地方競馬通算500勝を達成した渡辺竜也騎手

 笠松競馬の若大将の勢いが止まらない。一連の不祥事で、歴代のリーディングジョッキーが数多く姿を消したが、堂々のエース格に成長したのが渡辺竜也騎手(22)=笹野博司厩舎=だ。

 地方競馬通算500勝ラインをあっさり通過。笠松現役では向山牧騎手、藤原幹生騎手に続いて3人目。オータムシリーズ前半戦で6勝、後半戦では9勝を挙げて今年は早くも113勝。2位・松本剛志騎手の70勝に43勝の大差をつけてトップを独走しており、初リーディング奪取は「当確」といえる快進撃を続けている。

 渡辺騎手は9月23日10Rで、6番人気のナムラアイアイサー(牡6歳、田口輝彦厩舎)に騎乗し、差し切り勝ち。節目となる通算500勝を達成した。2017年に17歳でデビューしてから5年。今年3月25日に400勝を達成したばかりなのに、半年後には500勝を突破。笠松で勝利を量産するだけでなく、名古屋遠征でも今年17勝。100勝ごとに開かれる達成セレモニーもペースアップ。抜群のスタートセンスと力強い追いっぷり。目覚ましい成長を遂げて、復興へと歩み始めた笠松競馬をけん引している。

 500勝達成セレモニーでは、渡辺騎手の「V字勝負服」を着込んだ3人が並び、ファンとともに大台到達を祝った。渡辺騎手と加藤聡一騎手(名古屋)、祝福のプラカードを掲げる松本一心騎手候補生がウイナーズサークルに登場。ファンらの温かい拍手に迎えられ、「おめでとう」と祝福を受けた。
 

500勝達成セレモニーでファンらの祝福を受けた渡辺騎手(中央) 

 ■「ペースを上げて1000勝を目指したい」

 渡辺騎手は「500勝は通過点だと思って頑張っていきたい」と意欲。「たくさんいい馬に乗せてもらい、すごくいいペースで勝たせてもらっています。ペースを上げて1000勝を目指したい」と力強く語った。

 この5年半は波乱に満ちたジョッキー生活。調教中の落馬事故で長期離脱となったり、多くの先輩との別れ、8カ月間のレース自粛もあった。「つらいこともありましたが、前を向いて頑張っていきます。(笠松競馬を)引っ張っていければいいですが、頼りない僕なので、応援していただければうれしいです」とファンに呼び掛け。「笠松競馬盛り上げ隊」の隊長としても、いつも楽しく明るいムードづくりで新生・笠松をアピールしている。

 この日の実況・司会は西田茂弘アナで、渡辺騎手は「シゲさんがセレモニーをやってくれるということで、500勝を達成できて良かったです」。これには西田アナもドッキリだったのか「それは裏で話してくれればと思います」との反応。このシーンについて最終レース後、渡辺騎手は「(ファンには)ちょっと受けたから良かった。笑いが取れましたね。いいセレモニーになりました」と、絶妙のやりとりに満足そうだった。

 また、プラカードを持ってくれた松本候補生。先輩たちを見習って、来春の笠松デビューを目指しており、渡辺騎手も「一生懸命、頑張っていますよ」と、松本剛志騎手をパパに持つ候補生の仲間入りを期待していた。
 

ナムラアイアイサーで500勝を達成した渡辺騎手(右)と祝福する騎手仲間(笠松競馬提供)  

 ファンに対しては「きょうもスタンドから、かわいい声での応援が聞こえ、モチベーションが上がりました」と感謝。この日も1番人気に応え、一気に4勝を積み上げた。3歳馬ばかりで得意の固め勝ち。「今開催から3歳馬が古馬編入になって、力上位で結構勝てる馬が多くて有利でした。JRAからの移籍組で、いい成績を残している馬もいて良かったです」

 東海ダービー以降、1開催2桁勝利も多く「V量産モード」に突入している。それでも人気馬騎乗が多く「きょうも取りこぼしがあって、6個ぐらい勝てたかな」と欲張りな一面も見せていた。

 ■仲がいい加藤聡一騎手とメインでワンツー

 また、セレモニーでは名古屋の加藤聡一騎手(26)に登場してほしいと希望。「一番仲良くしてもらっている先輩なんで、4R終了後にしてもらいました」とのことだ。渡辺騎手は5~8Rの騎乗がなく、「シャワーを浴びてセレモニーに出たかったので、5R後が良かったんですけど、加藤聡一騎手は6Rに騎乗するんでね」と先輩思いの一面も見せていた。

メインレースで、ワンツーを決めた加藤聡一騎手(左)と渡辺騎手            

 加藤聡一騎手は「(通算勝利数では)僕なんて来年抜かれますよ」。渡辺騎手が勝ちまくるんで「毎日、冷や冷やしてます。僕は600勝なんで、渡辺騎手とは100勝差しかないんでね。でもいい刺激をもらっています。今年100勝も近いですし」と。笠松はカツゲキキトキトを倒す大金星(くろゆり賞・ヴェリイブライト)で自身の初重賞Vを飾った相性のいいコース。渡辺騎手の1年先輩だが、ともにNARの優秀新人騎手賞を受賞しており、笠松と名古屋の将来を背負っていく敏腕ジョッキーである。2人のすごくいい関係について加藤騎手は「弟みたいです」、渡辺騎手は「『一つ屋根の下』のような関係ですね」とニヤリ。
 
 この日のメイン「栗きんとん特別」では、2人でワンツーフィニッシュも決めた。加藤聡一騎手(5番人気馬)が先輩の意地を見せ、渡辺騎手(4番人気馬)を差し切って今年98勝目(地方通算)。馬券的にも高配当を呼んだ。最終日にも「加藤→渡辺」のワンツーがあり、良きライバルとしてもお互いを高め合っている。加藤聡一騎手は最終日メインも制して、今年の100勝目を達成
。岡部騎手を豪快に差し切って価値ある1勝となった。

 デビュー以来、リーディング争いでは1年目は35勝で11位。2年目から62勝(6位)、93勝(2位)、116勝(2位)で「ずっと上がってきていました」と渡辺騎手。昨年は開催日は少ないし、けがで長期離脱し、34勝どまり(4位)。これまでリーディングには届かなかったが、今年は2位以下に40勝以上も引き離してセーフティーリード。このまま年内「休場」しても大丈夫な状況だが、「僕、ウサギさんなんで、余裕見せてると抜かれるかも…」と冗談も。残りは2カ月半しかなく、初リーディングは確実だ。午前1時台からの攻め馬、本番レースに遠征も多くハードな日程。落馬事故によるけがやコロナ禍など、体調管理の面でも十分に注意を払い、休むことなくファンに好ファイトを見せていきたい。          

オータムカップを制覇したロッキーブレイヴと岡部誠騎手(左)ら関係者                 

 ■オータムカップはイイネイイネイイネで5着

 6日のオータムカップではイイネイイネイイネ(牡3歳、田口輝彦厩舎)に騎乗した渡辺騎手。古馬勢への初挑戦となったが、5着に終わった。岡部誠騎手騎乗のロッキーブレイヴ(牡4歳、竹下直人厩舎)が2番手から3コーナーで抜け出し、押し切りVを飾った。2着はアンタンスルフレ(セン馬4歳)=丸野勝虎騎手=で、名古屋勢がワンツー。大原浩司騎手が騎乗した笠松の大将格・ウインハピネス(牡7歳)が3着に突っ込んだ。

 岡部騎手は「終始手応えが良くて、大バテしない馬。強気で3コーナー先頭に立ち、差されたら仕方がないという気持ちで乗りました」。3コーナー手前からギアを上げて馬を動かす「岡部マジック」ともいえる好騎乗で、ロッキーブレイヴを重賞初Vに導いた。ウインハピネスは安定した差し脚を発揮。笠松では21戦連続で3着以内を確保した。

オータムカップ、笠松勢はウインハピネス(左)が3着でイイネイイネイイネ(中央)は5着

 イイネイイネイイネは東海ダービー2着馬。専門紙予想は意外と印が薄かったが、ファンの期待は大きく、単勝1番人気。古馬相手でも「そんなに引けは取らないですよ。どんと構えていこうかな」と一発大駆けを狙っていた渡辺騎手。道中、5番手を進み、4コーナーではいい感じで3番手に上がったが、最後の直線で末脚の切れを欠いた。5番人気で勝ったロッキーブレイヴとは1秒差だった。

 レース後、渡辺騎手に1番人気だったことを伝えると「あー、本当ですか」と声を弾ませた。「折り合っていましたが、まだ成長途上なんで。今回のレースが本番じゃないんで」とサバサバ。古馬勢とは初対決だったが、「そんなに力の差はないです。最後の直線では、初めての古馬戦だと感じましたが、もう少し何とかなったかと」。また「青柳さんの馬を(内に)閉じ込めようとしたんですが、もうちょっと無駄を省けば、もっといいレースができたのでは。力負けではないです。岡部さんは天才なんで、平均値が違いますよ」と振り返っていた。

 ■全国のジョッキー戦へも夢を膨らます

 2日連続で4勝。各コーナーに砂が補充され、「馬場の状態は今回の方が癖がなく、乗りやすいです」。リーディングについては「けがなく、1年を終えられれば」と手応え十分。全国のリーディングらが集結して腕を競うジョッキー戦へも夢を膨らませ、好結果を残して笠松競馬をアピールしていきたい意向。初のリーディング獲得の先も見据え、ジョッキー戦での「頂上決戦」に向けて、日々精進し、腕を磨いていく構えだ。「トップジョッキーたちとの戦いでは、少しでも格好がつくように乗って、頑張っていきたい」と新たな闘志を燃やしている。

イイネイイネイイネに騎乗し、パドックを周回する渡辺騎手

 昨年は名古屋の岡部騎手に笠松リーディングもさらわれた。この日のオータムカップも制覇され、笠松勢の勝利を期待した来場者は、ややがっかり。笠松での重賞Vも多く、「また岡部騎手にやられた」という印象が強かった。

 岐阜金賞を制覇し、東海3冠馬に輝いたタニノタビト(牡3歳)は盛岡・ダービーグランプリに挑戦。岡部騎手の騎乗で中団やや後ろから追い上げたが、6着に終わった。シルトプレ=石川倭騎手=が制覇し、2着にエンリル=桑村真明騎手=と北海道勢が強かった。ダービーグランプリはかつて、笠松勢ではトミシノポルンガ=安藤勝己騎手=(1992年)、ルイボスゴールド=坂口重政騎手=(95年)が制覇している。

 ■西日本ダービーはアイファーエポックで3着

 9月の西日本ダービーでは、渡辺騎手は笠松生え抜きで6番人気のアイファーエポック(牡3歳、加藤幸保厩舎)に騎乗して3着。勝ったスーパーバンタムからクビ、アタマ差で大健闘。岐阜金賞6着からで、渡辺騎手の好騎乗が光った。

 東海ダービーは2着で、ダービーと名の付くレースは惜敗続きの渡辺騎手。ゴール前ではスーパーバンタムにじわじわと迫り、あと一歩。「もう1列前で競馬ができていれば、それこそ勝ち負けでした。もうちょっとでしたが、いいレースができました」。惜敗だったが収穫は大きく、1戦ごとに力をつけている印象。「あそこで『天井』でもなさそうですし、奥が深そうですよ、あの馬」と手応え十分。次走のパフォーマンスが楽しみになる一頭だ。

ゴール手前で5頭が横並びの大接戦。渡辺騎手(2)が1着、東川慎騎手(7)が2着

 ■5頭が横並び、クリーン度100%で接戦増えた

 レース再開から1年が過ぎ、クリーン度100%で公正競馬に努める笠松のホースマンたち。もちろん、ファンを裏切るような「黒いレース」はなくなり、真剣勝負で熱戦を展開している。最近のレースはゴール前での大接戦も多く、「走るドラマ」はよりエキサイティングになった。

 オータムカップ直後の養老特別は6頭立てとなったが、ゴール前100メートルを切って、5頭が横一線に並んで追い比べ。激しいたたき合いの末、渡辺騎手が東川慎騎手をかわして1着ゴール、5番人気→4番人気で決まり、馬単が万馬券。少頭数でも迫力があり、見応え十分のレースとなった。

 ■「岡部さんは『カベ』であり、目標です」

 渡辺騎手も「接戦は楽しいですし、燃えましたね。ジョッキー同士も激しくなるしね」。また、この日のレースでは「岡部さんや今井さん(今井貴大騎手)との追い比べを楽しんでいました。二つとも勝ったんですけど、トップジョッキーの岡部さんを1回でも多く倒していきたいです。岡部さんは『カベ』であり、目標でもあります。そういう人が前にいてくれた方がいいです」と闘志。4600勝達成も近い名手とのマッチレースは、ファンも胸を躍らせており、今後も名勝負を演じてくれそうだ。

宮下瞳騎手(左)が笠松に参戦。パドック前では深沢杏花騎手と並んで笑顔も

 この日の成績を確認してみると、3Rと12Rは「渡辺→岡部→今井」で3連単決着。12Rでは岡部騎手、今井騎手に加え、通算1100勝達成が近い宮下瞳騎手も参戦し、名古屋リーディングトップ3が勢ぞろい。パドック前では深沢杏花騎手とも横に並び、笑顔を見せていた。このレースを制した渡辺騎手は、笠松勢の意地を示してくれた。

 岡部騎手は昨年、東海公営では史上初となる名古屋、笠松両リーディングを獲得した。笠松勢にとっては屈辱的なことでもあったが、これも一連の不祥事が招いた「異常事態」であり、笠松競馬史の1ページとして語り継がれることだろう。

 かつて、安藤勝己騎手は18年連続、川原正一騎手は6年連続で笠松リーディングに輝いた。渡辺騎手はまだ22歳で、レジェンドたちと比べれば、まだ駆け出しの若造だが、無限の可能性も秘めている。「笠松の新エース」として、どっしりと腰を落ち着けて、連続リーディングに向かって突っ走っていきたい。