精神科医 塩入俊樹氏

 今回は「ギャンブル症」です。実はこれも2013年に初めて病気と認められた、前回のゲーム症と同様に比較的新しい概念の病気です。ギャンブルとは「さらに大きな価値のあるものを得たい、という願望によって、価値のあるものを危険にさらすこと」です。日本だけでなく、世界中の人々がゲームや多くの出来事に対して賭け、つまりギャンブルをしますが、ほとんどの人ではその行為自体が特に問題となるようなことはありません。

 しかし中には、ギャンブルに関連して、本人だけでなく、家族や職務の遂行を破壊してしまうような大きな機能障害を認める人もいます。そうなると、その人がギャンブル症である可能性が出てきます。生涯有病率は一般人口の約0・4~1・0%で、大半は青年期から若年成人期の間に起こり、男性が3倍多いといわれています。

 具体的には、12カ月以上続く、持続的かつ反復性の不適応な問題賭博行動で、以下の九つの症状のうち四つ以上があることが必要です。

①興奮を得るために、賭け金の額を増やしてギャンブルをしようとする

②ギャンブルをするのを中断・中止すると、落ち着かなくなるか、いら立つ

③ギャンブルを制限する、減らす、中止するなどの努力を何度もするが、成功しなかった

④いつもギャンブルに心を奪われている(例…過去の賭博体験を再体験する、ハンディを付ける、次の賭けの計画を立てる、ギャンブルのための金銭を得る方法などを絶えず考えている)

⑤気分が優れない時(例…無気力、罪悪感、不安、抑うつ)に、ギャンブルをすることが多い

⑥損をした後、別の日にそれを取り戻しに帰って来ることが多い(失った金を深追いする傾向が強まる)

⑦ギャンブルへののめり込みを隠すために、嘘(うそ)をつく(賭博をする金を得るために行う偽造、詐欺、窃盗、または横領のような非合法な行為を隠(いん)蔽(ぺい)することも含む)

⑧ギャンブルのために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらすか、失ったことがある

⑨ギャンブルによって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に借金を頼む

 重症度は、4~5項目であれば軽度、6~7項目で中等度、8項目以上で重度、と3段階です。また、失った金を深追いする傾向が強まると、損害を取り戻すために、戦略などなく、しばしば高額の賭け金やより大きな危険を伴う賭けを行い、失ったもの全てを一度に取り戻したいと強く思うようになります。この「深追い」は頻回かつ長期間となり、全てを失う結果が待っています。

 実は、ギャンブル症の人はギャンブルをして楽しいばかりではありません。治療中の約半数の人には自殺念慮があり、約17%が実際に自殺企図をしてしまうのです。ご心配ならば、ぜひ一度、専門家の診察を受けるようにしてください。

(岐阜大学医学部付属病院教授)