懐中電灯がぬれた黒褐色の壁を怪しく照らした。天盤から染み出した水でぬかるむ地面。この水が支持層を浸食し、陥没や地盤沈下を引き起こす。記者が入った調査口も、坑道を支える残柱が崩れてくびれていた。今、地震が起きたら-。坑内のひんやりとした空気を頬に感じた。
南海トラフ巨大地震に備え、可児郡御嵩町は亜炭鉱を埋める対策事業を進める。ただ、調査でも空洞の場所や規模は完璧に把握できない。掘れば掘るだけ金に換わった時代。人々が野放図に延ばした坑道は、地下に茫洋(ぼうよう)とした闇を作り出した。
予算の都合上、対策事業は2024年度内に終える必要がある。町亜炭鉱廃坑対策室の早川均室長は「時間との闘い」と着工を急ぐ。
坑道を出ると、むせ返るような草の匂いがした。のどかな風景の下には、これからも向き合わなければならない過去が潜んでいた。
◆memo
石炭より質が劣る化石燃料「亜炭」を掘削した鉱山。御嵩町は地中浅くに亜炭層があり、明治期より尾張地方と並ぶ一大産地に。戦中は航空燃料に用いられた。重油燃料に押され、1967年に町内全てが閉山。坑道は空洞で残り、陥没などを起こしている。