乳腺外科医 長尾育子氏

 今回は乳がんの治療のうち、手術についての話です。乳がんの治療は、手術、薬物、放射線を組み合わせて行います。すべての乳がんに対して、おのおのの腫瘍の性質と腫瘍の進行度を診断し、その方に合った治療を選択していく、いわば個別治療を行っていきます。

 乳がんと診断された方から、「手術をせずに乳がんを治すことはできないのですか」と聞かれますが、現段階では乳がんを完全に治すこと(治癒)を目指すには手術が必要です、というのが答えです。しかし、乳がんは血液やリンパ流によって全身に広がる病気ですから、手術だけで治すことはできません。治癒を目指す乳がん治療において、手術は欠かせないが、それだけでは不十分、という位置付けです。

 乳がんの手術は、乳房の切除範囲により、乳房全切除術と乳房温存手術(部分切除術)の二つに分けられます。30年ほど前まではほとんどすべてに乳房全切除を行っていましたが、小さな乳がんでは乳房温存療法(乳房温存手術+放射線治療)により同等の治療成績が得られることが分かってきたため、乳房温存手術が普及しました。

 乳房造影MRI(磁気共鳴画像装置)検査などで乳がんの広がりを診断して、乳がんが比較的限局しており乳頭から離れている場合は、温存療法の適応になります。注意したいのは、早期の乳がんほど小さいとは限らないという点で、最も早期の非浸潤性乳がんでも病巣が広範囲に広がれば乳房全切除が必要なことがあります。温存療法の適応がある場合でも、それぞれの術式のメリットとデメリットを理解し、自分の希望も考えた上で、術式を選択することが大切です。

 図は乳房全切除と乳房部分切除の手術前後の状態を表しています。乳房全切除は乳がんの広がりが大きいとき、乳頭近くに及んでいるときに選択されます。メリットは、乳腺が残らないので局所再発の心配が少ないこと、術後の放射線治療も多くの場合必要ないため通院回数が少ないことです。デメリットは、乳房が完全に失われて前胸部が平たんとなりますので、体の形状が大きく変化するということです。その解決策として、形成外科による乳房再建が普及してきており、乳がん根治術と同日に再建術を受けることもできます。

 乳房再建は人工物(シリコン)による場合と、自家組織(背中や腹部の組織を移動する)による場合があり、人工物による場合には乳がんの手術と同日にまずエキスパンダー(組織拡張器)を胸の筋組織の下に入れ、乳房再建を始めます。再建は保険適応ですが、手術の適応や、方法の選択については乳腺外科と形成外科でよく相談する必要があります。

 乳房部分切除術は腫瘍が小さく、乳頭からある程度離れているときに適応になります。腫瘍を中心に乳腺を部分的に切除し、乳頭と、腫瘍が及んでいない乳腺は残します。腫瘍の部位とサイズによって、皮膚を切開する場所もさまざまです。部分切除術のメリットは乳房が残るという美容的な面で、手術後にも温泉に行けた、との声を聞くことがあります。デメリットは温存した乳房内にがんが再発する、または二つ目の別のがんができる可能性があるということです。

 乳房温存術後の局所再発率は5~10%ともいわれていますが、施設により手術適応や再発率に差があるため、主治医に確認する必要があります。最近では、無理な乳房部分切除はせず、乳房全摘と乳房再建を希望する方も増えています。乳がんの手術を受ける前には、乳がんの広がりを確認し、どのような手術が可能であるのか、その手術を受けた場合にはどのようなメリットとデメリットがあるのかを考えて選択する必要があります。

(県総合医療センター乳腺外科部長)