古い挽き曲げ用の鋸を見る天龍製鋸株式会社生産部長の塚原俊弘さん(左)と、営業の八木寛光さん=静岡県袋井市
西田恵一さんが曲げたヒノキの板。切り込みにすき間が見られない=高山市

 挽(ひ)き曲げという木工技法がある。薄い木の板の内側に何本も鋸(のこぎり)の切り込みを入れ、木を曲げる技法だ。お供え物を載せる三宝をイメージすると分かりやすい。昔は手鋸で加工していたが、数十、数百もの製品を作る現代の職人たちは丸鋸の機械も使う。

 飛騨春慶の木地や茶道具を作る高山市の伝統工芸士、西田恵一さんもその一人だ。「これは親父(おやじ)の代から使っている丸鋸刃で、もう作れる所がないんですよ」。そう言って、薄い丸鋸刃を見せてくれた。最近の一般的な丸鋸刃はチップソーといって、刃の先端に四角い合金が貼り付けてある。この刃で切ると切り込みの底が四角くなり、板を曲げるとわずかにすき間ができてしまう。

 一方、西田さんの丸鋸刃は挽き曲げ専用で、刃の先端が尖(とが)っている。だから切り込みはV字型になり、曲げるとそのV字がぴったりふさがれてすき間がなくなる。自身は父親から譲り受けた刃を使い続ければよいが、この世界に入ってくる職人のために新しい刃を作れる所を探したいと西田さん。そこで技の環が2年前にその丸鋸刃を借り受け、同じものを作れるメーカーを探し始めた。

 最初は小規模なメーカーに依頼してみた。親切に対応してくれたのだが、できあがった試作品で加工するとなぜか切り込みの内側が黒く焦げてしまう。不具合を告げて再試作してもらったが改善しない。4回目の試作品を待つうち、驚いたことにそのメーカーが倒産してしまった。次に大手のメーカーを訪ねた。しかし、もうそんな古いタイプの刃は作っていないという。特注の製品に対応するのは難しくなっているのだ。

 諦めずにもう1軒別の大手メーカーを訪ねてみた。すると対応してくれた生産部長が西田さんから預かった古い丸鋸刃を見るなり「これはうちの刃ですよ!」。持参した私自身も気づかなかったのだが、盤面にかすかにその会社のマークが印刷されていたのだ。「これは古いものだなあ。こんなに大切に使ってくれているなんて感動ですね」。意気に感じたのか、生産部長は試作をしてみると言ってくれた。

 3カ月後に試作品が届き、さっそく西田さんのもとへ持参して試用してもらった。厚さ4ミリの板に6本の切り込みを入れ、湯につけて柔らかくして曲げてみると、見事にすき間なく曲がり、切り込みに焦げも発生しない。「これは使えそうですね」と西田さんが微笑(ほほえ)んだ。今後、仲間の職人たちにも紹介するという。

 伝統工芸にはノミや鉋(かんな)などの手道具ばかりでなく、このような工業製品も必要で、特注に対応できるメーカーの存在が欠かせない。今回は導かれるように先代と同じ会社にたどり着くことができたが、私たち中間支援組織にはこうして技術力のあるメーカーを探し出し、現場の職人とつなぐ役割が求められている。

(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)

 【技の環】 岐阜県から委託を受けて、伝統技術の継承を支える一般社団法人。後継者育成、原材料や道具の確保などの相談を受け付けている。県内の伝統技術に関わる相談は無料。技の環ウェブサイトの入力フォーム、メールcontact@ginowa.org、電話080(4401)6872より。