JRA初勝利セレモニーでファンらの祝福を受けた名古屋の望月洵輝騎手(中央)。YJS総合2位に輝いた

 かつては笠松時代のオグリキャップが、芝の中京盃を圧勝するなど東海公営のレース(2001年度まで)も行われていた中京競馬場。当時2歳だったオグリキャップは「芝への適性もすごい」と笠松から中央へのトレード話が一気に加速し、1年後には有馬記念を制覇した。

 その中京競馬場で、ファイナリストとなった16人の若手騎手たちが「地方・中央の壁」を突き破って躍動した。愛知、岐阜県出身の騎手も多く、応援に駆け付けた家族をはじめ、名古屋・笠松の騎手やファンたちの熱い声援に応えて、持てる力を存分に発揮しゴールを駆け抜けた。

 「2024ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」のファイナルラウンド中京(14日)は、笠松での騎乗も多い名古屋のルーキー・望月洵輝騎手(18、井上哲厩舎)が第1戦2着、シリーズ最終の第2戦は15番人気で豪快に差し切ってJRA初勝利をゲット。園田では総合14位だったが、計53ポイントで一気に12人をごぼう抜き。総合2位で「表彰台」からのまぶしい景色を満喫した。愛知県豊橋市出身で地元ファンを喜ばせた。

YJSファイナリスト16人の紹介式で闘志を燃やす各ジョッキー

 ■大井の鷹見陸騎手、逃げ切って総合優勝

 総合優勝を飾ったのは、57ポイントを獲得した大井の鷹見陸騎手(21)で園田(1着、2着)でのリードを守り、逃げ切った。3位は49ポイントで浦和の室陽一朗騎手(22)。今年は名古屋での期間限定騎乗(4~8月)に挑み、笠松でも16勝と活躍。現場の「アットホーム」な雰囲気に溶け込んでいた。結果的に地方騎手が1~3位を独占した。JRA勢では佐藤翔馬騎手(21、美浦)が4位、古川奈穂騎手(24、栗東)が5位で続いた。

 ■長江騎手は騎乗馬に恵まれず総合14位

 愛知県春日井市出身の長江慶悟騎手(25)も健闘。笠松勢として6年ぶりのファイナル進出。園田で7位につけて上位進出へのファンの期待は膨らんだが、13番人気、14番人気と騎乗馬に恵まれず。後方または中団から伸び脚を欠いて13着、14着と人気通りの着順で総合14位に終わった。

第1戦で勝利を飾り、総合3位に入った浦和の室陽一朗騎手

 ■第1戦は室騎手V、望月騎手追い上げ2着

 第1戦(8R)は芝2000メートル(1勝クラス)。田口貫太騎手(バガン、牡6歳)と室騎手(タガノデュード、牡3歳)がほぼ並んで逃げる展開。3番手から追ってきた望月騎手(シルキーガール、牝3歳)がラスト3F最速タイムで2着に突っ込んだ。勝ったのは室騎手で、田口騎手が3着に踏ん張った。

 望月騎手は「中京はお客さんも多いですし、雰囲気にのまれないように自分のレースをできるようにしたい」と臨んだ。半馬身差の2着に入ったが「どっしりと構え過ぎた。ペースが緩んでいると思い、3番手から勝ち馬にプレッシャーを与えたかった。もう1列前から外めで競馬ができたら良かった。直線で伸びているが、前の馬も伸びており、差が縮まらず。エンジン掛かった所がゴールでした」と振り返った。

 レース直前、レーシングプログラムを見るなどして研究していた長江騎手。「見せ場がなかったし、難しかったです。もっと長いかと思ったが、ペースは落ち着いてしまった。道中もうちょっと前へ行ければ良かったが動けず、力のある馬だけ前に行って残った。後ろを回ってきただけになった」と残念な結果になった。

8R、初めての芝コースに挑んだ長江騎手(右)

 ■初めての芝コース、長江騎手「馬の跳びも違う」

 8RでJRAの芝コースにチャレンジした印象を地方騎手たちに聞いた。

 初めての芝の感触。長江騎手は「フットワークが軽く、ダートのように力の要る馬場でなく、馬の跳びも違う感じがした」。連闘、マイナス14㌔で人気薄。「印も付かなくてガチガチにはならず楽に騎乗できたが、もう少しうまく乗りたかった」。

 セントライト記念にも出走したタガノデュードで勝った室騎手は「中京の芝は楽しかったです。本当に強い馬だと思うし、クラスが違うかなと。逃げるつもりはなく(田口騎手の)2番手からで我慢して良かった。向正面で掛かってしまったが、馬の強さで勝てた。最後の直線でまだ手応えがあり、前だけ見て必死に追いました」と、初体験の芝コースを軽やかに駆け抜けた。

10Rのゴール前。望月騎手が鮮やかな差し切りでJRA初勝利を飾った。
ゴール前の攻防で総合Ⅴ争いが決着した

 ■第2戦、望月騎手が単勝99倍で差し切りV

 第2戦はダート1400メートル(2勝クラス)。金沢の加藤翔馬騎手(ユイノイチゲキ、牡4歳)と室騎手(ワイワイレジェンド、牡3歳)が先行して競り合ったが、4コーナーを回って共にバタバタとなり、好位追走の2頭が急浮上。望月騎手はアイファースキャン(牡4歳、根本康広厩舎)で3~4コーナーを5番手で回り、ラスト100を切って先頭に躍り出ると、そのまま歓喜のゴールイン。クビ差2着にJRA勢の佐藤翔馬騎手(ランスオブサターン、牝4歳)、3着に河原田菜々騎手(エムズマインド、牡4歳)が入った。

JRA初勝利を飾り、笑顔がはじけた望月騎手

 望月騎手が騎乗したアイファースキャンは単勝99倍でブービー人気だった。近4走が2桁着順で中1週続き。前走は流れに乗れなかったが、前めの競馬で好騎乗が光った。「ばらける展開で前にスペースがあり、外を回ることなくいい感じで運べた。追い出してからもしっかり反応して、しぶとく頑張ってくれた」と愛馬をたたえた。さすがは4月以降に名古屋、笠松で85勝を挙げている大型ルーキー。身長も168センチと騎手としては長身。ダイナミックなフォームから、ラストの切れ味を引き出した。

検量室前のガラス越しでは笠松、名古屋のジョッキーらもレースを終えた若手に熱い視線を送っていた

 ■笠松・名古屋の騎手らも応援、熱視線

 検量室前には、優勝馬など上位に入線した馬が着順ごとに入る枠馬があり、ガラス越しにファンも見学することができる。戦いを終えた人馬に、ファンと共に熱い視線を送っていたのは笠松の渡辺竜也、深沢杏花、明星晴大騎手、名古屋の木之前葵、友森翔太郎騎手。競馬専門紙記者や実況アナらも並び、長江騎手や望月騎手らの応援団として来場。騎手たちは前日に笠松開催も終えて、リラックスムードで観戦。レースを終えた2人を笑顔で迎えていた。

 中京競馬場は電車なら笠松から50分ほどと比較的近く、応援にも行きやすい。JRAのレースということで、地方競馬の騎手も馬券購入は可能。いつもとは逆の立場で的中させる難しさやファン心理も実感していたようだ。笠松勢では高木健、藤原幹生、森島貴之騎手らもファンに目撃されていた。キッチンカーでハンバーガーやポテト、唐揚げなどを食べながら、応援にも熱がこもっていた。

アイファースキャンの口取り撮影。オーナーで岐阜県馬主会会長の中島稔さん(中央)も喜びに浸った

 ■10R優勝馬オーナーは岐阜県馬主会会長

 最終戦、鮮やかな差し切り勝ちを決めた望月騎手は、検量室前で厩務員らに迎えられてスマイル全開。その後、正式に総合順位を知らされると「2位でした」と悔しそうな表情も見せた。

 ウイナーズサークルで優勝馬の口取り写真撮影が行われた。望月騎手は、アイファースキャンのオーナーで岐阜県馬主会会長の中島稔さんらと喜びに浸った。地元の豊橋市からは家族や親戚、ファンらが大勢詰め掛けた。「ジュンキ、おめでとう」の声が響き、JRA初勝利と総合2位を祝福した。優勝ゼッケンはオーナーのご厚意で笠松競馬でのイベント用に提供された。

 ■長江騎手から望月騎手へターフィー人形

 この後、望月騎手のJRA初勝利セレモニーも行われた。11月16日には渡辺竜也騎手が京都でJRA初V(8戦目)を飾ったが、望月騎手は2戦目でのスピード達成。ウイナーズサークルでは、まず長江騎手がグータッチで祝福した。

望月騎手に記念品のターフィー人形を手渡す長江騎手

 笠松で期間限定騎乗の経験がある及川烈騎手(浦和)や今村聖奈騎手らも駆け付けてお祝い。プレゼンターを務めた長江騎手から中京競馬場の記念品としてターフィー人形が贈られた。

 望月騎手は「メチャうれしいですし、気持ち良かった。直線も普段乗っている名古屋より長いし、早く動き過ぎないようにした。手応え良く追ったら伸びてくれて馬に感謝です」。中京での騎乗は「地元で身内の応援も大きくて、パドックでも恥ずかしいぐらいに声が聞こえたんで、何とか結果を残したいなと。勝つことができホッとしています。また中京競馬場で乗れるように、今度は名古屋の馬で遠征に来たいので、そういういい馬に巡り合えるよう頑張りたい」。地元ファンらに見守られ、大きな声援に感謝していた。

YJSファイナルラウンドの表彰式。総合優勝の鷹見陸騎手(中央)、2位の望月洵輝騎手(左)、3位の室陽一朗騎手

 ■総合Vの鷹見陸騎手「優勝させていただき感謝」

 最終レース後にはパドックで上位3人の表彰式が行われた。総合Vの鷹見陸騎手は中京では7着、13着だったが、園田での貯金で逃げ切った。「優勝はとてもうれしいが、きょうは馬券内にも入れずとても悔しかった。いつもどおり平常心で、けがなくというのを意識していました」。

 2年前、調整ルームに関する開催執務委員長指示事項の違反で10日間の騎乗停止を受け、1年以上のブランク後、今年2月にレース復帰。「昨年は1度も騎乗していないので、1頭1頭騎乗させていただく度にありがたく思っています。YJSで優勝させていただき本当にありがとうございます。次は大きいレースや重賞レースを優勝したい」と誓いを新たにした。

 ■「名古屋、笠松でたくさんの馬に騎乗しているおかげ」

 望月騎手は「2位なのでもう一つ高い所に行きたかったですが、この悔しさをバネに、これから技術を磨いていけるように頑張っていきたい」と意欲。

 「名古屋、笠松でたくさんの馬に騎乗させていただいているおかげで今のこの成績があると思うので、関係者の方々と頑張って走ってくれている馬に感謝しかないです。これからも名古屋を代表する騎手になりたいと思っているので、応援よろしくお願いします」と飛躍を誓い、ファンらに熱い思いを伝えた。

 3位の室陽一朗騎手はデビュー3年目。「馬に助けられて3位になれたのでうれしく思います。初めての芝コースで騎乗できたし、名古屋で経験した技術を浦和でも生かして、いっぱい勝てる騎手になりたいです」と喜びを語った。

岐阜県出身の土方颯太騎手(左)は、紹介式で地方騎手代表として意気込みを語った

 ■土方颯太騎手は岐阜県瑞穂市出身、総合6位

 園田の土方颯太騎手はファイナリスト最年少の17歳で、岐阜県瑞穂市出身(穂積中)。園田第2戦で勝利を飾り、総合ポイント2位。中京での騎手紹介式では地方騎手を代表してあいさつ。中京競馬場には子どもの頃からよく来ていたことが紹介され「いつも観客席で見ていたので、ここで乗るのはうれしいです。優勝を目指して一つでも着順を上げられるよう頑張って乗りたい」と意気込みを語った。ウイナーズサークル前からは「ソウタ」の声も飛び、「園田の星」として注目を浴びていた。

 1戦目の芝レースでは「芝の感覚は違いましたね。ダートとは馬の力や走り方も違って脚元が深いなあと。頭数も多くて難しいレースになりました。1コーナーに入って緊張はほどけたかと。次は冷静に乗りたい」と話していた。1戦目を終えて総合3位だったが、この日は11着と8着で総合では6位。2戦目は「差し馬には厳しい展開になりました」と表彰台を逃して悔しそうだった。

中京で3着、4着。総合では7位に終わった田口貫太騎手

 ■田口貫太騎手は不完全燃焼の総合7位

 岐阜県出身のジョッキーといえば、笠松競馬の厩舎がある岐南町育ちの田口貫太騎手。昨年準優勝で今年に懸ける思いは強かったが、園田で6着、8着と出遅れ。中京では3着、4着と追い上げたが不完全燃焼の総合7位。JRA通算75勝、地方交流の勝利を含めれば100勝突破は近い。YJS挑戦は今年がラストになりそうだ。

 8R(3着)は「リズム良く逃げられた。勝ち馬にはびっしりと来られたが、最後まで踏ん張っていい競馬をしてくれた」。10R(4着)は後方集団から上がり、3Fはただ1頭35秒台で猛追。「前半はリズム良く走らせていた分、最後はよく伸びてきてくれた。結果的に、もう少し付いて回れれば良かった」。

 田口騎手は大みそか、笠松競馬場で昨年(柴山雄一騎手と)に続いてトークショーに出演する。今年はたった1人でどんなステージになるのか、髪形にも注目だ。

クリノクリスタルに騎乗しパドックを周回する長江騎手

 ■無限の可能性を秘め、飛躍へ大きな一歩

 長江騎手は第2戦の10R、田口騎手も騎乗して勝利を挙げたことがあるクリノクリスタル(大橋勇樹厩舎)に騎乗。前崩れを狙ったが、後方のまま見せ場をつくれず「何もありません。ノーコメントです」と悔しさをにじませた。それでも地方競馬通算100勝に王手をかけており、地元・笠松で年内には達成したい。望月騎手と共にYJS参戦は今年が最後とみられる。

 地方、JRAの若手ジョッキーが同じ舞台で熱戦を繰り広げた。その成長力は目覚ましく、特に地方勢は全国のファンや競馬関係者に名前を覚えてもらう絶好の機会となった。ファイナリストとして夢の扉を開き、無限の可能性を秘めた精鋭たち。全国区での飛躍へ大きな一歩を踏み出した。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

※ファンの声を募集

 競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見をお寄せください。投稿内容はファンの声として紹介していきます。(筆者・ハヤヒデ)電子メール h-hayashi@gifu-np.co.jp までお願いします。