YJS名古屋ラウンドで勝利を飾った浅野皓大騎手(右)と古川奈穂騎手

 「浅野騎手、来たー!」。最下位から17人抜きで一気にファイナリスト圏内に突入。大逆転を狙ったこの日の主役は「あとは笠松の結果を待つのみです」とにやり。後方から追撃に燃える笠松の若手3人にも大きな刺激を与えた。

 27日、ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)の名古屋ラウンドが行われ、羽島市出身の浅野皓大騎手(21)=愛知・今津勝之厩舎=が鮮やかな騎乗で1着、2着。西日本トライアルラウンドで地方騎手の最下位(19位)だったが、一挙に50ポイントを獲得し2位に急浮上。ファイナルラウンド進出へ大きく前進した。

 11月2日の笠松ラウンドでは、地元から東川慎騎手(21)、深沢杏花騎手(20)、長江慶悟騎手(22)の3人が参戦する。笠松でのYJSは2年ぶりで、トライアルラウンド最終戦として開催。地方から4人、JRAから4人のファイナリストが決定する。

第1戦、メルトに騎乗し押し切った浅野騎手。古川騎手は追い上げたが届かず2着

 ■「浅野騎手⇔古川騎手」で2戦ともワンツー

 名古屋ラウンドの2戦は、ともに浅野騎手と古川奈穂騎手(22)=JRA=が1着、2着を分け合った。10R、1番人気のメルト(牡3歳)に騎乗した浅野騎手は3~4コーナーで先頭を奪うと、古川騎手・モズプラチナ(牡5歳)の追撃を振り切って1着ゴール。

 11Rでは1番人気・ナオミニデレデレヤ(牝3歳)に騎乗した古川騎手が、4コーナーで先頭に立って押し切り。浅野騎手騎乗のオーシャンブラック(牡6歳)が3着とはアタマ差で際どく2着に食い込んだ。ポイント獲得の上では、ファイナル進出を引き寄せる大きなアタマ差となった。勝った2頭はともに角田輝也厩舎の馬で、連勝を飾った。

メルトで勝利を飾った浅野騎手。厩舎スタッフに迎えられて歓喜に浸った

 ■笠松のYJS戦は「見守るだけ」

 第1戦の勝利後、浅野騎手は角田輝也調教師らの出迎えを受けて、満面の笑み。「まずはホッとしています。今の名古屋の馬場は、内から3~4頭目ぐらいが軽いと分かっていたんで。道中から手応え良く、3~4コーナーからも馬なりで行けました。最後はちょっと止まって、何か外から来てると感じましたが、押し切れました」と振り返った。

 高知では10着2回と完敗だったが、乗り慣れた地元で好騎乗を連発した。第2戦も騎乗馬に恵まれ、2着に食い込んだ。可能性が高くなったファイナル進出に向けては「ここ名古屋で、ファイナルラウンドをやるので、地元代表として恥ない騎乗をしたいです。JRA(中京)では初めて乗るので、悔いのない騎乗をしたいです」と意気込みを語った。

 ラストとなる笠松ラウンドをどういう気分で見るのか。「YJSに騎乗するジョッキーには『頼む(ポイントを)稼がないでくれ』との思いでしょうね。でも、見守るだけです」と周囲を笑わせた。
               

YJS名古屋ラウンドで整列する騎手

 ■細川騎手「ヤングは卒業して、オールドで頑張ります」

 このほか、この日騎乗した名古屋勢では、デビュー3年目の細川智史騎手(23)が8着、6着で掲示板には届かず。金沢では3着もあって期待されていたが、ファイナル進出を逃した。本人は「これでヤングは卒業して、オールドで頑張ります」とサバサバ。これまで地方通算94勝を挙げており、「減量騎手」卒業となる101勝までカウントダウンにも入った。2年前にはYJSファイナルで総合3位に入っており、大きな足跡も残した。笠松での騎乗も多く、今年9勝を挙げており、金沢・日本海スプリントではナムラムツゴローで重賞初Vも飾っている。

 笠松で今年21勝を挙げている2年目の塚本征吾騎手(18) は5着、10着に終わり、ファイナル進出ならず。8月の岐阜金賞ではコンビ-ノに騎乗し2着。東海3冠馬となったタニノタビトにはアタマ差で屈したが、存在感をアピール。笠松では準レギュラーであり、2着・3着も多くよく馬券に絡んでいる。

笠松競馬秋まつりのヤングジョッキー紹介式に登場した深沢杏花騎手(左)と及川烈騎手

 ■渡辺騎手も「若手の活躍を見てほしい」

 「若手ジョッキーの活躍を注目してください」。リーディグトップを快走する渡辺竜也騎手(22)も、笠松競馬のセールスポイントをアピールしている。一連の不祥事で騎手数は半減したが、若手の騎乗機会は増加。中堅、ベテランのアドバイスを受けながら、笠松の未来を背負う有望株として一歩ずつ成長した姿を見せてくれている。

 YJS笠松ラウンドには地元の3人が参戦。先輩たちの不祥事で、昨年は出場機会を奪われてゲートインもできず、悔しい思いをしてきた。レースがない期間も攻め馬で連日30頭近くに騎乗。こつこつと騎乗技術を磨き上げ、蓄積したエネルギーを爆発させるチャンスが巡ってきた。

 笠松でも朗報となったのは、期間限定騎乗中の及川烈騎手(18)=浦和=の快進撃だ。YJS盛岡、浦和ラウンドで計2勝。既に東日本の地方騎手トップ通過を決め、ファイナル切符を獲得した。いつもは見習騎手として、先輩の馬具の手入れに精を出している及川騎手だが、内に秘めた闘志をみなぎらせ、最高の結果を残した。「後輩には負けたくない」とばかりに、笠松の若手3人も刺激を受けており、残る笠松ラウンド2戦で地の利を生かして上位進出を目指す。

 西日本の地方騎手では、兵庫の大山龍太郎騎手が2着3回で、総合72ポイントを獲得しファイナル進出は当確。2位に浅野騎手(52ポイント)、3位には加茂飛翔(つばさ)騎手(52ポイント=2、3位は上位着順数)が浮上。4位の金沢・魚住謙心騎手が51ポイントで、ファイナル進出のボーダーラインになる。笠松勢3人にも、ファイナルに進む可能性は十分に残されており、浅野騎手のように勝利を挙げて30ポイント獲得できれば、残る1戦の結果次第で夢が広がる。
               

YJS園田ラウンドに参戦し、5着に入った東川慎騎手

 ■東川騎手、ラストチャンスでファイナリストの座を

 笠松勢の順位は東川騎手13位(19ポイント)、長江騎手14位(17ポイント)、深沢騎手17位(13ポイント)。まだ2戦を残している3人とも「後方待機」といった状況だが、笠松コースでいえば、ここから勝負どころとなる3コーナーへの下り坂。スピードアップし、残るレースで巻き返し。1着ゴールを決めてファイナストの座をゲットしたい。これまでのレースや攻め馬を通して、騎乗する馬の癖もある程度把握しているだろうし、コース経験を生かしたい。

 デビュー4年目の東川騎手は今年43勝(笠松リーディング7位)。地方通算101勝以上となり「減量騎手」を卒業した。このため、YJS挑戦は今回がラストチャンス。一昨年は笠松で3着、2着と追い上げたが、ファイナルへは1ポイント届かなかった。今年は佐賀で10着、6着。「勝ちます」と挑んだ園田では追い上げたが悔しい5着。「笠松では挽回したいです」と最終関門突破に燃えている。

 地元出身の浅野騎手は、笠松競馬秋まつりにも来場しており、東川騎手とは仲がいい。ジョッキーを志したきっかけは「小学生の頃から、父によく連れられて笠松競馬場に来ていて、騎手に憧れるようになった」とのことだ。東川騎手とは笠松ライディングスクールで一緒に乗馬をしており、仲良くなった。

 笠松ラウンド(7R、9R)では、近走不振馬を集めた「C級サバイバル」に準じて、もう少しレベルが高い「C級特別」2レースが実施される。ここ5走、勝利がない馬ばかりで波乱含み。どの馬にも、どの騎手にも勝つ可能性がありそうで、面白いレースになる。
 
 東川騎手は3コーナーからの得意のロングスパートで、豪快な差し切りを決めることができるか。ファンの期待も大きく、ラストチャンスでファイナリストの座をゲットしたい。

オータムカップでマジックバローズに騎乗し、返し馬へ向かう深沢騎手

 ■深沢騎手、人気も実力も右肩上がり

 3年目の深沢騎手は「笠松のアイドル」的存在で、人気、実力ともに右肩上がりだ。1年目13勝、2年目11勝だったが、今年は成長著しく41勝を挙げる活躍で躍進。軽量を生かした逃げ切りや鮮やかな差し切りで、ゴール前では接戦も多く、ファンはハラハラドキドキ。1日4勝の固め打ちや3連勝もあった。通算51勝以上となり、減量は4キロ減から3キロ減(女性騎手の2キロ減含め)となり、一人前のジョッキーへと一歩前進した。

 金沢ラウンドでは2桁人気馬での騎乗が続いたが、2戦目に追い込んで4着。ファイナル進出にはこだわっていないそうだが、地元での2戦。芦毛馬限定の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」をヤマニンカホンで勝った時のように、全国的に注目されるレースで真っ先にゴールを駆け抜ければ、JRAのファンにもアピールできる。

 ■長江騎手は1番人気馬で高い勝率、連対率

 一昨年秋にデビューした長江騎手は、落馬によるけがも多く、昨年は2勝どまりだった。体力強化で、馬に振り落とされないように日々努力。今年は「1開催1勝」を目標にしていたが、既に25勝を挙げており、成長した姿をアピールできている。
 

ヤングジョッキー紹介式で、長江慶悟騎手(左)と東川慎騎手

 後方から3~4コーナーでは大外を回って、一気に先頭を奪う競馬も得意で、展開がはまれば、1日に連勝を飾ることもある。笠松競馬秋まつりの「ヤングジョッキー紹介」では、データ的にも「乗れるジョッキー」として、競馬評論家の古谷剛彦さんに褒められていた。騎乗数は少ないが、1番人気馬(今年)での勝率は5割、連対率.833と非常に高い。この数字は渡辺騎手の勝率.444、連対率.637よりも上である。「(プロ野球ロッテの)佐々木朗希投手が僕に似ているんんです」とファンにアピールしていたが、1番人気馬に騎乗すれば「連対率パーフェクト」を目指して好結果を残してくれそうだ。
 
 笠松期待の若手ジョッキー3人。お先に夢ステージへの切符を手にした及川騎手に続くことができるか。トライアルラウンドのラストを飾る笠松で勝利を挙げて、12月16日・名古屋、17日・中京でのファイナルラウンドへと夢をつなげたい。

 ■ウマ娘ファンらも若手ジョッキーに注目

 オグリキャップが育った笠松競馬場には、聖地巡礼で来場するウマ娘ファンら若者も増えており、若手ジョッキーへの注目度も高まっている。渡辺騎手も「(期間延長で騎乗した)田中洸多騎手や及川騎手をはじめ、各地からチャンスを求めて、笠松に来る若手も増えています。技術を磨きたいという、そんな若手を引っ張っていき、笠松競馬を盛り上げていければ。冬場には北海道などから若手が来ると聞いていますので」と来場を歓迎。熱いバトルを楽しみにしている。

パドックを周回する古川騎手(右)と浅野騎手

 YJS名古屋ラウンドの1Rでは「教養センターで騎手を目指せ」の冠レースも行われた。検量室内などでは、現在笠松競馬場で実習中の松本一心騎手候補生が、業務をサポートする姿もあった。教養センターでは、ジョッキーヘの夢をかなえるため、来春入所する騎手課程候補生の受験を受け付けている。笠松で攻め馬などの実習を続けている松本候補生は、地方騎手免許を取得後の来年4月に笠松デビューを目指している。

 名古屋第2戦を勝った古川騎手はファイナル進出には届かなかったが「たくさんの方に競馬場まで応援に来ていただいて、結果を残すことができて良かったです」と感謝。笠松ラウンドでの女性ジョッキーは、JRAの永島まなみ騎手(20)と兵庫の佐々木世麗騎手(19)が参戦する。「レディスジョッキーズ戦は楽しい」という地元・深沢騎手との華麗な先陣争い、力強い追い比べも注目される。
 
 笠松の若手騎手でYJSのファイナルラウンドに進出したのは、これまで渡辺騎手だけ。1年目に総合8位、2年目に総合9位。表彰台には届かなかったが、中山の芝コースで2着に食い込んだこともあった。

 名古屋コースの特徴を熟知している有利さを生かした浅野騎手のように、笠松勢3人も地元コースで爆発力を発揮し、騎乗馬の持ち味をいかに引き出すか。昨年参戦できなかった悔しさをバネに、思い切った騎乗でファイナル進出を決めてほしい。