消化器内科医 加藤則廣

 下痢はさまざまな要因で出現しますが、薬剤を内服することによって出現することもあります。中でも抗生剤は、腸内細菌の乱れが生じて急性下痢症を発生しますが、今回は抗生剤以外の薬剤によって誘発される可能性のある、慢性下痢症の膠原(こうげん)線維性大腸炎(collagenous colitis)についてお話をします。

 下痢は便中の水分量が多い状況ですが、急性下痢と慢性下痢に大別されます。急性下痢の多くは感染性腸炎でみられ、健康成人であれば適切な対症療法で自然に治癒することがほとんどです。

 一方、慢性下痢はさまざまな要因で出現しますが、抗生剤内服とは異なる機序で下痢を来す膠原線維性大腸炎があります。膠原線維性大腸炎は、大腸内視鏡検査では粘膜面はわずかな変化が観察されるのみでほぼ正常範囲内ですが、大腸粘膜の一部を採取する生検で、病理学的に大腸粘膜の下に線維の沈着と肥厚を生じる特徴的な所見がみられます。

 報告例では50歳以上、特に70代の女性にみられ、臨床経過は内服を開始した1~2カ月後から、軽度の腹痛を伴った下痢を1日数回以上来すことがあります。ほとんどは薬剤の内服中止により自覚症状は改善しますが、中にはステロイド剤の内服が必要になることもあります。

 膠原線維性大腸炎の成因は何らかの粘膜内の免疫反応の関与が推察されていますが、いまだ明らかではありません。一方、病理学的に膠原線維がみられず、リンパ球が増えている場合はリンパ球性大腸炎と診断され、膠原線維性大腸炎と合わせて顕微鏡的大腸炎と呼ばれます。

 膠原線維性大腸炎を来す薬剤には、逆流性食道炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍で用いられるプロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーなどの制酸剤が報告されています。他には整形外科的疾患などで処方される、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)やアスピリン製剤があります。また、パニック症候群で用いられるSSRIの薬剤や糖尿病改善薬であるαグルコシダーゼ阻害薬、抗血栓薬でも同様の報告があります。今後、他の薬剤で出現する可能性も推測されます。

 最近は、高齢化に伴って胸焼けを主な症状とする逆流性食道炎、整形外科領域で投薬治療を受ける患者さんが増えています。いずれも治療上で必要な薬剤ですので、もし病院や診療所で薬を処方され、しばらくして下痢が出現するようなことがあれば、早めに担当医にご相談ください。

(岐阜市民病院消化器内科部長)