イイネイイネイイネを重賞初Vに導いた渡辺竜也騎手。一夜明けて喜びのスマイル

 場内の実況やライブ映像でも「イイネ」が連呼され、渡辺竜也騎手(22)騎乗のイイネイイネイイネ(牡3歳、田口輝彦厩舎)が悲願の重賞初Vをゲットした。勝利インタビューで渡辺騎手は「乗せていただいてから2着続きでしたから、やっと勝てたなあ」と成長著しいスターホースとのコンビで喜びをかみしめた。

 東海ダービー2着のイイネイイネイイネは7月31日、金沢競馬場で行われた3歳重賞「MRO金賞」(1900メートル)で、2着馬に5馬身差をつけて圧勝。単勝1.4倍の断トツ人気に応えた。ゴール後、渡辺騎手は愛馬の頭を優しくなでて、頑張りをねぎらった。2着マイネルヘリテージ=藤田弘治騎手=、3着はスタイルユアセルフ=魚住謙心騎手=で金沢勢が続いた。

■「シルバーコレクター」返上し「ゴールド」奪取

 イイネイイネイイネは、父タイムパラドックス、母はユメハオオキクという血統で、岐阜県馬主会副会長・吉田勝利オーナーの所有馬。新緑賞(笠松)、スプリングカップ、駿蹄賞、東海ダービー(名古屋)と重賞で4戦連続2着が続いて「シルバーコレクター」に甘んじてきたが、MRO金賞でようやく頂点の「ゴールド」をつかんだ。

 2年前のMRO金賞では東海ダービー馬の笠松・ニュータウンガールが単勝1.8倍で2着に敗れたように、競馬に絶対はないが、石川ダービー馬のスーパーバンタムが出走を回避。遠征馬は他になく、恵まれたメンバーとなって、渡辺騎手としては負けられない一戦になった。

金沢・MRO金賞で、1着ゴールを飾ったイイネイイネイイネと渡辺騎手(金沢競馬提供)

 6頭立てと少頭数。イイネイイネイイネは好スタートから、すんなりと3番手につけて先行2頭をぴったりマーク。2周目3コーナーでは先頭を奪い、あっさりと押し切った。他場重賞で圧倒的なパフォーマンスを発揮し、笠松ファンにとっても痛快なゴールを決めてくれた。渡辺騎手は千葉県船橋市出身で、父母ら家族も応援に駆け付けてレースを見守り、勝利を後押し。優勝馬の口取りで、一緒に喜び合った。 

■1周目の3コーナーで、早々と勝利を確信

 午後6時に金沢でのレースを終えた後、笠松に戻って翌朝の攻め馬にも午前9時まで精力的に励んだ渡辺騎手に、イイネイイネイイネ重賞初Vの感想を聞いた。

 ―石川ダービー3、4着馬などが相手でしたが、どこで勝てると思いましたか。

 渡辺騎手「1周目最初の3コーナーで勝利を確信しました。ペースが違い過ぎましたし、ああ楽だなあと。(石川ダービー馬の)スーパーバンタムが出ていても、いい勝負ができたでしょうし、戦って勝った方がイイネイイネイイネの名前が売れたのでは」

 ―6頭立てで、距離(1900メートル)も合っていましたね。
  
 「少頭数で展開も馬場的にも乗りやすかったです。東海ダービーで2000メートルを使ってましたし、長いのは良かったです」

 ―メンバー的にも勝って当然というレースでしたね。

 「スーパーバンタムが出れば一騎打ちかなあと思っていましたが。スタートも良く、前回、前々回とゲートを出てから押していたんで、馬が覚えていてくれました。向正面で外に出したら、勝手にハミを取ってくれて、そこからペースが速くなった。道中はすごくいいペースだったんで、前にいた相手2頭にプレッシャーをかけようと思っていましたが、ちょっとレベルが違ったかなあと」

イイネイイネイイネの重賞初Vを祝う喜びの関係者(金沢競馬提供)

■もっと大きいレースを狙って、その『第一歩』に

 ―JRA交流戦で、中央の馬と笠松の馬が走っているようなレースでしたね。

 「そんな感じで、すごく楽でした。いろんな人にも『負けられないレースです』と言っていたんで、逆に緊張せずに、僕はリラックスして乗れました。田口先生もプレッシャーをかけずに乗せてくれたんでね。重賞というより、平場のレースに転入初戦の馬がいたみたいな感じでしたが、勝てたことはすごくうれしいです」

 ―昨秋からすごく成長していますが、東海ダービー惜敗の悔しさがありますね。

 「馬に乗り始めてから、勝ちたいレースはいろいろありましたが、負けるのも競馬で、勉強かなあと思っています。ダービーでは馬の成長が感じられた半面、すごく勝ちたかったです。(今回の重賞初Vは)もっと大きいレースを狙って、その『第一歩』になればいいなあと思います」

 ―アンカツさんも岡部誠さんもダービージョッキーになったは、年齢的にはもっと遅かったですよ。

 「ダービーは早いうちに勝ちたいです。笠松の馬で、なかなかチャンスはないですし、巡り合わせがあるんでね」

■「ヤングジョッキーズはファイナルに出てほしい」

  ―ダービー惜敗を経験し、レースへの意識の変化は。

 「やってることは一緒ですよ。馬をつくってレースに挑むのは。ただ馬がダービーの時よりも肉体的に成長して上乗せがあった分、強くなりました。今回は早めに先頭に立っちゃって、最後の直線では1頭になると、結構フワフワするんで。でも上がり3ハロンを38秒5ぐらいでしたし、しまいも動いたんで、まだ余力はありそうでした。今回は普通に回ってきただけですから、もう少しメンバーが強くなったレースで頑張りたいですね」

愛馬で悲願の重賞初Vを飾った吉田勝利オーナー(左)、渡辺竜也騎手(中央)、田口輝彦調教師 

 ―渡辺騎手は金沢のコースが得意のようですね。

 「返し馬の感じでも乗りやすそうだなあと。(笠松に短期騎乗で来ていた)青柳正義騎手にレース前、馬場傾向を聞きました。砂が補充されてたんで、みんな内を空けて乗っているようでした」

 ―8月16日に金沢で「ヤングジョッキーズシリーズ」があり、深沢杏花騎手が乗りますが、後輩に何かアドバイスがあれば。

 「金沢でのヤングジョッキーズは勝ったことがありますが、やっぱり落ち着いて乗ることですかねえ。(当日の)コースのことは、ホームの人に聞いてもらって。笠松のみんなには頑張ってもらいたいし、ファイナルに出てほしいですね」

■岐阜金賞、東海3冠目指すタニノタビトと再戦へ

 ―今後のレースでの大きな目標は。

 「やっぱり岐阜金賞(8月25日・笠松)ですね。(東海ダービー馬の)タニノタビトと再戦できれば、イイネイイネイイネは笠松だと負けないと思うんですけど。展開的にはあんまり離されたくないですが、(自在性があって)こっちはどんなレースでもできるんでね」

 宿敵タニノタビト(牡3歳、角田輝也厩舎)は駿蹄賞、東海ダービーを制覇し、5年前のドリームズライン以来史上5頭目となる「東海3冠馬」への期待が高まっている。ダービーV後は7月の「ジャパンダートダービー」(大井、交流GⅠ)参戦を表明していたが、陣営では猛暑や雨続きで十分な調教ができなかったとして、出走を回避。岐阜金賞で東海3冠を目指すとみられている。

 昨年、イイネイイネイイネの兄ダルマワンサ(父フリオーソ、母ユメハオオキク)も重賞で4戦連続2着だったが、岐阜金賞では、東海2冠馬のニュータウンガールを倒して見事1着。そしてイイネイイネイイネも重賞2着続きに終止符を打った。渡辺騎手自身も5月のスランプを脱して、くろゆり賞シリーズ前半の3日間で9勝。今年83勝となり、笠松リーディングを独走中。けがさえなければ、このままトップでゴールインしてくれそうだ。

 愛馬とのコンビで、さらなるビッグレース制覇を狙いたいという渡辺騎手。自らのツイッターでも「馬がほんとに強くて、馬に勝たせてもらいました。いつか自分が馬を勝たせてあげられるようになりたいです。吉田オーナー、田口先生、ありがとうございました」と感謝。勝利インタビューの最後には「笠松にも遊びに来ていただけると、なおうれしいです」とファンに呼び掛け。「笠松競馬盛り上げ隊」の隊長としての熱い一言も忘れなかった。
  

来春の笠松デビューを目指して、競馬場実習に励んでいる松本一心騎手候補生

■松本一心騎手候補生、笠松での実習スタート

 レギュラーの所属騎手はわずか9人という笠松競馬だが、待望の「生え抜き」が来春の騎手デビューを目指している。
 
 地方競馬教養センター104期生で17歳の松本一心(いちと)君が、笠松競馬の騎手候補生として、場内で実習に励んでいる。笠松で活躍中の松本剛志騎手の息子さんで、加藤幸保厩舎でお世話になっている。騎乗技術をみっちり学んで、地方競馬教養センター(栃木県)を卒業し、地方騎手免許を取得できれば、来年4月にも笠松デビューとなる。

 実習がスタートし、初めてのレース開催日となった7月27日の12R終了後、先輩騎手の馬具の手入れなどに励んでいた一心君の姿があった。「レース初日で大変でした。装鞍や鞍磨きですが、最初は慣れないんで結構疲れました」と。教養センターで学ぶ厳しさとは違って、競馬場での実戦モードのハードさを体感した。

 競馬に興味を持ったのは「小さい頃からで、小学校に上がる前です。兵庫にいて、お父さんがレースで乗っている姿を見たことからです」。初めて馬に乗ったのは「中学3年で、乗馬クラブで騎乗しました。競馬がはやっていましたし」とジョッキーになろうと思ったそうだ。

 実習中の目標としては「競馬場で走る馬はやっぱり違うんで、しっかりと乗りこなせるようになりたいです。教養センターを卒業した後、即戦力として活躍できるように頑張りたいです」。朝の攻め馬では加藤厩舎の馬を中心に10頭前後に乗っているが、今後は徐々に騎乗馬を増やしてもらえそうだ。

地方競馬教養センターの模擬レースに挑んだ松本一心騎手候補生。騎乗馬で1着になった(地方競馬教養センター提供)

■直前の模擬レースで1着、笠松で来春デビューへ

 デビューを目指す来年4月までまだ時間があるから、いろいろと勉強することが多い。好きな騎乗は「先行ですね。教養センターの模擬レースでも前の方を走っていることが多かったですし」と。小回りの地方競馬では、軽量を生かして逃げた方が勝てることも多いか。笠松に来る前、「教養センターでの最後の模擬レースでは勝つことができました。7頭立てでした」。好位からの差し切りだったが、笠松では「いっぱい乗らないと慣れないから、攻め馬では朝1時半前には競馬場に来ます。自分はまだおとなしい馬が多いんで、これからですね」。

 将来の目標を聞くと「近い目標としては、取りあえずデビューしてレースで騎乗することです」。今後けがなどなく無事デビューできれば、お父さんと同じレースで騎乗することもあるだろうが、「乗りたいです」と早くも意欲。JRAには横山典弘騎手や岩田康誠騎手ら「親子ジョッキー」がいるが、新たに地方競馬でも誕生することになりそうだ。同期には名古屋に大畑慧悟候補生がいて、叔父が大畑雅彰騎手ということで、お互いデビューできれば、注目を浴びることになる。

 笠松競馬には期間限定の及川烈騎手や名古屋の騎手も来ているし、若い騎手が徐々に増えている。実習に励む一心候補生には、12月までの約5カ月間、先輩騎手のアドバイスをよく聞いて、こつこつと騎乗技術を磨き、来年4月には胸を張って笠松デビューを果たしてほしい。

東川慎騎手は笑顔で返し馬に向かい、自厩舎の馬で勝利を飾った。佐賀ラウンドにも参戦し、奮闘した 

■東川慎騎手はYJS佐賀ラウンドで10着、6着

 このところ、地元・笠松で好調の東川慎騎手(21)。くろゆり賞シリーズ(前半)では5勝。3日目には3勝を挙げ、穴馬での好騎乗も目立っている。8月4日には「ヤングジョッキーズシリーズ」(YJS)佐賀ラウンドに参戦。1戦目が12番人気のノーデザイア(牝4歳)で10着、2戦目は5番人気のチャンカパーナ(牝4歳)で6着に終わった。騎乗馬に恵まれなかったが、計9ポイントを獲得し、高知、佐賀ラウンドが終わって西日本地区地方騎手(19人)のうち総合9位につけた。

 東川騎手は地方通算勝利数が96勝で「減量騎手」卒業は間近。YJS挑戦は今年で最後とみられており、他の地方騎手より1戦多い5戦に騎乗できる。残る園田(9月8日)で1戦、笠松ラウンド(11月2日)での2戦で巻き返し、ファイナルラウンド進出(上位4人)を目指す。「中央のレースで乗りたいし、長江慶悟騎手、深沢杏花騎手には負けたくない」と意欲。一昨年は1ポイント差でファイナリストの座を逃しただけに、まずは園田で3着以内を狙い、最終の笠松ラウンドにつなげたい。

■高知競馬場でウマ娘イベント、ハルウララ代走はオグリキャップ

 7月30日、高知競馬場で「ウマ娘コラボイベント」が開かれた。地方競馬では、4月の笠松競馬場に続くもので、高知競馬場のV字回復を主題にしたウマ娘トークショーがあった。

 高知競馬場といえば、ハルウララの聖地。かつて「負け組の星」とも呼ばれて馬券販売に貢献し、社会現象になるほどのブームを呼んで、アイドルホースになった。「ウマ娘プリティーダービー」で、そのハルウララ役を務めている声優・首藤志奈さんは、コロナ感染のためトークショー出演を見送り。代わりにオグリキャップ役の声優・高柳知葉さんをゲストに迎えた。

若い女性ファンの姿も目立った高知競馬場。ハルウララの聖地で、ウマ娘関連イベントも開かれた

 地方競馬出身のウマ娘キャラはハルウララ、オグリキャップ、イナリワン、ユキノビジンの4頭。オグリキャップに2度勝った宿敵・マーチトウショウは、笠松から高知に移籍した縁もあってか、ハルウララの代役を務めたのはやはりオグリキャップ役のウマ娘だった。

 大雨の中、競馬場の駐車場には早朝から長い行列ができた。来場記念グッズとして、オリジナルうちわ(ミニサイズ)が先着2000人にプレゼントされ、競馬場内にはウマ娘たちの等身大パネルや関連グッズ販売ブースも設置された。イベントは日本青年会議所高知ブロック協議会の大会記念事業として行われ、トークショーは高知競馬のレースが始まる前に開かれた。

 高柳さんは詰め掛けたウマ娘トレーナーたちの前でオンステージとなり、トークショー完走を果たした。第1Rの本馬場入場のアナウンスも担当。高柳さんは「急きょの出走にもかかわらず、オグリのぬいぐるみやアイテムを持ってくださっている方もいらして、とても心強かったです。なによりイベント中、晴れてよかった」と自らのツイッターでコメントを寄せた。

 笠松競馬で実施された芦毛限定「ウマ娘シンデレラグレイ賞」のようなコラボレースはなかったが、ウマ娘トークショーとオリジナルうちわを求めて、若者ら約2000人が来場した。オグリキャップ役の高柳さんは弥富・新名古屋競馬場の開場イベントに続いて、高知競馬場でも出演したが、そろそろオグリがデビューした聖地・笠松競馬場に来ていただきたいものだ。そして、究極のウマ娘コラボとして、いつか最終レース後に優勝馬をたたえる「ウイニングライブ」を開いて、「新笠松音頭」なども踊るなどして盛り上げてもらいたい。