両目が初期緑内障である患者の視野検査結果の合成画像。黒い表示は見えない箇所で、Lが左目、Rが右目。両目で見た場合(下)は見えない箇所が減る

眼科医 岩瀬愛子氏

 「最近見た映画の主人公が緑内障という設定でした」「緑内障は初期でも運転は危ないんですか?」。3月初めの世界緑内障週間でいろいろな人と話をする中で、複数の人から映画のことを言われ、主人公の緑内障がどう扱われているのか気になったので実際に見てみました。

 カンヌ映画祭脚本賞や日本アカデミー賞を取ったその作品は、著名な作家の原作を基に作られた映画です。確かに主人公は初期緑内障が片目にあって、車の衝突事故を起こすシーンがあり、精密検査で初めて緑内障が見つかるという設定でした。日本眼科医会の緑内障専門医である医師の眼科指導がされているようで、医師が診断結果を告げるシーンも、その背景に映されているその患者の検査所見であるという設定の画像診断結果も違和感のないものでした。

 医師は片目が初期の緑内障であると告げ、反対の目が見えているので発見されにくいが左目の一部の視野が欠けていると言い、「早期に発見されてよかったですね」と主人公に説明していました。主人公が「運転はできますか?」と聞くと医師は「不可能ではないです。症状は進行しないうちは」と答えます。そして毎日の点眼を怠らず治療を続けるように説明しています。日頃の外来でよくある会話のままのせりふでした。

 しかし、初期の視野異常しかない主人公が車の衝突事故を起こす設定になっているし、それが映画のタイトルにもつながるのが少し気になりました。

 緑内障は左右の目に発症し、その進行度が違うことが多いので、両目で同時に見ている(両眼視といいます)と視野異常をカバーしてしまう初期は、運転をはじめ日常生活への支障は通常ではありません。中期になっても、自分に緑内障があり視野異常があることを知って注意すれば安全に運転できることもまれではありません。しかし怖いのは視野異常があることを知らない場合、つまり、緑内障にかかっていることを知らない場合です。そして、とうとう両目で見ても安全運転が不可能と考えられるところまで視野異常が進行してしまった場合は、事故防止のためには、運転はやめなければならなくなることもあります。

 そして、運転に集中できず外界の情報に常に注意が向いていない状態や、両眼視ができなくなる状態が起これば、カバーできないので、視野異常はどの状況でも危ないといえます。この映画の設定の場合、たとえ初期の緑内障であっても自分の視野に見えないところがあることを知らず、舞台のせりふの練習を車の中でするという設定で安全運転への集中がないことから、事故が起こってもおかしくない条件はそろっているのかもしれません。それは緑内障の有無とは関係ないともいえます。そして、映画の中には、治療の点眼をするシーンもありました。眼科医から見てもよく考えられている脚本だと思いました。

 そう、緑内障は初期から中期で注意すれば安全運転はできますが、進行すると運転が危ない時期になってしまいます。大事なのは「早期発見」と進行させないための「継続治療」です。緑内障だけではなく他の目の病気や、脳の病気で視野異常が起こりますが、自覚がない場合も多く、検診の機会を持つことが重要ですね。

(たじみ岩瀬眼科院長、多治見市本町)