消化器内科医 加藤則廣氏

 「口の渇き」は、留意すべき症状の一つです。空気が乾燥する季節や、開口して睡眠する人は起床時に出現しますが、水を飲んで改善するのであれば、特に問題はありません。それでも口の渇きが続く場合は、まずは糖尿病を疑います。糖尿病では尿から糖が排せつされて多尿を来すことで、脱水症状となることが原因です。血糖やHbA1cなどの血液検査や尿検査で診断します。

 また、口の渇きは唾液の分泌量が低下することによっても出現します。3カ月以上持続する状態を「ドライマウス」と総称します。今回は唾液の分泌量が低下する「ドライマウス」について概説します。

 唾液はほとんどが水分で、通常は1日に1~1・5リットルも分泌されます。何らかのストレス、薬剤の副作用、更年期障害や脳卒中の後遺症による嚥下(えんげ)障害などで、分泌量が低下します。唾液は口腔(こうくう)内にある複数の唾液腺から分泌されますが、消化酵素のアミラーゼを含んでいて、食事時に多量に分泌されて嚥下を補助します。お茶や汁物がないと食事ができない人は、唾液分泌量が低下していることが推察されます。

 一方、唾液には抗菌作用や保湿効果、粘膜保護作用を有する成分も含まれていて、食事以外の時でも分泌されています。そのため唾液分泌量の低下は、口腔や舌の痛み、ベタベタ感や味覚障害を来します。また虫歯や歯周病の原因になります。さらには食道粘膜の修復機能が低下するため、逆流性食道炎の悪化要因の一つになります。

 ドライマウスを来す疾患に、シェーグレン症候群があります。唾液腺に慢性の炎症を来し、唾液分泌が低下する疾患で指定難病の一つです。涙の分泌も低下する「ドライアイ」もみられます。唾液量はガムテストで測定しますが、口の渇きと唾液量の低下は、必ずしも一致しません。血液検査の抗SS-A抗体や抗SS-B抗体などで診断されます。さらに血中IgG4値が高値になるため、IgG4関連疾患とも呼ばれます。

 治療は原因疾患に対する治療法と併せ、唾液分泌を活発にする薬を内服します。しかし進行すると、唾液腺に萎縮や破壊が生じて唾液分泌は改善しなくなるので、早期の診断と治療が必要です。

 また唾液分泌は加齢でも低下します。最近の研究では、昆布だしの「うま味」成分が唾液の分泌を促す作用があり、高齢者のドライマウスを改善したとの報告もあります。口の渇きや味覚異常に気付いたら、早めにかかりつけの医療機関でご相談ください。

(岐阜市民病院消化器内科部長)