
世界のトップジョッキーが集結する「夢の札幌」切符ゲットはお預け。笠松代表の渡辺竜也騎手(25)、名古屋代表の塚本征吾騎手(21)が参戦。成長著しい東海勢2人のチャレンジは共に3着が最高で、表彰台には届かなかった。
地方競馬最強ジョッキーを決める頂上決戦「ジョッキーズチャンピオンシップ」は5月26日、金沢競馬場での3戦で激戦が繰り広げられた。連続出場は吉村智洋、矢野貴之、渡辺竜也、赤岡修次騎手の4人だけ。難関を突破した名手たちが集結した。

出場者は、地方競馬での勝利数トップ(昨年4月~今年3月)のジョッキー12人。各場での交流が盛んになり、遠征先で勝利を量産する騎手も増えたため、勝利数は昨年までの「所属場」から「地方競馬」に変更となった。優勝者は8月23、24日に札幌で行われる「ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)」(国際騎手招待競走)の地方代表候補騎手に選定される。
■「表彰台の一番高い所」を目指して奮闘
出場3度目の渡辺騎手は過去総合5位と7位で「表彰台の一番高い所へ」と奮闘した。今年、78勝を挙げて勝率33.3%とただ一人3割台で、昨年に続いて全国トップを快走。塚本征吾騎手は初出場。今年既に名古屋リーディングの80勝、笠松でも3位の27勝で計108勝を飾っている。騎乗数は渡辺騎手の約3倍の710レースを数え全国最多だ(5月28日現在)。

そんな「全国1位」の2人が金沢でのジョッキーズチャンピオンシップに参戦した。この日は、ドライブ好きでもある渡辺騎手が塚本騎手の車を運転。約3時間半かけて一緒に金沢入りしたという。「Ⅴ字の勝負服」がおそろいで、お互いⅤを量産。ツーショットの写真撮影では笑顔があふれ、仲の良さが伝わってきた。渡辺騎手が「征吾に負けないよう頑張ります」と語ると、塚本騎手も「竜也(さん)に負けないよう頑張ります」と意欲を見せた。3度目の出場でそろそろ好結果を残したい渡辺騎手。「体調は絶好調で、表彰台を狙いたい」と気合を入れた。塚本騎手は2月の佐々木竹見カップ ジョッキーズグランプリでは1勝を挙げて総合2位(渡辺騎手は8位)と活躍した。

騎手紹介式では1人ずつ、マイクを手に意気込みなどを語った。地元・金沢の中島龍也騎手が「地の利を生かせるよう頑張りたい」と語ったのに続いて渡辺竜也騎手は「笠松代表の方の『たつや』です。笠松競馬を宣伝できるように頑張ります」と、塚本騎手は「優勝できるよう頑張ります」とそれぞれ闘志を燃やした。

■第1戦は本田騎手1着、渡辺騎手3着
各地のトップジョッキーが勢ぞろい。レース前は検量室内で専門紙の出馬表を手に展開などを入念にチェック。金沢でもナイター競馬が本格開催され「百万石かがやきナイター」としてスタートした。各競走の出走馬について、近走成績を参考に「A」「B」「C」にグループ分け。騎乗馬抽選を実施し、各騎手はA・B・Cブループの馬にそれぞれ1回ずつ騎乗し腕を競った。

第1戦の7R、渡辺騎手騎乗の7番人気ビッグタイマー(Bグループ)が1枠から好スタートを決めて快調な逃げ。塚本騎手騎乗のイッツオーケイ(Cグループ)が続き、東海勢2人が先制攻撃。渡辺騎手は4コーナーで本田正重騎手(船橋)騎乗のユーバーウィンデンに並ばれ、最後の追い比べで屈したが3着に踏ん張った。塚本騎手は3コーナーから後退し11着。山本聡哉騎手(岩手)が2着に上がった。

渡辺騎手は「1枠でこの馬場。すんなり逃げる作戦で、絡まれなかったんで、もう行くしかないと。スムーズに1馬身ぐらい抜けてよく頑張ってくれたが、もうちょっと粘ってくれと」。2番手につけたのが塚本騎手で、渡辺騎手は「単騎で行かせてもらい、折り合いだけで割と楽できたなあと。まずは15ポイント。3戦あるんで、油断せずに頑張りたい」と重賞2勝と得意にしている金沢競馬場で手応え十分。一方の塚本騎手はズルズルと後退し「ここから挽回し、連勝目指して頑張りたい」と巻き返しを誓った。

鮮やかに差し切った本田騎手は「返し馬に乗って勝てそうな気がしていた。(30ポイント獲得で)ちょっと欲が出てきました。一つでも上の着順を取りたい。マイペースでね」と手応え十分、スマイルを見せていた。

■第2戦は吉村騎手1着、塚本騎手3着
第2戦の9Rは2頭が競走除外。吉村智洋騎手(兵庫)騎乗のナックジュピターが、2番手からあっさりと差し切りVを決めた。塚本騎手もレオテソーロ(Aグループ)で4番手から最後いい脚で3着に食い込んだ。渡辺騎手は6番人気ポンポンダリア(Cグループ)で最後方から追い上げたが8着が精いっぱい。名古屋での期間限定騎乗で笠松でもおなじみの室陽一朗騎手(浦和)が2着に突っ込んだ。
勝った吉村騎手は「付いて行っただけで、先頭に立つのが早過ぎて差されるかもしれないと。辛抱してくれた馬に感謝です。(暫定トップに立ち)WASJに行ければ3回目になりますし、逃げ切るしかないです」と連覇へ闘志ギラギラ。
塚本騎手は「勝ちたかったなあ、3着は悔しいです。出負けしてハナに行けなかったが、自分の脚は使ってくれた。1着を取るイメージで乗っていたがビジョン通りにはいかなかった。次は後ろからためる競馬でいこうかな」。

2着の室騎手はデビュー4年目の23歳。昨年は名古屋、笠松での期間限定騎乗(5カ月間)でそれぞれ27勝、16勝と白星を量産し、浦和から出場権を獲得した。「惜しいです。吉村さんに付いていく感じで、最後の直線は外に出した。乗れる方ばかりでいろいろと勉強になります。ヤングジョッキーズシリーズとは緊張感も違いますし。最後1着を取れるよう頑張ります」
渡辺騎手にも話を聞きたかったが見当たらず。10R「能登復興支援里山里海賞」にもシュンプウでエキストラ騎乗していた。7着に終わったが、金沢でも騎乗依頼を受け、信頼されるジョッキーとして存在感を示した。
■過去にはWSJSで川原騎手総合V、アンカツさん3位
過去の笠松勢で総合優勝を飾り、地方代表になって世界の名手と戦ったのは3人(前身のWSJS=ワールドスーパージョッキーズシリーズ時代)。1995年に安藤勝己騎手が横山典弘、武豊騎手に続いて総合3位。97年の川原正一騎手は2勝、3着2回で見事に総合優勝。2006年の浜口楠彦騎手は3戦目で勝利を挙げて総合9位。この3人はやはり「笠松の顔」としてファンの人気を集めた。
2022年ジョッキーズチャンピオンシップでは岡部誠騎手が総合Ⅴ、藤原幹生騎手が総合2位と東海勢ワンツーで活躍が目立った。渡辺騎手、塚本騎手もいつか総合Ⅴをつかんで、札幌で世界と戦いたい。なお、地方騎手の総合Ⅴは2005年、兵庫時代の岩田康誠騎手が最後となっている。

■第3戦は赤岡騎手1着、本田騎手は4着で総合Ⅴ
ラスト第3戦の11R、逃げた山口勲騎手(佐賀)を赤岡修次騎手(高知)がかわした。6番人気の8歳芦毛馬レムリアンシードが4コーナーで先頭に躍り出るとそのまま押し切ってゴールイン。2着に野畑凌騎手(川崎)、3着に矢野貴之騎手(大井)の南関東勢が続いた。
ラストチャンス、勝てば優勝の可能性もあった東海勢2人。渡辺騎手はフェイマスグラース(Aグループ)に騎乗し、一発大逆転も期待できた。レースは先行勢がつぶれ、追い込みが決まる展開。中団につけていた塚本騎手、渡辺騎手は伸び切れずにそれぞれ5着、6着どまり。今年の頂上決戦が決着した。

総合優勝は逆転で初出場の本田正重騎手。初戦1着の優位さを生かして、その後も7着、4着にまとめて計48Pで最強ジョッキーの座をつかんだ。第2戦を終えて総合2位につけており、吉村騎手を追う展開となった。最終戦は9番人気馬だったが「馬に合った、自分なりの競馬をしたい」と最後方からよく追い上げて掲示板を確保。「後ろからゆっくり行って、3コーナー辺りから着はあるかな、優勝しちゃうかもと。うまいジョッキーばかりで安心して乗れましたし、楽しかったです」
暫定トップだった吉村騎手が2番手からズルズル後退。それを見て、手応え良く追い上げたシェルターベルト(Cグループ)の走りに感謝。レース後、報道陣からも「1位」と聞いて笑顔がはじけた。WASJでは「地方代表として恥ずかしくないレースを」と。JRAや世界の名手相手に大暴れを期待したい。

2位は41Pの吉村騎手、3位は37Pの赤岡騎手。表彰式でファンらの拍手と祝福を受けた。ナイター競馬で発走8時。第3戦を前に本田騎手は「帰りは新幹線(午後9時3分発)に乗るので、表彰式に出られないかも」と話していたが、何とかファンの前で晴れ姿を見せることができた。ただ、優勝インタビューやサインなど交流の場がなかったのは残念だった。9Rでは2頭も競走除外(準備運動中の馬体故障)になり、赤岡騎手と矢野貴之騎手は騎乗できず。11Rで勝って総合3位に食い込んだ赤岡騎手、9Rの騎乗予定馬はAグループでもあった。
■渡辺騎手総合6位、塚本騎手は7位
☆総合ポイント順位
①本田 正重(船橋) 48P(1着、7着、4着)
②吉村 智洋(兵庫) 41P(5着、1着、12着)
③赤岡 修次(高知) 37P(12着、除外、1着)
④室 陽一朗(浦和) 30P(6着、2着、9着)
⑤中島 龍也(金沢) 28P(4着、4着、8着)
⑥渡辺 竜也(笠松) 27P(3着、8着、6着)
⑦塚本 征吾(愛知) 26P(11着、3着、5着)
⑧矢野 貴之(大井) 25P(8着、除外、3着)
⑨野畑 凌 (川崎) 23P(10着、9着、2着)
⑩山本 聡哉(岩手) 22P(2着、10着、10着)
⑪山口 勲 (佐賀) 18P(9着、5着、7着)
⑫石川 倭 (北海道) 15P(7着、6着、11着)
(P=ポイント、除外は6P)

渡辺騎手は3、8、6着で総合6位。塚本騎手は11、3、5着で総合7位。ともにほろ苦い結果となった。
■渡辺騎手「楽しかったですよ」塚本騎手「乗り方、課題ですね」
渡辺騎手は「(最後のレースは)6着でしたね。もまれてしまって厳しい展開になっちゃいました」。3戦を振り返って「まあ楽しかったですよ。他のジョッキーの皆さんとも楽しくやらしてもらいました」といつも爽やかな渡辺騎手。思い描いた表彰台には届かなかったが、また次のチャンスでファンの期待に応えたい。

塚本騎手は「金沢はスピード競馬なんで乗りづらいですね。(直線で距離がある)名古屋での乗り方にとらわれていて課題ですね」と反省の弁。「でも最終戦はやっと競馬ができた感じでした。前へ行ってもつぶされちゃうんで」と好位から追い上げて5着、掲示板は確保できた。この日は金沢所属で兄の甲賀弘隆騎手(旧姓・塚本)とも再会した。甲賀騎手は10Rで渡辺騎手とも対戦し、6番人気馬で3着に食い込んだ。
■「ファンを札幌に連れてって」
笠松、名古屋のトップから全国区での活躍も期待したい渡辺騎手と塚本騎手。まだ25歳、21歳という若さで伸び盛りの2人。最多記録や最速記録など今後どんなレコードを更新していくのか。日々の攻め馬、レース騎乗でけがなどなく、プライベートでも充実した日々を送って末永くジョッキー人生を歩んほしいものだ。そして、いつか「ファンを札幌に連れてって」ほしいものだ。
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
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