笠松競馬場東門に掲げられている所属騎手一覧。期間限定騎手の3人も加わり、18人になった

 ここは開催中止になった笠松競馬場―。他地区からの期間限定騎乗に燃えていたジョッキー3人も、レースに出られないまさかの事態になっている。救済策として、名古屋競馬も含めて何とか騎乗機会を与えてあげたいが、どうだろう。

 3人は「雪国」から騎手不足の笠松に助っ人として来たのに、視界不良の猛吹雪に巻き込まれて立ち往生している状態だ。競馬場内で黙々と攻め馬には励んでいるが、木曽川河畔の「冷たさ」が身に染みていることだろう。

 「期間限定」で笠松入りしたのは、岩手・関本玲花騎手(20)=湯前良人厩舎=、金沢・池田敦騎手(43)=花本正三厩舎=、北海道・馬渕繁治騎手(54)=田口輝彦厩舎=。正門と東門には所属騎手一覧のメンバーとして、勝負服での勇姿が掲げられている。
 
 騎手・調教師らの所得隠し、馬券購入問題で揺れる笠松競馬。当面、2月5日までの2開催が中止になったが、期間限定騎手も笠松のほか、名古屋での騎乗ができなくなっている。馬主さんやファンの間では「名古屋のレースには3人が乗れるようにしてほしい」との声もあるが、願いは届くだろうか。笠松のレースが早期に再開されれば、少しでも騎乗してもらえるが...。笠松の厩舎を頼って、はるばる来てくれたんだから、手を差し伸べてほしいものだ。

 笠松競馬では昨年8月、30代の騎手3人が引退。騎手数は15人に減って全国最少になっている。そんな中、冬場は積雪・凍結などでレースが休止になる他地区から、騎乗機会を求めて笠松に来場してくれた。滞在期間は1~3カ月間と短いが、手続き上は笠松所属騎手の扱いになり、名古屋での騎乗も「自粛」となっている。

1年前、笠松での期間限定騎乗で5勝を挙げた関本玲花騎手

 関本騎手と池田騎手は、1月19日にレース騎乗と歓迎セレモニーが予定されていたが、全て流れてしまった。当日の朝、所得隠しや馬券購入問題が共同通信社の配信記事などで発覚。全国一斉に報道されたため、「競馬ファンを裏切った」などと反発する声が多く、急きょ開催中止に追い込まれた。

 ■笠松のレース再開や名古屋での騎乗に望み

 関本騎手にとって笠松は「準ホーム」で騎乗予定は3月5日まで。一昨年、騎手候補生として実習に励み、昨年は1カ月余りの期間限定騎乗で5勝(笠松4勝、名古屋1勝)を挙げ、岩手での飛躍につなげた(昨年計31勝)。「また笠松に戻ってきたい」という約束通り来場してくれたが、かわいそうなことになった。

 盛岡ではララフォーナ(牝5歳)を前々走で初勝利に導いた関本騎手。岐阜の馬主さんの持ち馬で、笠松でも騎乗予定だったが勝利は幻に終わった。期間限定3騎手の名古屋での騎乗の可能性については「次開催(2月8~12日)、名古屋競馬の判断で騎乗が検討され、笠松競馬の調査状況を確認しながら、総合的に判断する」とのこと。関係者の英断を期待したい。

2年目を迎えた深沢杏花騎手。攻め馬にも精力的に取り組んでいる

 ■ファン注目の「花・花対決」は実現するか

 笠松で20年ぶりの女性ジョッキーとして注目を浴びる深沢杏花騎手(19)。関本玲花騎手との「花・花コンビ」直接対決も期待されていた。ともに湯前良人厩舎に所属。関本騎手のホーム・岩手は1月9~11日の3日間、水沢開催が馬場凍結のため中止。笠松でも不運が続いてがっかりしていたという。

 2人は、お互い女性アスリートとしてのライバル心が強いそうだ。昨年10月には盛岡でのGⅠレース「マイルチャンピオンシップ南部杯」に、笠松の湯前厩舎所属馬で2人そろって参戦。一足早く「花・花」対決が実現した。実力上位のナラに深沢騎手、リンクスゼロには関本騎手が騎乗。中央の強豪ぞろいでアルクトスが勝ったレース。リンクスゼロ14着、ナラは15着と完敗したが、関本騎手は「ナラだけには勝ちたくて、レース中も動きを見ていた」そうだ。4馬身差で敗れた深沢騎手は、騎乗馬に選んだナラで負けてがっくりだった。

 笠松のレースでの「バチバチ感」を楽しみにしていたファンも多く、実現したら画面越しに注目してほしい。男性陣を従えての華麗な逃げ切りが決まれば、見ている方も痛快だ。2人のキャラクターを、見た目や性格から動物に例えると「玲花がキツネで、杏花はタヌキ」というイメージだそうだがどうだろう。

 ベテランの馬渕騎手は2月20日までの騎乗予定。上山(山形)が廃止となり、北海道に移籍した苦労人。昨年11月30日、笠松初勝利の鮮烈デビューを果たした。道営時代に門別で騎乗した水野翔騎手は「一緒に食事したりしています」と来場を歓迎。セレモニーでは、門別への遠征経験がある藤原幹生騎手とともに、馬渕騎手の勝負服姿で盛り上げた。

 池田騎手は1995年に名古屋でデビューし、翌年に金沢移籍。地方競馬廃止の波が大きかった2006年に引退。整体師としてマッサージ店で働くなどしていたが、地方競馬に活気が戻った14年に騎手復帰。笠松は2月19日までの予定で、レース騎乗のチャンスがあるといいが...。

 ■レース再開を信じて、攻め馬に励む

 年末年始、地方競馬全国協会(NAR)は漫画「あしたのジョー」とコラボした「JRA×地方競馬 ALL JAPAN KEIBA」を企画。疾走感あふれる動画で、ネット競馬全盛になった日本の競馬界を盛り上げてくれた。愛知県岡崎市などでは昨年末も「長屋の星飛雄馬」を名乗る人物が、心温まる贈り物。児童養護施設にクリスマス用のお菓子などが入った段ボール箱がドーンと届けられた。少年時代に「あしたのジョー」や「巨人の星」に夢中になった世代としては、昭和のヒーローたちのパワーは不滅で、現代も生き続けているようでうれしく感じた。
 
 「あしたのジョー」企画では「このままじゃ終われない。燃え尽きるには早すぎる。走れ、走るんだ!」と、あおい輝彦さんのナレーションが流れた。不祥事による激震が走って開催中止になった笠松競馬は、ダウンしてマットに倒れ込んでいる状態か。事件の推移を見守る全国の競馬ファンの視線は厳しいが、笠松競馬再生を応援する声もある。不屈の闘志をリング上で見せた「あしたのジョー」の矢吹丈のように、しっかりと立ち上がることはできるのか。             

レースは休止中だが、明るく攻め馬に励む若手騎手

 笠松競馬場内では午前1時半に調教がスタート。朝日が昇って9時ごろまでは、何事もなかったような日常の風景が続く。レースはなくなっても、所属馬が運動不足になってストレスをためないためにも、普段通りに1頭15分刻みでの攻め馬を実施。1人で20頭以上をこなしており、精力的に乗り込む深沢騎手や、2頭で並んで走りながら談笑する若手騎手の姿もあった。期間限定の関本騎手らは地元に戻っても馬に乗れないことから、笠松コースに残ってゆったりと騎乗。レースに参戦できず、つらい思いはあるだろうが、元気そうで良かった。
 
 騎手たちはレースに出走できれば、賞金(進上金5%)や騎乗手当などが主な収入源になるが、今は我慢のとき。調教料(保険料含め1頭300円ほど)は支給され、毎日の食事代ぐらいにはなるというが、しばらくは厳しい日々が続きそうだ。愛馬に付き添う厩務員たちは、1㌔以上離れた円城寺厩舎などから馬道を通って競馬場を往復。レースがないため労働意欲が湧かないそうで、生活は苦しくなるが、早期開催を願って馬たちの世話を続けている。

 ■ファンが納得できる形で実態を明らかに

 騎手・調教師らの所得隠し、馬券購入問題は第三者委員会の調査が進めば、主催者(岐阜県地方競馬組合)が何らかの処分を下すことになる。「たたけば、みんなほこりが出るだろう」といった関係者の声もある。「所得隠し」と「他人名義での馬券購入」の疑惑では、「情報提供料としてもらったが、馬券購入はしていない」といった逃げ道もあるようで、第三者委がどこまで事実関係を解明できるのか。引退した4人に対する警察の捜査も進められており、主催者は馬券を買って応援してきたファンが納得できる形で、実態を明らかにするべきだ。

 古田知事は「3月にはレースを再開させたい」との意向を示しているが、調査が長引けば、笠松所属馬が他地区へ流出。騎手、調教師、厩務員らの生活にも大きな影響が出てくる。所属馬の退厩、転厩は増えつつあり、今後大幅な変動があればレース自体の開催が危うくなる。改めて迅速な対応を求めたい。

 笠松競馬場といえば、かつては安藤勝己騎手を背にオグリキャップやライデンリーダーが疾走した「地方競馬の聖地」。小さな草競馬場ではあるが、地方と中央の高い壁に風穴をあけて、「不思議の国」とも呼ばれたワンダーランド・笠松。今回、大きな事件が表面化したが、地方競馬の先頭を走ってきた競馬場が果たすべき「使命」として捉え、浄化を進めてもらいたい。

 これまで現場の底力で数々の苦難に耐えて、存続の道を切り開いてきた笠松競馬。既にトップジョッキーら4人を失っており、大きな痛みを伴った「変革」は始まっている。「ガチンコ対決でフェアプレーあふれる競馬場」へと生まれ変わりたい。