産婦人科医 今井篤志氏

 20~30代女性がかかるがんの中で1、2位を争うのが子宮頸(けい)がんです。子宮頸がんはその他のがんと異なり、原因が解明されています。ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが子宮頸部に感染するのです。従って、HPVの感染を予防すれば、子宮頸がんの発症を抑えることができます。

 このHPVの感染を予防するためにはワクチンを接種することが最も有効です。日本では2013年4月にHPVワクチンが定期接種(予防接種法に基づいて地方自治体が公費で接種)となりました。しかし、接種後に日常生活に多大な影響を及ぼす副反応が繰り返し報道され、国は同年6月に接種の積極的な勧奨を控えました。

 それに伴い接種率は激減し、子宮頸がんの患者数・死亡数ともに増え続けています。日本では現在年間約1万人が子宮頸がんを発症し、3千人弱が死亡しています。

 国は日本や海外のHPVワクチンの副反応を追跡・分析し、大きな問題はないことが分かってきました。また、海外の論文で、17歳になる前に接種を受けた女性では、受けなかった場合に比べ子宮頸がんの発症が88%も減少し、17~30歳で接種を受けた女性でも、53%減少しました。このように接種による有効性が副反応のリスクを上回ることが明らかになりつつあります。

 厚生労働省は22年4月から接種の積極的な勧奨を再開すると決定しました。しかも、接種の積極的な勧奨が控えられていた8年余りの期間に、接種機会を逃した世代(1997~2005年度生まれ)の女性に対しても、22年4月から3年間は公費で接種できる機会を設ける方向となりました=表=。

 HPVは200種類以上の型がありますが、そのうち16型や18型など7、8種類が子宮頸がんの原因となります。性交渉によって感染し、女性の約80%が一生に一度は感染するほどとてもありふれたウイルスです。そのため、性交経験のある男女の半数以上に検出され、性行動のある全ての女性が子宮頸がんになる可能性を持っています。

 子宮頸部の細胞にHPVが感染すると子宮頸がんの前段階の異型細胞となりますが、99%以上はウイルスが自然に体内から排除され正常化します。数年間ウイルスが子宮頸部に居座るとがん化しますが、その確率はウイルス感染の0・1~0・2%です。

 予防するためには性交渉を経験する前に接種するのが最も効果的です。日本の定期接種は小学6年生から高校1年生までが対象です。HPVワクチンは希望すれば何歳でも打つことができ、45歳までは子宮頸がんやその前の異型細胞になるのを予防する効果が認められています。自費の場合の費用は、1回当たり約1万5千円~2万円で、3回接種します。

 HPVワクチンは不活化ワクチンなので、コロナワクチン以外のワクチンとは同時接種ができ、接種間隔の制限はありません。現在のHPVワクチンは子宮頸がんの原因となるHPVの全ての感染を予防するわけではありませんので、子宮頸がん検診も併せて行いましょう。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長・羽島郡笠松町田代)