炭についての座談会に参加した(左から)筆者、畑真樹さん、藤元優恵さん、佐野元治さん、第26代藤原兼房さん=関市

 3月5日、関市のせきてらすで「刃物づくりに欠かせない『炭』について考える座談会」を開催した。技の環では毎年、重点調査テーマを決めて伝統技術の担い手が抱える課題の解決に取り組んでいる。この1年は刀匠や鍛冶職人が焼き入れなどに使う松炭に焦点を当て、調査を続けてきた。その締めくくりに関係者と情報を共有したのだ。

 会場には松炭の主産地である岩手県から数少ない専業の炭焼き職人の畑真樹さん、岡山県で全日本刀匠会が立ち上げた合同会社・伝統工芸木炭生産技術保存会で炭を焼く藤元優恵さん、そして松炭の使い手として関市の刀匠の第26代藤原兼房さん、可児郡御嵩町の野鍛冶の佐野元治さんに集まってもらった。

 畑さんと藤元さんから語られたのは、想像以上に厳しい松炭生産の現実だ。岩手県内に炭焼き職人は100人ほどいるが40代以下に限ると10人に満たず、20代では畑さんの息子1人だけであること。原木の調達は命がけであり1月にも伐採中に知人が亡くなったこと。そして昨年11月の本欄でも触れたが、松枯れやバイオマス発電所との争奪により資源量自体が減っていること。炭焼きで生計を立てるために価格を上げることは仕方ないと思える。

 興味深かったのは、それぞれが「買い手」と「売り手」の二つの側面を持つことが対話で語られたことだ。炭焼き職人は原木を安く買いたいが、炭は高く売りたい。鍛冶職人は炭は安く買いたいが、製品は高く売りたい。流通経路が見えなければ価格に不満を抱くしかないが、顔の見える関係が築ければお互いの苦労を理解し、ちょうどいい価格で折り合えるのではないか。需要も供給も先細る伝統工芸の分野では、このような関係づくりが欠かせないと私たちは考えている。

 会場には、調査をしてきた岐阜県内各地の炭焼き事業者も足を運んでくれた。県内では十数軒が炭焼きを営んでいることを確認しており、私たちはその半数近くにあたる5軒を訪問した。その大半が参加してくれたのだ。加茂郡白川町の社会福祉法人では、障がいを持つ人たちとナラなどの炭を焼いて道の駅などで販売してきたが、刀匠が松炭を求めていると知って今後は松炭も焼いてみたいと言ってくれた。御嵩町でも里山整備のグループが刀匠や鍛冶職人のために数年前から松炭を焼いている。高山市や揖斐郡揖斐川町からの参加者は炭焼きの面白さを語り、小規模でも趣味として焼く人が増えていく可能性を感じさせた。

 小さな環(わ)が少しずつつながり、大切な文化や技術を支える動きが広がっていく。今回の座談会はそのきっかけを作ることができた。4月から3年目に入る技の環の活動をいっそう充実させていきたい。

(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)

〈第3土曜日に掲載〉

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