文化庁の会議の様子。筆者が参加した日は技の環を含む5団体が発表した=京都市

 8月26日朝、私は京都へ向かう電車の中でプレゼン資料を見ながら早口でつぶやき、時間を計っていた。文化庁の会議に有識者として招かれ、15分の発表枠が与えられたためだ。限られた時間内に技の環の活動を分かりやすく伝えるとともに国への提言もしたいので、直前までブツブツと「リハーサル」をして臨んだ。

 会議のテーマは文化財の持続可能な保存継承体制を作ること。日本が誇る建造物や美術工芸品などを次世代へ伝えるためには修理技術者や用具・原材料の生産者が必要だが、いずれも高齢化で人が減り、文化財が失われる危機に瀕(ひん)している。そこで文化庁では「文化財の匠(たくみ)プロジェクト」と名付けた2022年度から今年度までの5カ年計画を作り、実践してきた。そして今、次の5カ年計画を検討しているのだ。

 現行計画では、用具・原材料の生産を国が積極的に支援することや文化財の保存に欠かせない「選定保存技術」を持つ個人や団体の認定数を拡大することなどが掲げられている。実際に21年度に58人34団体だったものが、今年1月には63人48団体に増加した(重複認定を除く実団体数は40)。

 数の上からは順調に見えるが、新たな課題も生まれている。認定を受けた団体の一部から、組織運営や経理にまでとても手が回らないという悲鳴が上がっているのだ。こうした技術者や原材料生産者はもともと零細な事業者が多く、団体を作っても事務作業まで職人自身が担わざるをえない。これではせっかく国が支援のメニューを作っても、それを十分に活(い)かすことが難しい。

 このような状況は、経済産業省の所管である「伝統的工芸品」にも当てはまる。岐阜県では飛騨春慶、一位一刀彫、美濃焼、美濃和紙、岐阜提灯(ちょうちん)、岐阜和傘の六つが伝統的工芸品に指定されており、後継者育成などに経産省の補助金を使うことができるが、現在補助金を活用できているのは2団体に留(とど)まる。やはり、補助金を得て新たに事業を行うメリットよりも新たに生じる事務作業のデメリットの方が上回りそうだと、メニューの活用に及び腰になるのだ。

 私たちは現場と行政をつなぐ「中間支援組織」の必要性を感じ、2年前に自ら先例となるべく技の環を立ち上げた。県から委託を受けて職人支援を始めてみると、相談件数は1年目に延べ116件、2年目は274件にのぼり、現場に細かな課題が実に多いことに改めて気付かされた。支援に対して感謝の声をいただくことも多い。

 そんな実践を踏まえ、会議では技の環のような中間支援組織を国が各都道府県ごとに育ててはどうかと提言した。リハーサルの甲斐(かい)あって、会議の委員や文化庁職員たちに課題意識は伝わったようだ。岐阜の現場から届けた声が国の政策に生かされるか、期待したい。

(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)

 【文化庁の会議】 文化審議会文化財分科会の企画調査会が次の文化財の匠プロジェクトについて検討している。プレゼン資料や議事録は文化庁ウェブサイトで閲覧できる。「文化庁 企画調査会」で検索し、令和7・8年度、第7回のページに技の環の発表資料がある。