
1990年末、ジャパンカップで11着に敗れ、限界説もささやかれたオグリキャップだったが、4番人気で挑んだラストランの有馬記念を制覇した。最後まで諦めずにゴールを目指すことの素晴らしさを教えてくれ、感動的な「オグリ、オグリ、オグリ」の大合唱となった。
■有馬記念Vのオグリキャップのような底力発揮を
笠松育ちのオグリキャップ。3歳(現2歳)でものすごい成長力を引き出したのは現場の調教師、厩務員、騎手たちだった。そんな彼らが今の仕事を失うかもしれない危機感を背負いながら「存続」の2文字を追い掛けてラストスパート。オグリキャップのように最後の直線で底力を発揮し、逆転ゴールで存続を勝ち取ることができるのか。県の第三者機関(笠松競馬経営問題検討委員会)での「存続派1」対「廃止派22」という絶望的な大差から、ライブドア頼みでミラクルを起こすことはできるのか。
ホリエモンこと堀江貴文ライブドア社長が、笠松競馬の経営参入に意欲を示したこともあって、検討委最終報告書では「即廃止」には至らず。存廃の結論は先送りされ、ライブドアが「時間稼ぎ」の役目を果たしてくれた。予算編成の期限である2005年2月初めのタイムリミットまでに、笠松のホースマンたちが現場の底力を発揮する時が来た。今回で最後の東海ゴールドカップとなるかもしれない2004年12月の動きを中心に「存廃の行方」を追った。

■暗いトンネルの先にかすかな光
存続派を喜ばせたのは検討委最終報告書の提言にあった「民間企業の参入」と「東海競馬の再生構想」の付記。絶望的な「廃止」提言に、付け加えられた2項目。存続を願うジョッキーら厩舎関係者には、暗いトンネルの先にかすかな光が見えてきたのだ。
検討委からは「速やかに廃止すべき」の最終提言はあったが、IT先進県である岐阜県にとって、IT関連企業ライブドアの笠松競馬参入提案は見捨てることができないものだった。堀江社長の構想は、馬券のネット販売を出走表の充実やライブ映像の配信で後押し。ITを駆使して時代を先取りする野望は画期的なアイデアだった。今となってはJRAネット投票、オッズパークなど馬券のネット販売は、地方競馬で90%を占めるほど浸透している。笠松競馬はライブドアのおかげで「即廃止」とならず、アイデアを練り直し、現場が存続に向けて一体となる時間を与えてもらえた。
■県と2町「赤字には税金投入せず」
だがライブドアは果たして、どこまで本気で経営参加をしてくれるのか。取材する立場としても半信半疑だった。東京のライブドア本社に問い合わせの電話を入れても、保留になったまま、広報には結局つながらないこともあった。廃止寸前の笠松競馬に、救済の手を差し伸べようとしてくれていたが、「ネット販売をやって、手数料を稼ぎたいだけなのでは」との印象も強かった。ただ、わらにもすがりたい思いだった存続派は、どんな形でもいいのでライブドア参入を期待していた。
2004年12月1日、笠松競馬構成団体の岐阜県、笠松町、岐南町は「笠松競馬対策委員会」の設置を決めた。経営参入の意向を示しているライブドアが提示する具体案を検証するためだ。対策委は第三者機関の最終報告を踏まえ「経営赤字には税金を投入しない」方針を確認した。

■ライブドア側「本年度の赤字分、寄付という形で補てんも」
ライブドア側はこの時点では、担当者が「損失が出た際は、ゆだねられた業務の範囲で応分の負担をする考えもある」と話していた。公益法人を通じてレースの主催、コスト削減へのてこ入れ、役員構成への決定権、馬券のオンライン販売などを担いたい意向だった。笠松競馬は当時、1開催日に付き約1000万円もの赤字が出ていた。これに対してライブドア担当者は「意向がある程度受け入れられるなら、本年度の赤字分を寄付という形で補てんする可能性もある」とも説明していた。
■「廃止」を答申、東海競馬構想は「愛知県側が乗ってこない」
一方、県の第三者機関は「民間企業の参入や東海競馬の再生構想についても検討すべき」と付記しながら、現状の経営状況については「速やかに廃止すべき」とする最終報告を梶原拓知事に答申した。金城俊夫委員長は「従業員関係者にとっては死活問題になるため、慎重に検討してきたが、地方財政には貢献できず、自立経営は困難と判断した」と語った。
再建策では、地方競馬全国協会が名古屋競馬と一体化した「東海競馬構想」を打ち出していたが、笠松存続に向けた具体案は示されていなかった。梶原知事は「愛知県側が乗ってこない」とし、現段階ではライブドアの参入案が唯一の検討対象になっている考えを示した。
当時の名古屋競馬と笠松競馬は「お互い競い合っていて、仲が良くない」という声も聞こえていた。名古屋競馬では既に約40憶円の累積赤字を抱えていたし、やはり他場の赤字リスクまで抱える合理化案には消極的だったとみられる。

■広江笠松町長「存続を諦めていない」
笠松競馬は、雇用面でも地域経済に大きな影響力を持っている。当時は1000人以上が仕事に関わり、廃止となれば家族を含めれば約3000人の生活を脅かすことにもなった。9月に「速やかに廃止すべき」とした県の第三者機関の中間報告に対しては県議、笠松・岐南町議会、馬主会、調騎会、厩務員労組は笠松競馬存続への支援を求めた請願書を主催者側に提出。「関係者一丸となって、存続し発展することを切に願う」と立ち上がった。
笠松競馬場がある笠松町の広江正明町長は「検討委から最終報告を頂いたが、存続に関しては諦めていない。民間参入も含め、競馬場存続に最大限努力する」との考えを、町議会一般質問で示した。
■ライブドア「財団法人設立、レース継続へ寄付」提案
ライブドアは12月3日、財団法人で競馬事業を運営する提案を県に提出した。法人はライブドアと県で設立するとし「法人団体での運営が開始されるまでの間はレースを継続し、その費用は寄付で負担する」(担当者)とした。寄付の条件としては馬券のインターネット販売も提案。「可能であれば、早く参入したい」と述べた。
梶原知事は県議会一般質問の答弁で「現状のままでは来年度の開催を前提とした(組合の)予算編成は困難」との見解を示した。予算編成の期限は2月であることから、笠松競馬の存廃方針は「1月中旬までには結論を出したい」とした。
新聞紙上では「年末回顧2004」も始まっていた。岐阜新聞では最終回で「笠松競馬存廃問題」が取り上げられ、「経営難、岐路に立つ名門」として最終的な県の結論が注目された。
当時は名古屋支社に勤務していたが、名鉄沿線にある笠松競馬場の取材を続けていた。署名活動などで存続支援をファンらに呼び掛けていた笠松愛馬会代表の後藤美千代さんを「頑張ってます岐阜県人」のコーナーで紹介した。
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■「プラスアルファ」を模索 「頑張ってます」岐阜県人 笠松愛馬会代表の後藤美千代さん

存続に揺れる笠松競馬。「何とか残してください。競馬場がなくなったら、笠松町と岐南町も寂れてしまいそう」と、祈るようなまなざし。
今年4月、危機感を抱いた調教師の妻たちが中心になって「主催者とファンのパイプ役に」と笠松愛馬会を結成。レース日のあいさつ運動や競馬グッズプレゼントのほか、バザー出品の縁で福祉施設の園生を招待し、馬に親しんでもらった。
岐阜、愛知県内での笠松競馬存続活動では9万人を超える署名が集まった。「競馬場は『託老所』みたいな存在で、楽しみを奪わないでほしい。活動頑張って」。年配ファンの声に勇気づけられた。笠松の騎手、調教師を務めてきた夫を支えて30年。「馬しか知らないし、馬にかかわる仕事しかできない」と将来の生活に不安を募らせる。
経営は厳しいが累積赤字はまだない笠松競馬。「競馬法改正で民間参入の可能性があるのに『廃止』ではやり切れない。見捨てずに4、5年様子をみてほしい」と新しい競馬場づくりを夢見る。
「入浴施設やショッピング街など、競馬場に何かがプラスされれば家族連れや若者も楽しめる。地域経済に貢献できるアイデアを出していきたい」。逆風の中でも笑顔を絶やさないメンバーの明るさが頼もしい。願いは「存続」の2文字。羽島郡岐南町在住。50歳。(2004年12月29日付・岐阜新聞県内版)

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■雪の中、存続願い声援熱く 年末レースに3000人
来年も年末の競馬を楽しみたい―。笠松競馬場で31日、今年最後のレースが行われ、雪にもかかわらず、スタンドには大勢のファンが詰め掛けた。
存廃問題に揺れた今年の笠松競馬場。県などの今後の協議次第では、今回で最後の年末レースとなる可能性もあるだけに、この日はあいにくの雪にもかかわらず、普段の1.5倍にあたる約3000人のファンが訪れた。
ファンらは騎手と競走馬に熱い声援を送り、各レースごとに歓声とどよめきが交錯。ファンからは「ぜひとも存続してほしい」との声が多く聞かれた。競馬場存続に向けて活動をしている笠松愛馬会の後藤美千代さんは「来年の大みそかも笠松競馬場にいたい」と話していた。(2005年1月1日付・岐阜新聞社会面)
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笠松競馬廃止論で激震が走った2004年は幕を閉じた。最終結論まで残り1カ月と迫ったが、ライブドアの参入は不透明のまま。厩舎関係者は「廃止も仕方がない」と補償金をもらって笠松から離れるのか、「ファンの応援を力に、ここで競馬を続けたい」という思いの方が強いのか。現場のホースマンたちがどこまで結束できるかが、存廃への分かれ目となった。
☆ファンの声を募集
競馬コラム「オグリの里」への感想や要望などをお寄せください。 騎手や競走馬への応援の声などもお願いします。コラムで紹介していきます。
(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆最新刊「オグリの里4挑戦編」も好評発売中
「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」に続く第4弾「挑戦編」では、笠松の人馬の全国、中央、海外への挑戦を追った。巻頭で「シンデレラグレイ賞でウマ娘ファン感激」、続いて「地方馬の中央初Vは、笠松の馬だった」を特集。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、196ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも。