協賛レース「良一★生誕88年記念」で勝利を飾ったモシモシ。この馬との出会いが「マンガ王決定戦」グランプリ受賞につながった=2013年9月12日、笠松競馬場

 オグリキャップを主人公にした漫画「シンデレラグレイ」やゲームアプリのヒットで「ウマ娘」ブームが到来したが、レース休止中の笠松競馬場は乗り遅れてしまった。それでも「漫画と競馬」のコラボイベントは増えており、各地で「聖地巡礼」に訪れる新たな競馬ファンを開拓している。

 「競馬って、楽しい。」をテーマにしたJRAのオンラインイベント「中京競馬マンガ王決定戦 KEIBA-1グランプリ」(https://jra-chukyo-keiba-1.com/)。笠松競馬場で出会った1頭の牝馬への思いを描いた「これからも、ずっと。」(作者:chikaさん)がグランプリ(MVK)を受賞。ウマ娘ファンにも競馬の魅力や楽しさを伝えている。 

 グランプリ作品は、笠松競馬場で2勝してJRAに戻った馬を追っかけた実体験に近い内容(漫画では中京競馬場)。作者のchikaさんは8年前、笠松競馬の個人協賛レースに応募。競馬好きだった亡き祖父をしのんで「良一★生誕88年記念」として応援。勝利を飾ったのは、JRA未勝利で笠松に転入してきたモシモシ(青木達彦厩舎)=尾島徹元騎手騎乗=という3歳牝馬だった。「祖父がモシモシに会わせてくれた!」と運命を感じ、そこから自分の世界が広がった。
 
 グランプリ受賞には「まさか...と思いましたが、特別審査員のSEAMOさんが、漫画に込めた思いをくみ取ってくださってうれしかったです。漫画のモチーフになったモシモシに改めて感謝し、出会えて本当に良かった。きっかけをくれた祖父にも感謝です」とコメント。愛馬が暮らす木村牧場(北海道)からも「MVKおめでとー」と祝福するモシモシの画像も寄せられた。漫画はコンテストに応募するために初挑戦だったが、いつか「モシモシ」の完全版を描きたいそうだ。

chikaさんらが見守る中、笠松競馬場のパドックを周回するモシモシ(左)

 ■笠松のパドック周回で注目、モシモシが勝利
 
 漫画にある最初の出会いのシーンは、モシモシの笠松デビュー戦。パドック周回では、観覧席(ユーホール)で母、祖母と一緒に写真と動画を撮影。祖母らも「モシモシは名前が面白いね」と注目。1番人気に応えて2番手から差し切りV。装鞍所では優勝馬の口取りの記念撮影にも参加。競走馬を間近で見るのは初めてで「大きいなあ」と感じたそうで、大満足の一日になった。
 
 JRA復帰後は引退するまで3年余り、福島、新潟、中山、東京、中京、小倉と全国の競馬場で走るモシモシの追っかけを続けた。1勝クラスでの参戦が多かったが、仕事の合間を縫って出掛け、パドックでは応援幕を掲示し、レースで声援を送った。中央での勝利は、横山和生騎手騎乗で4コーナー最後方から豪快に差し切った中京での1勝だけだったが、17年1月のレースを最後に無事引退。5月8日に11歳の誕生日を迎えたモシモシは、繁殖馬としても優秀で既に3頭を出産。長女が岩手で走っており、長男もデビューを目指している。

 マンガ王決定戦の決勝戦には予選会を突破した3部門(ドラマ、ギャグコメディ、4コマ)各3作品がネット配信され、リツイート数で部門賞を決めた。最も価値が高い競馬漫画に贈られるMVKは、特別審査員のSEAMOさんが決勝進出9作品の中から選出した。

 SEAMOさんは競馬通のミュージシャン(ラッパー)で、2006年には紅白歌合戦に出場。一宮市出身で笠松競馬場にも近く、中高生の頃、地方出身のオグリキャップが中央のエリート馬をバッタ、バッタとなぎ倒す姿に魅了され、一番好きな馬になった。一口馬主としては、昨年のNHKマイルカップをラウダシオンで制覇し、歓喜に浸った。

 グランプリ受賞作品について、SEAMOさんは「1頭の馬を応援するために遠征し、そこで異文化に触れるというのは素晴らしい経験ですよね。名物を食べたり、名所に行ったり。レースの数だけ違った景色が思い出となって残る。競馬のだいご味です。競走馬のその後のストーリーまで描かれていて、人も馬も受け継がれていくのだなと。感動しました」と高く評価した。

 ■「追っかけたいと思えるお馬さんがいることは幸せ」

 モシモシの魅力についてchikaさんは「勝手に運命を感じてしまっているので、何でも魅力的に見えますね。(パドックでは)いつも舌が出ていたり、おっとりしていてマイペースに見えるところが、とってもかわいかった。遠征(小倉)や連闘でも、けなげに頑張って走る姿を応援したくて。追っかけをしたいと思えるほどのお馬さんがいることは幸せですね」。
 
 モシモシの現役と同時期に笠松競馬には「鉄の女」とも呼ばれ、全国の重賞(歴代最多130レース)を走りまくったトウホクビジンがいた。南関東遠征も多く、この牝馬の走りに魅了されて応援を続けていた女性は、笠松競馬の厩務員になっている。chikaさんも「トウホクビジンに対しても同じ気持ちで応援していました」と頑張って走る牝馬の姿がお気に入りだ。

 「(昨年の秋に続いて)もう一度会いに行きたいし、笠松競馬が再開されたら、また協賛もしたいです」とも。笠松で予定されていた「シンデレラグレイ」協賛レース(1月)は流れてしまったが、再開されたらウマ娘ファンの冠レースや応援もありそうだ。競馬の楽しみ方は人それぞれだが、好きな馬と出会い、追っかけ、引退後もその子や孫たちを応援。何世代にもわたって「血統ロマン」を追い続けることは、最高の楽しみ方だろう。

岩手・水沢競馬場で再出発したミンナノヒーロー。村上忍騎手の騎乗で連勝し、JRA復帰まであと1勝とした

 ■ミンナノヒーロー連勝、JRA復帰へあと1勝

 オグリキャップの孫ミンナノヒーロー(牡4歳)が5月24日、水沢競馬場(岩手)第4Rで圧勝し、2連勝を飾った。村上忍騎手の騎乗で1番枠からポンと出て先手を奪うと快調な走り。最後の直線も持ったままで、関本玲花騎手騎乗のヤマニンティエラに5馬身差。あと1勝で、登録抹消となったJRAへの復帰を果たす。

 祖父オグリと同じく、デビュー以来2着→1着→1着という成績。「馬がレースを理解している」「地方からの成り上がりでストーリーを期待してしまう」とファンの声。
 
 佐藤牧場(北海道新冠町)で繁殖馬生活を送る母のミンナノアイドル(14歳)はオグリキャップの末っ子。牧場主の佐藤信広さんは「当時、種牡馬を引退したようなオグリキャップでしたが、『最後に1頭でいいから、子どもを取り上げたい』と有志が集まって、サポーターズクラブを結成。種付けを支援していただいて誕生したのがミンナノアイドルでした」という。

 念願かなって、初子のストリートキャップは活躍してくれたが(JRA3勝)、ミンナノアイドルは不妊が続いて、(ミンナノヒーローは)5年ぶりの子ども。「皆さんと一緒に応援できたら幸せです」と、オグリキャップの血統を守り抜く決意を熱く語っていた佐藤さん。

 22戦21勝、2着1回という伝説的名馬ネイティヴダンサー(米国)=ダンシングキャップの父=からの「隔世遺伝」とも言われたオグリキャップ。その孫として生まれたのがミンナノヒーローで、今後順調なら、岩手からJRAの舞台へ駆け上がる姿が見られそうだ。

2016年、笠松グランプリで連覇を飾ったラブバレットと山本聡哉騎手ら。翌年も制覇し、歴代最多の3連覇を達成した=笠松競馬場

 ■笠松グランプリ3連覇のラブバレット、安らかに
  
 5月25日の水沢競馬場の第12Rで、ラブバレット(牡10歳、菅原勲厩舎)がレース中に故障を発生し、「右第一指骨開放骨折」と診断され、予後不良になった。笠松重賞でも活躍した地方競馬を代表する名馬。突然の別れとなったが、10歳まで8年間の現役生活を全うし、競走馬として完全燃焼した結果だろう。安らかに眠ってほしい。
 
 重賞15勝で、2015年から笠松グランプリで3連覇を飾った。主戦は山本聡哉騎手。連覇となった16年にはオヤコダカ(北海道)との一騎打ちを制し、1分23秒6の快速決着。現在も笠松1400メートル戦のレコードタイムで、当分破られそうもなく、ラブバレットの名は今後もレース欄に刻まれることになりそうだ。

 山本聡哉騎手は2010年に約2カ月間、笠松で期間限定騎乗して8勝を挙げており、コースの特性を熟知。「第4コーナーでオヤコダカを引き離す思い通りのレースができ、いいタイムを出せた」と喜んでいた。菅原勲調教師は、騎手時代にメイセイオペラでフェブラリーSを制覇したレジェンド。笠松ではラブバレットで4連覇を逃すまで、騎手時代から不敗を続けていた。「スピードが要求される笠松の馬場が合っていて、ここに来るといつも以上の競馬ができます」とラブバレットの相性の良さを語っていた。

 水沢競馬場ではラブバレットの活躍をしのび、献花台を設置する(5月30日~6月6日)。

日本ダービーのポスターと、近くで顔をのぞかせているオグリキャップ像=笠松競馬場正門

 ■日本ダービー、国枝栄調教師が牝馬サトノレイナスで挑戦

 JRAの国枝栄調教師(岐阜県北方町出身)は悲願の日本ダービー(30日・東京)制覇に意欲。アパパネ、アーモンドアイで牝馬3冠を達成しているが、牡馬クラシック路線ではまだ勝っていない。今年は、桜花賞2着の牝馬サトノレイナス(ディープインパクト産駒)で牡馬勢に挑戦。
 
 負担重量2キロ減を生かして、クリストフ・ルメール騎手とのコンビで、打倒エフフォーリア(皐月賞馬)に照準。ディープインパクト産駒は日本ダービー6勝で、現在3連勝中。血統面からも有力で、牝馬Vなら07年のウオッカ以来で史上4頭目。アーモンドアイでは挑戦できなかったが、何としても欲しかった「ダービートレーナー」の座を射止めたい。馬券的にもこの2頭の一騎打ちか。

 オグリキャップの聖地・笠松競馬場ではレース自粛中も、ウマ娘ファンらが「聖地巡礼」で正門前を訪れたり、場外を1周するなどして、再開を待ち焦がれている。日本ダービーに向けて、正門入り口にはポスターも掲示。出走登録がなかったため「幻のダービー馬」とも呼ばれたオグリキャップ。正門東側では「ダービーで走りたかった」と言いたげなオグリ像がチラリと顔をのぞかせており、ほほ笑ましい。笠松や中央のレースでのハナ差、クビ差の死闘も思い起こさせてくれる。「早く全身を拝んでみたい」「記念写真を撮りたい」というファンのためにも、正門の重い扉を開けて、競走馬のゲートオープンにつなげたい。