名古屋3歳重賞「秋の鞍」に出走したサムライドライブと丸野勝虎騎手

 東海ダービーで敗れた3歳牝馬サムライドライブ(角田輝也厩舎)が華麗に逃げ切り、復活Vを決めた。雨の中、名古屋競馬場で行われた「秋の鞍」(全国地方交流重賞、SPⅠ、1800メートル)で、地元リーディングを快走する丸野勝虎騎手が愛馬をスイスイとゴールへと導いた。

 重賞は早くも8勝目。地方馬としては全国的にファンが多く、脚光を浴びるスーパーヒロイン。東海地区クラシックロード最後の1冠「岐阜金賞」(笠松)に参戦すれば、東海ダービー馬・ビップレイジングと再戦の可能性がある。

 6月の東海ダービーでは、笠松のビップレイジング(笹野博司厩舎)の豪脚に屈したサムライドライブ。単勝1.0倍でのまさかの敗戦となったが、「勝った相手を褒めるべき」という見方が大勢。それまで、圧倒的な先行力で重賞V7を含め、10連勝を達成していただけに、陣営のショックは大きかった。猛暑が続いた夏場は休養させ、馬体の立て直しをじっくりと図り、3カ月半ぶりのレースとなった。

秋の鞍を4馬身差で逃げ切り、復活Vを飾ったサムライドライブ

 南関東から4頭、笠松と金沢から1頭が参戦。大外枠から先手を奪ったサムライドライブが、最後の直線でもエンジン全開で4馬身差の危なげない勝利。スプリングマン、ジョーグランツの浦和勢が2、3着に食い込んだ。筒井勇介騎手騎乗のユーセイスラッガー(倉知学厩舎)は最低人気だったが、2番手から追走し4着。370キロ台の小さな体で頑張り続ける笠松のマーメイドモアナ(東川公則騎手)は、初コースで11着に終わった。

 勝利インタビューで丸野騎手は「抜群のスタートを切ってくれたので楽に行けた。4コーナーでもしっかりとした脚取りで、直線も馬に任せて行けた」と笑顔。ファンの期待も大きく単勝1.3倍。「東海ダービーでは負けたが、強いサムライドライブをファンの皆さんに見せていきたい」と意欲を示した。

 陣営も一安心のレース内容。角田調教師は「ホッとしました。東海ダービーでは、レースの厳しい流れの中で、距離の壁もあって最後に止まってしまった。消耗もあって思い切って休養し、リフレッシュさせた。馬体は回復し、厩舎に戻っても飼い葉をよく食べてくれた。追い切りは八分ぐらいの出来でしたが、歩様や息遣いも随分良くなった」と秋の鞍への臨戦過程を振り返った。

優勝馬サムライドライブと喜びの関係者(名古屋競馬提供)

 レースでは「ゲートをスムーズに出た。4コーナーでは(東海ダービーの)悪夢もよぎったが、1800メートルはベストパフォーマンスができる距離。4馬身差だし完勝でしょう。きょうの1勝は格別ですね。サムライドライブ、騎手、厩務員に『ありがとう』と言いたい」と復活の走りに手応え十分。

 「東海ダービーは期待を裏切って、一番悔しさを味わったレース」と、さらなる巻き返しを図る構え。次走は「岐阜金賞(10月18日・笠松、1900メートル)か、西日本ダービー(10月23日・金沢、2000メートル)。輸送でストレスを感じることも考えて決めたい。新しい目標に向かって、名古屋の看板馬として、盛り上げていきたい」と前を見据えた。

東海ダービーでは笠松のビップレイジング(中央手前)が差し切りV。サムライドライブは2着に敗れ、連勝は10でストップした

 一方の東海ダービー馬・ビップレイジングは秋の鞍には出走しなかった。前走は大井の黒潮盃に藤原幹生騎手で挑戦。2007年、東海ダービー馬の笠松のマルヨフェニックスが尾島徹騎手で勝ったレース。ビップレイジングは、出走15頭の後方5番手から進み、大まくりを期待したが、末脚は不発。勝ったクロスケ(大井)から大きく離され、10着に終わった。こちらも輸送競馬は得意でなく、パドックでも入れ込み気味だった。

 サムライドライブとの直接対決は、けがなどなく順調なら「岐阜金賞」で実現しそうだ。ともに遠征でのレースに課題を抱えており、サムライドライブは、これまでの11戦が全て名古屋競馬場。環境の変化に戸惑う繊細なタイプで、典型的な「内弁慶」とも呼ばれている。距離や輸送を考えれば、やはり岐阜金賞での「安全運転」が濃厚だ。今年は金沢で、再来年には笠松でも開催される西日本ダービーは、生え抜き馬限定戦。北海道から笠松に移籍してきたビップレイジングは参戦できず、地元の岐阜金賞に向かうことになりそうだ。

 楽しみな岐阜金賞。これまで1勝1敗の2強の直接対決となれば好勝負必死。サムライドライブにとっては、ホーム・名古屋で負けた借りを、アウェー・笠松で返す絶好のチャンスとなる。3歳のうちに何としてもリベンジを果たしたいところだ。先行馬有利な笠松で、今度は負けられないだろう。ビップレイジングも2歳時にJRA認定競走(秋風ジュニア、ジュニアクラウン)を連勝。3歳重賞「新緑賞」でも差し切り勝ちを収めており、笠松は得意コース。ファンが注目する2頭の一騎打ち。サムライドライブが逃げて、ビップレイジングが追い込む展開になれば、笠松のゴール前は大いに盛り上がることだろう。

東海ダービーで4着だったドリームスイーブル(岡部誠騎手)

 笠松には期待の3歳馬がもう1頭いる。秋の鞍は出走を回避したが、8月に金沢重賞「MRO金賞」で差し切りVを飾ったドリームスイーブル(尾島徹厩舎)だ。手綱を取った佐藤友則騎手が、厩舎を開業して3年になる尾島調教師に「初重賞V」をプレゼント。誕生日も同じで笠松デビュー以来、仲の良い2人。ゴール後、歓喜に浸って勝利をたたえ合う2人の姿は感激の一瞬でもあった。

 ドリームスイーブルはMRO金賞の優勝馬として、JRA・菊花賞のトライアルレース出場権も獲得していた。1995年に、アンミツさん(安藤光彰元騎手)が笠松・ベッスルキングで神戸新聞杯3着から、マヤノトップガンが勝った菊花賞で8着と健闘したことがあった。中央志向も強い尾島厩舎のことだから「ひょっとしたら、夢舞台に挑戦するかも」という淡い期待もあったが、前走の笠松・準オープンで4着に敗れた。まだまだ力不足だが、交流重賞に積極的な尾島厩舎には、ドリームスイーブルで新たな夢を追い掛けてほしい。これまでサムライドライブとの対決では、1冠目の「駿蹄賞」など重賞レースで2着が3回もあり、岐阜金賞にも挑んで2強に割って入りたい。

 笠松から南関東へ期間限定騎乗(2カ月)で挑戦している佐藤友則騎手。「そろそろ勝ってくれそうだ」という予感通り、50戦目で初勝利を飾った。イケメンジョッキーも36歳の秋を迎えて、プライベートでは、結婚のゴールインも華やかに決めてくれた。ハッピーな勢いで、27日の大井メインレース「爽秋賞」を制覇。笠松復帰は11月戦からで、3年連続のリーディングを狙いたい。

昨年7月のアイビスSDを制覇し、JRAのサマースプリント王者に輝いたラインミーティア。今年8月、天国へと旅立った(競馬ブック提供)

 この夏、残念なこともあった。オグリキャップのひ孫だったラインミーティア(牡8歳、水野貴広厩舎)が8月初めに亡くなっていたのだ。新潟名物・直線1000メートル「アイビスサマーダッシュ」(GⅢ)の昨年覇者で、サマースプリントシリーズ王者にも輝いた。歩様に乱れがあり、蹄葉炎を発症し経過観察中だったが、容体が急変し安楽死の処置がとられたという(JRA発表)。

 ラインミーティアは、オグリキャップの血統を受け継ぐ競走馬として、初めての「中央重賞V」を飾ってくれた。西田雄一郎騎手を主戦に、阪神「セントウルS」(GⅡ)でも2着に突っ込む活躍を見せた。GⅠのスプリンターズSや高松宮記念への挑戦も果たし、健闘していたが、5月の新潟・韋駄天S(8着)がラストランになってしまった。オグリ一族の血統ロマンを継承する種牡馬への道も期待されていたラインミーティア。7歳時の真夏に、まばゆい光を放った「流星」(馬名)は、オグリキャップファンの胸を熱く焦がして、天国へと旅立った。