産婦人科医 今井篤志氏

 オギャーと生まれた時の男女比は105前後です。女児100人に対して105人の男児が生まれる計算です。この出生児男女比は厚生労働省が調査を始めて以来、大きな変化がありません。幼少時の男児の死亡率が高く、成人ではほぼ1対1になります。不思議に感じたことはありませんか。今回は妊娠して授かった子が、どのようにして男・女に決まるのかを考えてみましょう。

 母親からの卵と父親からの精子が合体した受精卵は、40週間かけて胎児に成長していきます。男として生まれるか、女として生まれるかには、染色体が重要な役割を持っています。ヒトの染色体は46本あり、そのうち2本は性染色体と呼ばれ、男ではXとY、女はXを2本持ちます。X染色体は両者に認められ、Y染色体の存在が鍵なのです。

 妊娠5~6週ごろになると、胎児のおなかの中に性腺原器ができてきます。特別な力が働かないと、性腺原器は自動的に卵巣になります。Y染色体に組み込まれているSRY遺伝子が性腺の芽(性腺原器)に作用すると精巣になります=図=。精巣のライディッヒ細胞からは男性ホルモン(アンドロゲン)が分泌され、妊娠9~20週にかけて精巣周囲の環境を整えながら、体外の陰嚢(いんのう)・陰茎(いんけい)を形成していきます。しかも、精巣のセルトリ細胞からは抗ミュラー管ホルモン(AMH)が分泌され、卵管・子宮・腟(ちつ)に成育する芽を縮小させます。

 Y染色体がない場合には、SRY遺伝子も存在しないため、性腺原器は卵巣になります。AMHも分泌されないので卵管・子宮・腟の成育が促進されます。外性器の形も、男性ホルモンの作用がないので、自動的に女性型になります。なお、この段階の卵巣はまだホルモンを産生できません。思春期になり女性ホルモンを作り始めると、体つきがより女性らしくなります。これを第二次性徴と言います(2016年9月5日付本欄参照)。

 脳の発達も基本的には女性型です。脳の男性化には妊娠20週ごろまでに、胎児の脳に男性ホルモンが十分に働くことがとても重要です。不十分な作用では、染色体・性腺・性器が男性でありながら、生まれてから男としての性行動よりも女としての性行動を取ります。つまり「体は男だけど心は女」と感じる状態です。

 多くの男女は、体の性と心の性が一致しますが、体と心の性が一致しない「性同一性障害」が存在します。LGBT(性的少数者)のうち、性同一性障害はトランスジェンダーの一部で、心と体の性別に強い違和感を持つ場合ですが、時として身体的治療を望むこともあります。原因の一つとしてとして胎児期のホルモン環境が関わっていると考えられますが、明らかな要因はまだ分かっていません。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)