右乳がん術後のリンパ浮腫で太くなった右腕

乳腺外科医 長尾育子氏

 今回は、乳がんの手術のうち、特にリンパ浮腫の原因となる腋窩(えきか)リンパ節手術についての話です。

 乳がんの手術後に、手術をした方の腕が腫れて太くなることがあります。上肢のリンパ浮腫という後遺症の一つで、わきのリンパ節(腋窩リンパ節)を切除することによって引き起こされます。手術後から10年以上を経てから起きる場合もあり、発症時期はさまざまです。

 日常は気にならないほど軽症の浮腫でも、手の小さな傷を元に上肢の蜂窩織(ほうかしき)炎(腕全体が赤く腫れ上がる感染症)など重い炎症を引き起こしやすくなるので、乳がんの手術後は、手や腕にけがをしないよう注意することが大切です。特に、家庭菜園などの土いじり、庭の草引き、雑巾がけなどをするときには、ビニール手袋で手を保護して、小さな傷から感染しないよう十分気を付けましょう。

 なぜリンパ節の手術をするのでしょうか? 乳がんは、同側のわきのリンパ節に転移を起こすことが多いため、乳がんを治すためには乳房と、転移したリンパ節を切除することが必要です。がんを取り除くことだけが目的ではなく、いくつのリンパ節に転移があったかを病理検査で調べ、その後の治療の選択に役立てます。腋窩リンパ節の転移状況は予後を推定する上で重要な因子と考えられています。リンパ節転移がある場合には、がん細胞がリンパ流に乗って乳房の外へ及んでいると考え、術後の抗がん剤治療や放射線治療を加えることを検討していきます。

 手術によるリンパ浮腫は、リンパ節を切除することにより正常なリンパの流れが滞り、腕に余分な水分がたまってしまう状態です。従来の腋窩リンパ節手術をした人の約3割が、程度に差はありますが、リンパ浮腫を起こします。現在は、センチネルリンパ節生検という方法で手術を行い、できるだけ腋窩リンパ節手術を省略しています。

 センチネルとはもともと見張りという意味です。乳がんのセンチネルリンパ節とは、乳がんを見張っているリンパ節、つまり乳がんからのリンパ流が最初に到達し、最初に転移を形成するリンパ節のことをいいます。手術の前に腫瘍の部分に色素やアイソトープを注射して、それがリンパ流に乗って初めに到達したリンパ節をセンチネルリンパ節として切除します。手術中に病理検査などで転移の有無を調べて、転移なし、あるいは微小転移だけならば、それ以上のリンパ節切除は省略します。近年、この方法により、乳がんの手術を受ける人の7~8割がリンパ節郭清を省略できています。

 手術後の注意点について、腋窩リンパ節を切除することで上肢の浮腫、運動制限、神経障害などの術後合併症が生じる場合があります。手のけがや感染に気を付けること、また、体重増加に注意すること、疲労をためず規則正しい生活をすることも大切です。腕がだるくなった、赤くなった、痛くなった、太くなったなどの変化に気が付いたときは、主治医に相談しましょう。

 リンパ浮腫の軽減や予防の目的で、腕を強くマッサージすることは不適切です。リンパの流れは鎖骨下の血管から排せつされますから、自分で鎖骨に沿ってさするようにマッサージするか、鎖骨部を動かすような肩の運動が有効です。腕はなでるように優しくマッサージするのが良いやり方です。

(県総合医療センター乳腺外科部長)