自身が館長を務める山梨県南アルプス市の若草瓦会館で、作った鬼瓦を持つ永利郁乃さん=4月

 山梨県の伝統工芸品「甲州鬼瓦」を制作し、同県南アルプス市にある鬼瓦の伝承施設「若草瓦会館」の館長も務める永利郁乃さん(41)は、仏像修復師の顔も持つ。「唯一無二の掛け持ちだろう」とはにかみつつ、二つの伝統を守ろうと奮闘している。

 福岡県出身の永利さんは、地元で芸術系の高校を卒業。2002年、身延町の身延山大に進学し、大学の仏像制作修復室で技術を学んだ。

 横浜市で会社員として働いていた11年、大学の恩師で、瓦会館の設立にも尽力した柳本伊左雄名誉教授から、会館の館長職に誘われた。いつか山梨に戻り仏像の仕事に携わりたいと考えていた永利さんは「鬼瓦のことは全く知らなかったが、何も考えずに『やります』と伝えた」。12年4月から3代目館長を務め、一から瓦作りを学んだ。

 甲州鬼瓦は、魔よけとして使われる「鬼面瓦」や、家紋を入れたものがある。南アルプス市の若草地区で約300年前に制作が始まったと伝わるが、現在の職人は永利さんを含めて2人だけだ。永利さんは制作の傍ら、体験工房や、児童生徒の校外学習に力を入れる。