渡辺竜也騎手の地方通算400勝達成セレモニー。「アレッ」、プラカードを持っているのは渡辺騎手のようだ(笠松競馬提供)

 

 桜の花びらが舞い散る笠松競馬場。6日、新緑シリーズで新年度のスタートを切った。逆風続きの1年前は「冬眠状態」だったことを思えば、今年は熱い戦いが繰り広げられており、まずは一安心だ。

 初日のハイライトシーンは、笠松競馬のエース格に成長した渡辺竜也騎手(22)の地方競馬通算400勝達成セレモニー。新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置が解除。久しぶりに騎手インタビューがウイナーズサークルで行われ、笠松ならではの「勝負服パフォーマンス」も復活。詰め掛けたファンを喜ばせた。
 
 渡辺騎手といえば、勝利量産でゴールシーンを熱くするとともに、騎手仲間を活気づけ、ファンを大事にする「笠松競馬盛り上げ隊」の隊長でもある。一連の不祥事で大揺れしても、常に前向きで周囲を明るくしてくれる頼もしい存在。今年1月、攻め馬中の落馬事故から3カ月ぶりに復帰。自分の成績よりも「この1年、無事に。(不祥事など)競馬場も何事もなくね」と願っていたのが印象的だった。笠松競馬は再開後もコロナ禍で1開催が中止されるなど、まだ順風とはいかないが、一歩ずつ再生の道を歩み始めている。

 セレモニーでは、まず渡辺騎手のV字勝負服を着た4人が登場。お立ち台にはなぜか、期間限定騎乗の田中洸多騎手の姿が…。そして、渡辺騎手自身が「祝400勝!」のプラカードを持っており、アナウンサーも「アレッ」と驚きの声。演出通りに進んだようだが、続いて東川慎騎手がお立ち台に上がったところで、お遊びはタイムアウト。深沢杏花騎手も横に並んでにっこり。華やかなムードに包まれ、ファンらが祝福の拍手を送った。

「祝400勝!」。笠松競馬盛り上げ隊の隊長である渡辺竜也騎手と後輩の東川慎騎手、深沢杏花騎手、田中洸多騎手(笠松競馬提供)

■「笠松競馬場を楽しんでもらえるのが幸せ」

 年度末のスプリングシリーズでは、12勝を挙げた渡辺騎手。初日5R、自厩舎のサンキューサンクス(牡4歳、笹野博司厩舎)で地方競馬通算400勝を達成。当然通過点であり、「まだ400勝だなあという感じで、年内に500勝できるように頑張りたいです。重賞に限らず、いい馬に乗せていただいているので、まずは次の1鞍での1勝を目標に、もっと貪欲に勝っていきたい」と自信にあふれた言葉。

 デビューから5年。NAR優秀新人賞を受賞したほか、重賞レースでは「永遠の愛馬」ストーミーワンダーで3勝するなど計5勝。先輩騎手たちが不祥事で引退し、押し出される形にはなったが、人気・実力ともに「笠松の顔」といえる存在になった。

 将来的な目標については「あんまり考えていないですが、皆さんに笠松競馬場を楽しんでもらえるのが幸せです。たくさんの方に応援していただき、自分自身も乗っていて楽しいです」と語り、騎手らホースマンとファンとの一体感を大切する姿勢をにじませた。

 「若手3人を連れて来ました。みんな一生懸命乗っているんで、応援していただけるとうれしいです。笠松競馬を楽しんで帰ってください」とファンに呼び掛け。勝負服の「V字」をデザインした400勝記念マフラータオルのプレゼントも事前に行われ、多くのファンが並んだ。

 前開催初日に4勝するなど好調をキープ。29勝の岡部誠騎手を追い抜いて33勝(4月9日現在)。一気にリーディングトップに躍り出て、今年こそは初めてとなるリーディングの座を奪いたい。まだ22歳。笠松競馬場にどっしりと腰を据えて戦う姿は好感が持てる。けがや病欠などには十分注意を払い「年内に500勝」を達成できたら、笠松伝統芸?の「かぶり物」でも盛り上げていただきたい。           

笠松騎乗の期間延長を決め、張り切る田中洸多騎手

■田中洸多騎手(大井)が期間延長、「笠松いい雰囲気」

 期間限定騎乗の騎手ではただ一人、笠松に残って騎乗している田中洸多騎手(大井)。まだ19歳で、渡辺騎手と同じ笹野厩舎でお世話になっている。新緑シリーズまでの予定だったが、6月3日まで延長することにした。田中騎手はコロナ禍や胃腸炎での欠場もあって、「3開催、乗れなかったんでね。しっかりと学びたいです。渡辺先輩らの騎乗技術を少しでも盗めるように頑張ります」と、休んだ3開催分を延長することにした。

 笠松コースでの競馬については「仕掛けどころが大事ですね。大井でもそうでしたが、置いてかれたら駄目なんで。まだまだ、笠松で乗りたいです。笹野厩舎には強い馬もいるし、(勝てるように)先生が用意してくれてるんで。1開催2勝が目標です」と前を向いた。

 「でも競馬エースとか専門紙を見て、印が付いていると緊張もしますね。大井ではあまりないことですから。周りの騎手もプレッシャーかけてくるんでね」。7日の6Rでは、騎乗したデモネタブンキット(牝4歳、笹野博司厩舎)が1番人気。本命の◎印がいっぱい付いていたが、鮮やかな勝利を飾った。馬名の通り、きっと勝ってくれると信じて初Vに導き、自身笠松では4勝目とした。

 笠松の雰囲気については「ジョッキーは少ないですが、まとまってていいです。渡辺先輩はリーディングですけど、優しくて普通に接してくれて、よくしゃべってます」と笠松が気に入った様子。

 地方競馬ではレベルが高い大井所属。今年4月デビューの新人も、10人のうち8人が南関東に所属。やはり、賞金が高いこともあって人気だ。田中騎手は「笠松では乗り鞍も多くありますが、大井では勝たなくても攻め馬だけで生活できちゃうんです。調教料は1頭700円で1日に20頭乗ればね。レースでの騎乗手当も1頭1万円以上だし」と。笠松では4月から騎乗手当が1頭当たり7500円にアップ。調教手当は1回300円程度(保険料50円込み)だ。笠松と南関東では、騎手への手当でもやや格差がある。「でもそれで(騎乗機会が少なくなって)埋もれていく騎手になっちゃうこともある」とのことだ。

 デビューして2年。「笠松に移籍したらどうか」との問いには「考えていない」ようだが、期間限定では、来年以降もまた来てくれそうだ。まずは、騎乗技術をしっかりと磨いて、残りの開催で勝利を積み重ねていきたい。

弥富に移転した名古屋競馬場でパドックを周回する宮下瞳騎手

■新名古屋競馬場、宮下騎手「直線長くなり、差しが決まる」

 名古屋競馬場は8日、弥富に移転後初の開催を迎えた。宮下瞳騎手が、開場日(3月22日)の模擬レース後に新競馬場の特徴や印象について語ってくれた。

 コースについて「調教では乗ってましたが、レースになると、ちょっと違った感じで新鮮です。コーナーがやや緩やかで、最後の直線が長く感じましたが、末脚がいい馬には有利かなあと」。

 生活のリズムについて「旧競馬場へは移動に30分ほどかかり、すぐにレースでしたが、弥富ではその分、自分の部屋とかで休む時間が増えるので、楽になるのでは。ナイター(4月25日に初開催)も始まるんで、そのリズムに慣れるまでは体が大変かもしれないですが、楽しみにしています」。
 
 新競馬場での目標について「まずは、けがのないようにレースをしたいです。昨年よりも1勝でも多く勝てたらいいなと思います」。最後の直線が240メートルで、46メートル長くなったことは「スタートで馬に無理させないで、道中もできるだけリラックスさせれば、ラストの差しとかも効いてくるんで、勝てるんじゃないかなあと」。

 パドックやコースとファンとの距離感については「騎手や馬ともすごく近くなったので、楽しんでもらえるのでは。(新設された屋内馬道では)ファンの視線とかを感じますし、見られていて、すごく新鮮でいいと思います」。

直線距離が240メートルと長くなった新名古屋競馬場のゴール前

■初日、深沢騎手と藤原騎手が名古屋参戦

 開催初日、丸野勝虎騎手が騎乗したローザキアーロが新競馬場でのV1号。1500メートル戦で行われた東海桜花賞(SPⅠ)は、吉原寛人騎手騎乗の川崎・インペリシャブル(牡5歳、高月賢一厩舎)が直線で抜け出して圧勝、弥富での初代重賞馬に輝いた。2着は兵庫のサンロアノーク、東海ダービー馬の地元・トミケンシャイリが3着に食い込んだ。昨秋の笠松グランプリ優勝馬の高知・ダノングッドは伸びずに6着、カツゲキキトキトは9着に終わった。吉原騎手は、さすがは「さすらいの重賞ハンター」といえる好騎乗だった。

 笠松勢では、8Rで深沢杏花騎手が名古屋のフークリシャールに騎乗し11着、10Rでは藤原幹生騎手が名古屋のセイカリスで6着だった。今後、笠松勢の騎乗や馬たちの挑戦も増えそうだが、1500、1700、2000メートルと100メートルずつ距離が延びており、ペース配分など慣れるまでに時間を要しそうだ。
 
 名古屋競馬場へ行きたいファンにとって、岐阜方面からの交通の便はどうなのか。弥富市ということで、鉄道でのアクセスはやや不便になった。そこで岐阜市内からは、車で長良川堤防沿いに新競馬場へ行ってみた。海津市の木曽三川公園センターからは約30分。一般道で行くなら、港区の旧競馬場に比べて約20分短縮され、近くなった印象だ。

新緑賞を制覇した名古屋のリンクスターツ(大畑雅章騎手)、2着はイイネイイネイイネ(渡辺竜也騎手) 

■新緑賞は名古屋のリンクスターツV、地元イイネイイネイイネ2着

 7日に行われた笠松3歳重賞「第48回新緑賞」(SPⅡ、1600メートル)は、名古屋のリンクスターツ(牡3歳、榎屋充厩舎)が制覇した。大畑雅章騎手の騎乗で1番人気。大外からダッシュ良く先頭を奪うと、快調に逃げ切った。地元・笠松期待のイイネイイネイイネ(牡3歳、田口輝彦厩舎)は、渡辺騎手の騎乗で後方待機策。3~4コーナーから強烈な差し脚で追い上げ、実況でも馬名を連呼されたが、勝ったリンクスターツに1馬身届かず2着。榎屋充調教師は開業2年でうれしい重賞初Vとなった。

 勝利インタビューで大畑騎手。リンクスターツとは初コンビだったが、「(主戦の)今井貴大騎手からアドバイスもあり、ハナを切って作戦通りでした。オープンでペースに戸惑うところもあって道中きつかったが、しまいまで頑張ってくれました。これから強くなる馬。次は今井騎手が乗るでしょうが、頑張ってほしいです」と思い通りのレース内容に満足そう。今井騎手は笠松のコスモナビゲーター(牡3歳、笹野博司厩舎)に騎乗し、3着だった。

 地元ファンの声援を受けた渡辺騎手にとっては悔しい2着となったが、東海ダービーを視野に入れて、イイネイイネイイネの豪脚は一発の魅力がありそうだ。

桜並木をバックに一斉にダッシュする各馬。応援する若いファンが増えている  

■スタンドにオールドファン、ラチ沿いには若者

 1400メートル戦のスタート地点では、桜並木をバックに各馬が一斉にダッシュ。近走不調馬を集めた、波乱必至の最終レース「C級サバイバル」は4番人気馬が勝ち、3連単3万3220円での決着となった。重賞レースもあって、スタンドに陣取ったオールドファンたちは馬券を握りしめて、各馬の奮闘ぶりに熱狂。ゴール前や第4コーナーのラチ沿いでは、迫力あるレースやお目当ての人馬を撮影したり、応援する若いファンの姿も目立った。笠松ならでは、競馬場西側では名鉄電車が往来し、桜吹雪とともにのどかな景観と熱いレースを楽しんでいた。

 笠松・新緑シリーズは、11~13日の名古屋開催を挟んで14、15日、18、19日にも開かれる。

 新年度の開催がスタートしたばかりだが、不祥事のないクリーンな競馬場に生まれ変わることはできるのか。「笠松の馬券は買わない」というファンもいて、信頼回復はまだまだ。騎手も競走馬も足りず、レース運営上の課題は山積みでもある。次回以降、再生への道筋なども探っていきたい。