産婦人科医 今井篤志氏

 ピル(低用量経口避妊薬)は本来、避妊目的で用いられていますが、過多月経や月経痛等に対しても非常に有効な治療法となっています。一方で、約10年前から日本でも使えるようになった子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)は、一度子宮内に装着すると5年間効果が持続することに加えて、ピルの服用が制限されている女性にも使用できるという特長があります。

 IUSはT型フレームの柄の部分に黄体ホルモンを放出するフィルムを巻き付けたものです=図=。柄の上端が2本の弓状のアームとなり、用具が脱出しないようになっています。柄の下端には除去糸が取り付けられています。

 IUSはピルと同等の避妊効果があります。避妊できるメカニズムは①子宮内腔(くう)の形が変わり受精卵が子宮内膜に着床するのを妨げる②黄体ホルモンが子宮内膜の増殖を抑えるため、内膜は薄くなり受精卵の着床が妨げられる③子宮入り口の粘液の水分量を減少させて精子の侵入を抑える、と考えられています。

 黄体ホルモンは子宮内膜を薄くするので、月経量を減少させ月経痛を和らげます。子宮内膜症や子宮筋腫に伴う月経痛のみならず月経時以外の痛みや下腹部不快感にも有効です。特に原因がなく月経量が多い女性にもお勧めで、使用者の2~3割は月経も含め出血がなくなります。

 IUSから放出される黄体ホルモンは局所に作用し、血中に吸収される量はわずかです。ピルと異なり黄体ホルモンが全身に影響を及ぼすことは少なく、ピル服用に注意が必要な40歳以上、喫煙者、肥満や血栓症既往のある女性でも装着可能です。黄体ホルモンが子宮内膜の増殖を抑えるので、子宮体がん・子宮内膜増殖症に対する予防効果も認められています。

 IUSは月経中には装着できません。月経終了後の早い時期に装着します。避妊目的の場合には、人工妊娠中絶時に装着することも可能です。一度装着すると5年間有効性が持続します。副作用としては、装着後3カ月くらいは不正出血や違和感がありますが、徐々に治まります。

 避妊目的の場合は自由診療になるため5~6万円前後の全額患者負担が必要ですが、月経困難症対策の場合は保険診療の範囲内ですので3割負担です。一括で支払うので高額に感じますが、どちらの目的でもピルを5年間服用した場合と比較しても明らかに低額です。しかし、子宮内に用具を装着するので、子宮口が狭い、感染症があるなどの女性には不向きです。健診の際にでも、気軽に専門医に相談してみてください。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)