記録係。プロの対局を記録する人を指す言葉です。タイトル戦などではプロが務めることもありますが、ほとんどは奨励会員が務めます。
東京と大阪にある将棋会館近県に住む奨励会員は、中学生から記録係をします。息子のように遠方から通う子は、高校生になるまでは記録係を免除されます。
息子は中学3年生の冬、奨励会幹事で棋士の西川和宏先生から電話がありました。「高校生になると記録係をしてもらわないといけないので、まずは、講習を受けてください」とのことでした。その後、息子は講習を受け、初めて記録係を務めました。高校生になると、本格的に取り組むことになります。
当時は、服部慎一郎現六段、冨田誠也現五段、井田明宏現四段といった先輩方が、記録係に意欲的に手を挙げ、熱心に取り組まれていました。
息子はそんな先輩方の様子を見て、自分も積極的に記録係をしようと思ったようです。よく「記録係を頑張っている先輩は、みんな強くなっている」と話していました。
プロが真剣に対局する姿を見ることは、それだけでも刺激になります。また、対局の間、同じ局面について自分も考え、プロの指し手との違いを考えることは、勉強になります。
対局後は、対局を最初から振り返り、検討する感想戦が行われます。そこでは、棋士が考えていたことが分かるため、特に勉強になったようです。息子はよく、「棋士は、序盤からさまざまな変化を考えていてすごい。読みの量が違う」と話していました。
対局後、棋士がねぎらいの言葉をかけてくれたり、感想戦で意見を求められたりすることもありました。そういったときは、とても喜んで話してくれました。
特に興奮して話していたのは、羽生善治現将棋連盟会長がタイトル獲得数100期を懸けて、豊島将之現九段に挑戦した竜王戦です。息子は、京都の総本山仁和寺で行われた第3局の記録係をしました。
2人の棋士の強さに驚いたことに加えて、「羽生先生は、オーラが違う。現れるだけで場の雰囲気が変わる。本当にすごい」と、何度も話していました。
プロを目指す奨励会員が、プロの対局の記録係をする。プロの世界でそういうケースはあまりないように感じますが、この将棋界のシステムは、とても良いものだと思います。
先輩の真剣な姿から、後輩が学ぶ。そのようにして、将棋界の伝統が引き継がれているのかなと感じています。
(「文聞分」主宰・高田浩史)