岐阜大学精神科医 塩入俊樹

 前回は「統合失調症」の治療についてでした。以前にもお話ししましたが、「統合失調症」は決して治らない病気ではありません。今回は、経過について説明します。大きく「前兆期」「急性期」「休息期(消耗期)」「回復期」の四つに分かれます。

 前兆期では、「幻覚」や「妄想」などのような統合失調症の顕著な症状はありません。しかし、「眠れない」「いらいらする」「気分が変わりやすい」「集中力が低下する」「音に敏感になる」といった症状があり、患者さんは「何となく変だ」と感じます。この時期には、特に過労や睡眠不足に注意する必要があります。

 急性期とは、統合失調症が発症する時期です。したがって「幻覚(特に幻聴が多い)」や「妄想(被害的な内容が多い)」などの陽性症状が現れ、患者さんはとても不思議な体験をします。「自分の中で何かが変だ」と不安を感じやすく、周りの出来事に過度に敏感となり、眠れなかったり、緊張を強く感じたりします。それでも自分が病気だとは気付かず、他人から見ておかしな行動をしてしまうことがあります。この時期の治療は、薬物療法で速やかに陽性症状を改善し、患者さんの安全を確保します。睡眠と休息を十分に取り、安心感を持つことが大切です。

 休息期に入ると「幻覚」や「妄想」は少なくなり"レミッション(寛解)"と言われる状態になります。しかし、この時期には「元気が出ない」「やる気が起きない」「体がだるい」「自信が持てない」といった陰性症状と言われる症状が目立つようになります。これは急性期に、心と体のエネルギーをたくさん使ってしまったことが原因と考えられます。この時期にはエネルギーを貯(た)めるために、数カ月間は焦らず、無理のないリハビリテーションを行い、規則正しい就寝時間と服薬の継続で、ゆっくりと休養することが重要です。また「心理教育」をきちんと行い、患者さん自らが病気と向き合うことが大切となります(4月17日付本欄参照)。

 回復期になると、少しずつ元気が出てきて、心も体も安定してきます。ゆとりが出てきて、周囲への関心も増していきます。焦らずに、ゆっくりと生活範囲を広げていきましょう。楽しみながらリハビリテーションを行い、体力づくりもしましょう。また、再発防止のために、薬の服用を忘れないことが大切ですが、副作用があると薬が飲めなくなってしまいます。そこで、生活リズムの構築を妨げるような副作用がないことを主治医と確認しましょう。

 そして、就労や就学、自立した生活や人間関係の再構築に向け、患者さんの将来こうなりたいという"遠い目標"と、それを達成するために、まずは"近い目標"を立て、一人一人に合った生き方を実現していく"リカバリー(回復)"を目指します。

 次回は、患者さんの家族のサポートについてお話しします。

(岐阜大学医学部付属病院教授)