循環器内科医 上野勝己氏

 「先生、私こんなに血圧が高いんです」。血圧手帳を見てみると、朝の血圧は134/82で、この2週間の平均血圧も130から140の間を推移していました。「血圧が130を超えたら...」といったコマーシャルもありますから、心配をするのは当然です。では本当に血圧は厳格にコントロールされるべきなのでしょうか?

 この疑問に答える大規模な臨床研究の結果が今年報告されました。心臓血管病のリスクが高い約1万人の患者を対象に、収縮期血圧を120ミリHg未満に厳格に管理するグループと、140ミリHg未満(平均135ミリHg)で管理する標準治療グループに分けて比較したものですが、研究終了後もさらに1年間経過観察を続けて、結果がまとめられました=図=(SPRINT試験、NEJM誌、5月20日)。全体の平均観察期間3・88年での主要心血管イベント(心筋梗塞、不安定狭心症、脳卒中、心不全)は、厳格管理グループで6・7%(年率1・84%)でしたが、標準治療グループでは8・8%(年率2・43%)で、統計学的に有意に、厳格コントロール群で良好でした。

 内訳をみると心不全と脳卒中では差がありませんでしたが、心血管病による死亡(年率0・32%対0・50%)と心筋梗塞(年率0・66%対0・94%)は有意に厳格管理グループで少なかったのです。しかし効果の差(絶対リスク減少率)をみると主要心血管イベントで年率の差は0・59%、心血管病死では0・18%、心筋梗塞では0・28%でした。

 一方、重篤な副作用(低血圧、失神、徐脈、電解質異常、腎障害)は全体として厳格コントロール群で年率14・4%、標準コントロール群で年率14・0%に認められましたが両群で差はありません。しかし個々の項目で見ると、低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害は有意に厳格管理グループで多かったのです。腎機能障害は深刻な副作用です。治療前には正常であった腎機能が30%以上低下したものは厳格管理グループで4・7%(年率1・9%)もあり標準治療グループの1・4%(年率0・39%)の3倍強も認められました。

 厳格コントロール群だけでなく通常コントロール群でも高血圧治療に伴う合併症の多さに驚きます。血圧低下や失神は、転倒あるいは入浴中の溺水などを引き起こすこともあります。平成28年度の統計では、約2万3千人の高齢者が窒息・転倒転落・浴室での溺水などの不慮の事故で亡くなっています。高齢者の救急搬送の80%は転倒転落によるもので4割は入院が必要です。この入院をきっかけに寝たきりになるリスクが高く(要介護になる原因の12・5%を占める)、命取りといえます。

 これからの季節は、血管の拡張と発汗に伴う脱水傾向から血圧は低下傾向になります。降圧薬が効き過ぎて過度の低血圧や腎障害が起きやすくなります。夏場は降圧薬の減量が必要な場合もあります。目まい・立ちくらみ・眠気などの症状に注意し、また家庭血圧を記録することが大切です。

 血圧は低ければ低いほどいい? メリットとリスクの大きさは患者一人一人で異なります。かかりつけ医ときちんと相談しながら安心で効果のある血圧管理をしましょう。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)