精神科医 塩入俊樹さん

 適応障害という病名を聞いたことはありませんか? 最近、精神科や心療内科などの専門医療機関で、診断書に書かれることの多い病名の一つです。ちなみに適応とは「ある状況に合うこと。また、環境に合うように行動の仕方や考え方を変えること」です。では、「こころの病気」としての適応障害とは、いったいどんな病気なのでしょうか?

 適応障害と診断がなされるためには、以下の五つの基準を満たす必要があります。

①はっきりと(患者さんご本人だけでなく、会社や家族、知人など周囲の人によって)確認できるストレスの強い出来事(=ストレス因)の後、3カ月以内に症状や行動の変化が出ていること

②これらの症状あるいは行動の変化が、患者さんご本人の社会的あるいは職業的な機能を著しく障害していること

③他のこころの病気ではないこと

④正常の死別反応(親しい人との死別における悲哀反応)ではないこと

⑤もし、そのストレス因がなくなれば、症状はその後6カ月以上持続しないこと

 これだけでは分かり難いので、もう少し説明をしていきます。

 ①のストレス因ですが、これは日常生活の中で起きる、強いストレスのかかる出来事ですので、具体的には対人関係上のトラブルが最も多く、オーバーワークや上司からのパワハラ、失業や失恋、落第や留年、あるいは転居、転職、離婚、破産、引退、自然災害など、さまざまです。中には、結婚や昇進、栄転などのポジティブな出来事での適応障害が起きることもあります。そして①の症状や行動変化ですが、症状としては抑うつ気分(例:落ち込みや涙もろさ、絶望感)や不安(例:神経質、心配、過敏、分離不安)が中心で、その両者が見られることもあります。一方、行動の変化としては、無謀な運転や暴言・暴力など、その患者さんが通常やらないような行動が出てきます。なお、通常はストレス因の発生後数日以内に生じることが多いです。

 ②に関しては、仕事や家事ができない、あるいは効率が極端に低下してしまう、学校に通学できない、などです。

 ③は、その患者さんが以前にこころの病気になったことのない場合、うつ病や不安症などの他の病気ではないこと(それらの診断基準を満たさないこと)、そしてもし以前に他のこころの病気になったことがあるか、現在治療中の場合、その病気の悪化では説明できないこと、が必要です。

 ④の親しい人とは通常、家族、恋人、親友などが当たります。

 最後に、⑤の基準は、ストレス因が消失した時に症状が半年以上続かないということです。つまり、専門医療機関に初診される際には、この基準に当てはまっているかどうかは分かりません。ですので、適応障害という病名は、実は、全て暫定(仮の)診断なのです。もし、将来的にこの基準を満たさない場合には、うつ病や不安症などの他の病気の可能性を考えていくことになります。