り合いになり、明星騎手が先頭を奪った。最後の直線でもリードしていたがラスト50を切って、インから伸びた塚本騎手の騎乗馬がクビ差先着。明星騎手は悔しい2着に終わった。

 ■「チャンスでしたが、焦りました」

 場内のファンから「経験の差やなあ」との声も聞こえてきた。リプレー映像では塚本征吾騎手の追いっぷりは迫力があるし、明星騎手の手綱さばきやムチの使い方はやや弱いように見えた。それでも笠松リーディングと名古屋の伸び盛りの若手騎手との先頭争いに加われたことは大きな経験になった。

笠松競馬場でデビューを果たし、ファンの前で笑顔を見せる明星騎手

 レース後、明星騎手は「勝つチャンスだったですが、ゴール前では焦りました。また抜かれて」と悔しそうな表情だった。先頭に立ちながら、初日に続いて後続馬に差されて初勝利はお預けとなったのだ。

 ■ブービー人気馬で2着3着、メイン淡墨桜特別にも騎乗

 最終日の5日は4鞍。6Rは8頭立ての7番人気で苦戦が予想されたが、インを突いて3着。8Rでは単勝53倍のブービー人気馬を再びインから2着に食い込ませ、ともに高配当を呼んだ。

 メインレースの淡墨桜特別(A3特別)にも騎乗。クロフネ産駒のタイガーアチーヴ(牡8歳、栗本陽一厩舎)で、単勝万馬券の最低人気。9着には終わったが、東海ダービー2着のイイネイイネイイネも参戦したレースで、素晴らしい経験になった。

 ■将来性豊か、まずは先行策で初勝利を

 将来性豊かな新人ジョッキー。4日間のレースを終えて、人気薄の馬での好走も目立ち、笠松ファンにとっては馬券作戦の上でも無視できない存在になりそうだ。「逃げ」が好きなら、先行有利な笠松コースにマッチ。若手は有力馬に騎乗することは少ないが、穴馬をいかに上位に入線させ、少しずつ信頼される騎手になるかが鍵。スタートセンスやコース取りもまずまずの明星騎手。まずは3キロ減の特典を生かした先行策で初勝利をゲットしたい。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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