循環器内科医 上野勝己氏

 腎臓は、おなかの中の左右に1個ずつあってソラマメ状の形をしており、血液の中の老廃物を尿の中に捨てる「ろ過」の働きをする唯一無二の大切な臓器です。また血液中の水分やイオンバランスを調節して血圧をコントロールしていますし、赤血球を作るエリスロポイエチンというホルモンの分泌やビタミンDを作って骨を強くするといった大切な働きもしています。

 近年、高齢化や慢性生活習慣病患者の増加に伴い、この腎臓の働きが知らないうちに低下している患者が増えています。腎機能を低下させるさまざまな疾患がありますが、その原因にかかわらず慢性に進行する全ての腎臓病を総称して慢性腎臓病(CKD)と呼ぶようになりました。

 慢性腎臓病の診断とステージ(重症度)分類は血液検査と尿検査で行います。血液検査のデータをみると、クレアチニン(Cre)という項目の下にeGFR(イージーエフアール)という項目があります。これは腎臓が1分間に何ミリリットルの血液のろ過ができるかを年齢と性別から推定したものです。100ミリリットル/分前後が正常で、この値がどれくらい低下しているかと尿蛋白(たんぱく)の値を組み合わせてステージ1から5に分類をします=表=。

 腎臓機能の低下が進行すれば、やがて腎不全となり、慢性透析をしなければならなくなります。それだけでなく、CKDがあると心臓病の死亡率も高くなるのです(ステージ5の心血管死亡はステージ1の十数倍)。逆に高血圧や糖尿病、動脈硬化性循環器疾患があるとCKDになりやすく重度になりやすいことも分かってきました(心不全患者の7割にCKDが合併)。

 CKDの治療のポイントは病状を進行させないことです。これまでは、原疾患の治療と食事療法、極めて初期に降圧薬の使用しかありませんでした。その効果はゼロではありませんが、不十分でした。しかし昨年10月に、アストラゼネカ社のダパグリフロジン(フォシーガ)という糖尿病薬をCKD患者に投与して腎機能の進行を研究した大規模試験の結果が出ました=グラフ=。

 eGFRが25~75の4千人の患者の半分にこの薬を、半分にプラセボ(偽薬)が投与されました。腎機能の50%の悪化、末期腎不全への移行、死亡を併せたイベントでみると、平均2・4年後にプラセボ群で14・5%のイベントが発生したのに比して服薬群では9・2%の発生で、イベントを約40%も低下させました。しかもこの効果は糖尿病のあるなしにかかわらず有効でした。厚労省はこの薬を、CKDの治療薬として承認しました。

 日本では、ステージ3以上の慢性腎臓病は、10年前の統計で成人の8人に1人(1300万人)といわれ、2016年の統計では33万人が透析療法を受けています。糖尿病性腎症と加齢に伴う腎硬化症による透析患者が増えています。今後の成果が期待されます。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)