満開となった笠松競馬場正門前の桜並木。笠松競馬場は再整備が進められる

 「あー面白かった」という女性ファンの声が、桜並木が満開を迎えた笠松競馬場の東門を出ると聞こえてきた。レース観戦後の30代ぐらいのカップルだったが、隣を歩いていて妙にうれしくなった。馬券が当たったか外れたかではなく、臨場感あふれる人馬の熱戦や競馬場グルメなど場内の雰囲気を満喫したことだろう。ネット馬券全盛時代に、ひと味違う楽しさを求めてわざわざ足を運んでくれた熱心なファン。「面白かった」と感じてもらうことこそ、再整備で場内のデザインを一新する笠松競馬に必要不可欠なことだ。

 笠松競馬は、放馬対策で懸案の厩舎移転事業が発注を終え、来年夏には完工する。ようやくゴールが見えてきたが、さらに待ったなし。老朽化したスタンドを1カ所に集約し高層化、パドックはスタンド下への移設も検討し、名馬オグリキャップや昭和レトロを生かした再整備事業にゲートイン。笠松競馬を主催する岐阜県地方競馬組合は新年度から基本構想の策定に本格着手した。
 
 競馬組合の議会定例会(3月24日)で、約527億円規模の2026年度一般会計当初予算案や厩舎新築工事の請負契約など7議案を可決した。オグリキャップ記念トライアル「飛山濃水杯」の1着賞金を1000万円に引き上げ。各クラスの出走手当は1万円ずつ引き上げられた。

現在ある笠松競馬場の三つのスタンド。左から西、正面、東の各スタンド

 競馬組合は議案以外に笠松競馬場の再整備事業のイメージ図(今後の検討、調整等によって変更)も提示。国島英樹管理者代行から説明があり、取材陣の質問にも答えた。想定事業費はお客さまエリア、業務エリアの再整備で100億円規模となる。2022年4月、弥富市に移転した名古屋競馬場の基本計画(18年)を基に、来場者数の違いや建設物価の上昇を加味して算出した。現段階では基本構想の策定前であり、まだ何も決まっていない。昨夏、馬場改修を済ませており、再整備期間中はレースも平行して行われ、工事は非開催日が中心になる。リニューアルされる笠松競馬場の未来図はどう描かれるのか。

 ■再整備の検討に当たってのポイントは四つ

①現在の入場者数を前提とした施設規模
②地域の方が利用できる施設
③オグリキャップや昭和レトロを生かした再整備
④馬券の発売状況を見ながら段階的に整備

 笠松競馬場は各スタンドのほか、装鞍所など業務エリアの老朽化も進み再整備が必要になった。内馬場にあるパドックの移設も検討する必要があるとしたが、狭い敷地でスペースは確保できるのか。四つのポイントについて、競馬組合の説明を基に「未来予想図」の方向性を探ってみた。

 ■スタンドは「一つでも十分ではないか」

 ①「現在の入場者数を前提とした施設規模」について

 馬券購入の9割以上がインターネット投票によるもので、入場者数がかつてと比べて随分少なくなったことを前提として規模を縮小して集約。レース観戦の快適性などを重視したスタンドに一新される。現在三つあるスタンドは「一つでも十分ではないか」ということや、一つとすることでできる余剰スペースをどう使うかが基本構想を検討する上でポイントになる。

1994年、ファンで埋め尽くされたゴール前の東スタンド。東海ゴールドカップで盛り上がった

 スタンド全体の収容能力は約1万6000人とされているが、昭和の時代には3万人以上が入場したこともあった。現状の座席数は、有料席の西スタンド特別観覧席が470席、東スタンドのユーホールは400席。屋外の一般観覧席は、東スタンドが約700席、中央スタンド(1、2階席)が約590席、西スタンドが約900席。生観戦できるのは合計約3000席。このほか西スタンドのファン無料休憩所(モニター設置)に約150席、各投票所エリアにも座席が設けられている。

 ■オグリキャップ里帰りセレモニーでは「満員御礼、札止め」

 競馬場に来るしか馬券が買えなかった昭和の時代には1日平均1万人以上が来場していた。1991年1月15日「満員御礼、札止め」となった笠松競馬場でのオグリキャップ里帰りセレモニー(引退式)。公式入場者数は2万7765人で、当時の笠松町の人口を大きく上回るファンが競馬場内外を埋め尽くし「徹夜組」もいた。場外ではフェンス沿いや「土手スタンド」からも数千人がオグリキャップの雄姿を見守った。

 平成、令和と観客数は減少を続けていたが、2025年度は巻き返した。入場料が無料化され、その効果もあって来場者は増加傾向にある。平日昼間の開催で普段は700~1000人ほど。祝日開催日(3月20日)には2795人が来場した。入場無料は新年度も継続となった。

 漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」の連載は完走したが、オグリキャップが育った笠松競馬場は永遠の聖地。地元・笠松町のコラボイベントも魅力にあふれ、芦毛の怪物デビューの地への「原点回帰」で若者らの入場も増えている。ファン目線で笠松競馬の歴史と魅力をアピールしている「オグリの里」としても大歓迎である。

「ウマ娘シンデレラグレイ」でも注目された中央スタンド。奥には「笠松競馬場喫茶部」もあった

 ■中央スタンド前、シングレで「ありがとう カサマツ」と記念撮影

 場内の東、中央、西の各スタンドは昭和30~40年代に建設され、築50年から60年以上とみられる。その後、西スタンドに特別観覧席、東スタンドにユーホールが併設されリニューアルされた。中央スタンドはファンからは「文化的価値も高く、甲子園の銀さんのような存在。残してほしい」という声も上がっている。
 
 また「ウマ娘シンデレラグレイ」では、中央へと巣立つオグリキャップがフジマサマーチらみんなと「ありがとう カサマツ パシャ」と記念写真を中央スタンド前で撮影しており、印象的なシーンとなった。これがなくなるとやはり寂しくなる。リニューアル後も、奥に「笠松競馬場喫茶部」の看板なども見える中央スタンドのパネルを、オープンスペースに設置するなどして、ウマ娘ファンの撮影ポイントにしていただければ、聖地巡礼でもSNS映えするフォトスポットとして喜ばれるのでは。

(上)昭和35年当時の旧スタンド(下)と昭和47年当時の旧スタンド(笠松競馬提供)

 当コラムでは8年前に「スタンド早期改修を」と次のように提案していた。「競馬場に足を運ぶファン目線で見ると、何よりも急がなくてはいけないのが、競馬場施設の安全確保だろう。築50年以上を経過して老朽化したスタンドなどの改修、耐震化工事を行ってほしい。特にハトがすみついたりした西スタンドは老朽化が進んでおり、崩落事故などがないことを願うばかりだ」

 再整備事業の完成時期は未定だが、馬券の売り上げによってずれ込み、結構変動があるという。「赤字=廃止」と競馬事業に県民の税金を投入しないこれまでの方針からも、借金をしてまではやらないとみられる。馬券販売の好調さを見込んでの再整備計画で、お金がたまらないと進められない事業でもある。笠松ファンの方たちに馬券を多く買っていただければ、工事もスムーズに進展することになる。再整備には時間がかかるが、まずはそれに手を付けてゲートインした段階である。ちなみにネット投票だと約10%の手数料(ネット業者への業務委託料)が発生する。やはり笠松競馬場に来たら、紙馬券を買って施設のリニューアルも応援していただけるといい。

2019年のオグリキャップ記念を勝ったカツゲキキトキト、ファンの前で雄姿が披露された

 ■JBC開催やオグリキャップ記念のダートグレード化にも対応できるのか

 100億円規模の再整備事業には、環境整備基金などを活用。補助金は厩舎建設にはあるが、スタンド整備にはないので、全て自己財源で賄う。基金の残高もそこまではなくて、今後ためないといけない。スタンドの規模については「ネットでの馬券購入が主流になっており、お客さんもたくさん入る時もあれば、入らない時もある。結構差があり、マックスにするわけにもいかないし、これからの検討課題になる」という。

 昨年の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」デーには1万人以上が来場。新スタンド完成後にはJBC開催の可能性も広がり、そういう日にも対応していくのか。「1万人を収容する建物にすると、とんでもない規模になるので、そこまではできない。『JBCもやれ』という話はあるが」。またオグリキャップ記念がダートグレード競走に復帰すれば、JRAの実力馬や騎手も参戦する。オグリキャップの知名度からもJRAファンの来場者もかなり増える。地方競馬ダート最高峰の祭典であるJBCが笠松でも開催されれば1万人超えは確実だ。またお盆や年末開催では3000~5000人が来場しており、電車での交通の便も良く、駅から3分ほどの笠松競馬場へのお客さんは増加傾向にある。

芦毛馬たちのウマ娘シンデレラグレイ賞のレース前。スタンドからウマ娘ファンたちが熱い視線を送った

 特別なレースの開催日への対応策については「JBCは何回もやるものではないだろうし『仮設の客席』で対応するという話も出てくるかもしれない。オグリキャップ記念は毎年やるので、規模をどう考えていくのか、(投票所の発券機で)馬券を買えないと困るので」と課題に挙げた。施設自体の敷地が変わらないなら、オープンスペースからの立ち見になりそうだ。

 近年のJBC開催では、盛岡で約1万人(2022年)、大井で約2万4000人(23年)、佐賀では約1万2000人(24年)を記録しており、軒並み1万人超え。昨年の船橋ではネットによる前売り入場券のみ販売で1万3000枚が完売。今年のJBCは21年以来3度目となる金沢と、引き続き門別での開催が決定している。名古屋でも2度開かれており、地方競馬では笠松だけ開催されていない。これも名馬、名手の里としては寂しいことだ。

かきつばた記念が行われた名古屋競馬場。約3400人が来場しにぎわったが、2階ゴール前の有料指定席に人影は少なかった

 ■名古屋競馬場は観客席が少なすぎる

 一方、弥富市に移転した名古屋競馬場はトレセンが競馬場に様変わり。コースは広くなったが、施設はコンパクトになり、観客席が少なすぎるという印象。スタンド棟2階の屋内(有料)と屋外(無料)合わせて574席。立ち見を含めると約2000人を収容するが、客席数は旧競馬場の10分の1ほど。屋外スタンドでの観戦では、屋根が小さいため雨が強いと降り込んで観客は誰もいなくなる。1階屋内には座る席は全くなく、狭い所で立ち見となる。2月のダートグレード競走「かきつばた記念」では駐車場が満車で場内も超満員。入場3413人で多くの人が立ち見。川田将雅騎手騎乗のダノンフィーゴが勝って盛り上がったが、2階ゴール前の有料指定席に人影は少なかった。それでも1日の馬券販売は22億円超。かきつばた記念だけで約12億5000万円で売得金額レコードを更新した。中央勢も参戦するダートグレードは馬券もよく売れる。

 名古屋に続いて笠松も入場無料化したこともあり、来場者は増えている。昨年4月~今年2月の1日平均の入場者は名古屋が780人(前年比2.4%減)。笠松は3月までで1日平均1270人。前年度比44.6%増と飛躍的な伸び率となった。アクセス面で不便な名古屋競馬場に比べ、名鉄笠松駅からも近い笠松競馬場のリニューアルでは「名古屋の規模より大きくしないとまずい」とのことだ。

装鞍所や調教ルームがある業務エリアで、レースを終えて枠場に入る競走馬

 ■「取材しやすいようなスペースを」

 6年前に発覚した騎手、調教師による馬券不正購入など一連の不祥事で、報道陣用の取材スペースは厳しく制限されてきた。やや緩和されたが、取材がしづらい状況は続いている。装鞍所エリアの立ち入り可能区域で、お目当ての騎手らが通るのをずっと待っていて、検量後や馬具の手入れ時にタイミングが合った時にしかコメントを聞けない。1日の騎乗数も多く、すぐ次のレースが控えていれば忙しいだろうし、過酷な戦いに挑む騎手らに無理なお願いもできないのが現状。これについては「騎手や調教師と会話ができないので、取材しやすいようなスペースの確保が、再整備の早期原案には入っている」という。

 また再整備の一環として「これまでなかったプレスルームも新設したい」と競馬場関係者から聞いていた。ビッグレースでは取材陣も多くなるので、再整備に組み込まれるという。現在のウイナーズサークルは狭いし、雨天での表彰式はファンがいない室内で行われることもあった。悪天候時にもファンの前で表彰できることが望まく、リニューアルしていきたいとのことだ。

 ■「お金がたまればで、時間がかかる」

 再整備の完成時期は現段階で分からないが「まずはお金がたまればでのこと。工事は全部じゃなくて順番に分割してやっていくので、100億円でも分けてやれば30億円ぐらいずつとか。競馬をやっていないと、収入がなくなっちゃうんで、競馬をやりながらの建設事業になり、余計に時間がかかる。スタンドの取り壊し経費も積算している」とのことだ。

 お客さまエリアのスタンドは三つもいらないということで、一つに集約する。残りの二つをなくして、屋外イベントなど向けのオープンスペースにする。東スタンド前にゴール板があり、着順などを判定する「裁決」とかがないと駄目なので、そのスタンドが残ることになる。キャパシティーも今の東スタンドと同じぐらいなのか、もう少し大きくするのか。西スタンドにある特別観覧席は、ユーホールのある東スタンドに集約される。

日本の競馬場で唯一の内馬場パドックを周回するアオラキとハルオーブ

 ■パドックは高層スタンドの1階部分に設置か

 パドック問題は多くのファンも注目している。円滑な競馬開催のために移設も検討する必要があるという。笠松のパドックは装鞍所から400メートルほど離れたコースの内馬場にある。スタンド前でもあり、どうしても馬が入れ込んでしまうため、装鞍所騎乗が多いという。笠松競馬場は川と堤防道路に挟まれた狭いスペースにあり、パドックの敷地が確保できず全国で唯一、内馬場に設けられている。

 そうなると移転先が問題になる。かつてはパドックがコースの西側にあったが、装鞍所から遠いため内馬場に移設した経緯がある。北側には堤防道路の土手が迫っており、現在ある調整ルームと東スタンドの間に造ることは物理的に難しい。となると限られたスペースでパドックは確保できるのか。

 ファンに馬体を見てもらい、返し馬に向かうための準備運動を行うパドック。馬は離れた装鞍所から来るので、できるだけ近くが望ましい。スタンドとは重なるが「おそらくパドックはスタンドの下とかに造るのかなあ」とスペースを確保するアイデアも浮上しているようだ。「下」というのは一般の建物の1階部分に設けられるパーキングエリアのようなイメージだそうだ。装鞍所からできるだけ近い位置にパドックを設けようとすると「スタンドを高層化しないとできそうにない」という。

 ■「笠松らしさ」を感じられる特殊な場所

 内馬場パドックは世界的にも珍しく、日本でここしかなく「笠松らしさ」を感じられる特殊な場所。騎手バスでレース前なのにピクニック気分のような晴れやかな表情で入場するジョッキーたち。そしてオグリキャップやラブミーチャンら大先輩の名馬たちが歩んできたパドック。個人的には気に入っていて、取材の際も他場のように周回途中にダッシュして返し馬撮影に向かわなくて済む。「馬が遠くて見えない」という声もあるが、近くに清流ビジョンもあって、馬の歩様なども十分チェックできる。入れ込んでの装鞍所騎乗は、他の地方競馬場でも結構多い。建設上、コース外にスペースを確保することが難しかったら「そのまま」も選択肢の一つとして残していただきたい。

コース右側に装鞍所と調整ルーム、スタンド前の内馬場にパドックがある(笠松競馬提供)

 ■装鞍所や調整ルームがある業務エリアも一新

 建設工事は、開催を中断せずにレースがない日に少しずつ進めていく。スタンドなどのお客さまエリアとともに、装鞍所や調整ルームがある業務エリアも、持続的な競馬運営のため再整備を進めリニューアルされる。バックヤードでファンが立ち入ることはないが、競走馬、騎手、調教師、厩務員らが出入りする競馬運営の上で最重要拠点となるエリアである。

 業務エリアの再整備では、まず建物が古いし仕様も古い。騎手がレース開催日前日から寝泊まりする調整ルームは、女性ジョッキーがいることも考慮して、入り口や風呂を分けるとか、機能を今風にするという。

 馬券販売額は2年連続で過去最高額を更新していたが、25年度は約459億4800万円で約5%減少した。走路改修のため開催日数が前年度より6日間少なかったためで、1日当たりでは5億1053万円で前年度比約1%増となった。今後の再整備事業の進み具合は馬券販売とも連動しており、環境整備基金の「貯金」が必要になる。全国の笠松競馬ファンによる後押しが頼りで、本年度以降も「右肩上がり」での安定した経営が求められている。(次回に続く)


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 「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」に続く第4弾「挑戦編」では、笠松の人馬の全国、中央、海外への挑戦を追った。巻頭で「シンデレラグレイ賞でウマ娘ファン感激」、続いて「地方馬の中央初Vは、笠松の馬だった」を特集。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、196ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも。