学校を訪問しタブレットの活用法などをアドバイスする長谷川満相談員(手前右)=恵那市上矢作町漆原、上矢作中学校
約3カ月の臨時休校中も子どもたちとつながったオンライン授業=大野郡白川村鳩谷、白川郷学園
オンラインで恵那北中の遠山直美教務主任と情報交換する上矢作中の牧野賀一教頭=同

 新型コロナウイルス感染拡大による突然の臨時休校は、学校(教師)と家庭(児童生徒)をつなぐICT(情報通信技術)の活用を進める契機になった。児童生徒にパソコンやタブレット端末を1台ずつ配備し、ICT環境を整える国の「GIGA(ギガ)スクール構想」の大幅な前倒しを受け、県内の一部自治体が配備を始めた。恵那市ではICTを使った教師の指導力向上のための研修や他校との情報交換が行われている。一方、大野郡白川村のICT先進校では、コロナ禍を経験したことでオンライン授業の可能性を広げている。

 県教育委員会によると昨年度(3月末時点)、学校で児童生徒全員に端末を配備していたのは、県内42市町村のうち加茂郡東白川村と大野郡白川村のみ。今回、ICT活用を進めることになった多くの現場では、機器の不足やネット環境の未整備、教師や児童生徒の活用習熟度の格差などが課題になった。

 恵那市では、6月末から「ICT教育推進訪問」をスタート。市教育研究所の長谷川満総括指導相談員(ICT教育スーパーバイザー)が市内の22小中学校を訪ね、ネット環境の整備や学習ソフトの紹介、活用方法などを助言。教師から「授業でどのようにICTを活用したらいいか分からない」「ICTの準備作業に時間がかかり過ぎる」などの悩みを聞いた。校内の通信状況を把握し、児童生徒の反応や要望なども拾い上げて、問題の改善につなげている。

 6月30日には上矢作中学校(今西卓(たかし)校長、生徒27人)を訪問。同校ではタブレット22台(生徒用12台、教師用10台)を共用しており、この日は1年生(8人)の英語に続き、2年生(8人)の理科の授業で使われた。ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保で授業に制約はあったが、ICTが効果を発揮した。英語の授業では、距離をとった上で2人一組になり、タブレットを通じて互いの食べ物の好みを英文で尋ねたり、お薦めのメニューを紹介したりした。理科では、大型モニターに電子教科書の写真や動画を投影。画像を拡大したり重要箇所に線を引いたりした。

 恵那市では中学3年、小学6年から配備を始め、年内に市内の全児童生徒にタブレットを配備する予定。長谷川相談員は「『1人1台』になるまでに、多くの教科で活用してほしい。児童生徒と教師はタブレットに積極的に触れ、機器に慣れて」とアドバイス。さらに「予習復習など、家庭でタブレットを使う機会も増える。インターネット利用時の情報モラル教育を強化してほしい」と呼び掛けた。

 恵那市には小規模校が多く、学校の枠を超えたコミュニティーづくりにもICTが活用されている。上矢作中の牧野賀一(よしかず)教頭は、恵那北中の遠山直美教務主任と教育情報を共有する。「他校の先生との交流で新たなアイデアが湧くし、悩みは軽減される。今後も情報を共有し、スキルアップにつなげよう」と横のつながりを強める。

 上矢作中PTAの安藤宗利会長は、タブレット配備をスムーズに進める上で、保護者の協力の重要性を訴える。自らも「夏休みは貴重な時間。新型コロナ感染予防策とともに、タブレットでインターネットにつなぐ際の危険性や正しい使い方、管理方法などを家族でしっかり話し合いたい」と話す。

◆オンラインで双方向型授業 白川村

 白川村立白川郷学園(大坪稔校長、1~9年生114人)は、ICTを使った教育の先進校だ。2015年度から児童生徒全員が1人1台のタブレット端末「iPad」(アイパッド)を持ち、授業や家庭学習で活用してきた。生徒らは、通信アプリで遠く離れたところにいる人と交流したり、調べ学習の成果や自分で撮影した写真、動画を使ってプレゼンテーション資料を作成したりできる。

 こうした経験の積み重ねが、突然訪れた3月の臨時休校で生かされた。休校が始まった数日後には、オンラインでの朝の会やリアルタイムの双方向型授業が実現した。素早い対応の背景には、白川郷を訪れた観光客の新型コロナ感染が2月に判明したことから、万が一に備えてオンライン授業の準備を進めていた経緯がある。また4、5月には、県内外から先行するICT活用について問い合わせが相次ぎ、テレビ会議システムで授業を全国に公開した。

 ICT先進校にも苦労はあった。休校中、新1年生にタブレットの使い方を教えなければならず、担任が各家庭を週3回訪れ、電源の入れ方から指導した。1カ月ほどたつと、1年生は自分でオンラインの朝の会に出席できるまでになった。ほかにも、各家庭で異なるインターネット環境、端末を扱う教員のスキル、オンライン授業ならではの教材や教え方など、課題を一つ一つ乗り越えている。

 習熟度が高まることによって、入院した生徒が病室から授業に参加したり、7月の豪雨による休校中(3日間)にオンライン授業を実施したりできた。「大切なのは丁寧な準備。決め手は柔軟な対応力」と深山(ふかやま)学副校長は強調する。

 新型コロナで激変した教育現場では、日常と非日常の対応、ハードとソフトの充実が必要になった。さらに台風などの災害時にもICTの利用を求められることが想定される。コロナ禍は結果として、教育の原点と在り方を学校、家庭、地域全体で考えて取り組むことの大切さを改めて考える機会をもたらした。