2020年10月、2期目の奨励会三段リーグが始まりました。1期目は負け越していたので、息子の明浩は、「今期は勝ち越すことが目標」と話していました。三段リーグを抜けるのは大変なので、周りの方からも「まだまだ先は長いね」と、よく言われていました。
1日に2対局を行う三段リーグで、2期目の初日は連勝しました。その後、2日目から4日目までは各1勝1敗で、前半戦を終わった時点で5勝3敗でした。昇段候補には全く挙がらず、息子は気楽に戦っている様子でした。ところがその後、7勝1敗という驚異的なペースで白星を重ね、最終日を残してトップに立ちます。
21年3月6日、三段リーグの最終日を迎えました。1局目の結果は、新聞社からツイッター(現X)で速報が出ます。私は、ツイッターを何度クリックしたか分かりません。
ようやく結果が出ると、息子は敗れて4位に後退していました。最終局に勝てば3位に上がるものの、1位か2位の方が負けない限り、プロ入りできない状況でした。私はこの時点で、「今回の昇段は無理だな。次に期待しよう」と思いました。
その後1時間ほどたつと、息子から電話がありました。「最終局は勝ったよ」とのことでした。私は、「1局目で負けたのに、気持ちを切らさずよく頑張ったね」と答えました。
しばらくすると、息子から再度電話がありました。「昇段したよ」とのことでした。私は驚き、感極まって涙があふれ、声が出ませんでした。息子がプロになれるかどうか、奨励会入会以来ずっと不安でしたので、その不安がようやく解けた感じでした。
私は、共に様子を見守っていた妻と記者の方と感激を分かち合い、すぐ、師匠の森信雄先生に電話しました。その後、子ども文化将棋教室の柴山芳之先生や愛岐会の植田二郎先生に電話しました。その他、お世話になった多くの皆さんには、妻が電話をしてくれました。
私が今、息子の奨励会時代を振り返って、改めてすごいなと感じるのは、私たち夫婦や周りの心配をよそに、息子自身は、楽しく奨励会へ通い続けたことです。
息子は、奨励会に行き、強い相手と指せることが、とても楽しそうでした。奨励会の友達のことも、よく話してくれました。
奨励会の幹事の先生からは、しばしば「奨励会に楽しく通っているのは、高田君だけだ」と言われていたそうです。毎日を楽しく過ごし、どんな状況でも前向きに捉え行動する息子の姿は、私にはないもので、わが子ながら、いつも頭の下がる思いでした。
息子が昇段したこの日は、私にとって、妻と結婚した日に並ぶ、人生で最良の日となりました。
=奨励会編おわり=
(「文聞分」主宰・高田浩史)