笠松グランプリ、御神本訓史騎手騎乗のルーチェドーロが1着でゴール(笠松競馬提供)

 1着賞金1000万円、笠松競馬・秋のビッグレースは「馬場を貸すだけでしょう」というアンカツさんの予想通り、遠征馬5頭がデッドヒートの末に上位を独占。地元・笠松勢にとっては厳しい結果になった。
 
 地方全国交流「第18回笠松グランプリ」(SPⅠ、1400メートル)は11月29日、笠松競馬場で開催され、川崎から参戦した4番人気・ルーチェドーロ(牡4歳)が、ゴール前の激戦を制して優勝を飾った。御神本訓史騎手がうまく立ち回り、インから鋭く突き抜けた。栗毛の馬体が躍動し「金の光」を意味する馬名の通り、まばゆい輝きを放った。

 不良馬場で9頭立て。勝ちタイムは1分26秒6と速かった。遠征馬4頭が横に並んだ最後の直線では「さすがは御神本騎手」とファンをうならせる強烈なゴールを決めた。2着は浦和のアポロビビ=左海誠二騎手=、3着は川崎のベストマッチョ=吉原寛人騎手=で、南関東勢の強さが際立った。

向正面では、先行したベストマッチョを追って馬群がぐっと詰まった

 ■翌日引退の左海騎手が勝負に出てヒートアップ

 レース展開は、名古屋・ゴールド争覇を勝ったベストマッチョが先行。昨年の笠松グランプリ覇者で1番人気の高知・ダノングッド=多田羅誠也騎手=が2番手からぴったりマーク。笠松のインシュラー=大原浩司騎手=は4番手から追走した。

 向正面で7番手から一気に動いたのは、JRA(オープン特別2勝)から転入初戦のアポロビビ。翌日、29年間のジョッキー人生に別れを告げた左海誠二騎手(調教師に転身)が、最後の重賞騎乗で完全燃焼の炎を燃やし、馬群はギュッと詰まってヒートアップ。勝負に出て3コーナーでは先頭を奪った。

 ■4頭が横に広がって、激しいたたき合い

 外からは4連勝中の北海道・スティールペガサス=桑村真明騎手=も追撃。御神本・ルーチェドーロは、砂がやや深めの内へ突っ込んだが、距離ロスは少なく、スルスルと追い上げ。4コーナーを回ると先頭に躍り出た。

最後の直線、遠征馬4頭が横に並んで激しいたたき合い。内のルーチェドーロが制覇した

 残り200メートルでは4頭が横に広がって、トップジョッキーによる激しいたたき合い。見応えのあるハイレベルな攻防が続いたが、各馬は同じような脚色。最後はルーチェドーロが半馬身差で押し切った。2着アポロビビからアタマ差でベストマッチョ、クビ差でスティールペガサスが続いた。昨年Vで「中高年の星」となった10歳馬ダノングッドは、外から伸び切れず5着に終わった。

 ■御神本騎手、笠松出身のフジノウェーブでJBCスプリントV

 ルーチェドーロは、3月のフジノウェーブ記念(大井)以来となる重賞2勝目。フジノウェーブといえば、笠松デビュー馬(柴田高志厩舎)で、JRA認定新馬戦を勝利(安藤光彰騎手)。7戦2勝で、大井・黒潮盃6着を機に、南関東(大井)へ移籍した。2007年のJBCスプリントで優勝したが、騎乗していたのが主戦の御神本騎手。交流GⅠのJBCでは地方馬初Ⅴとなる快挙を達成した。

 フジノウェーブは東京スプリング盃で4連覇を飾っており、その功績がたたえられ、レース名はフジノウェーブ記念に改称された(14年)。御神本騎手が笠松グランプリを制覇したのも、そんな深いつながりがあったのか。事前に分かっていれば、サイン馬券として「1着固定」で買うことができたかも。

笠松グランプリを制した御神本騎手(右から2人目)とアンカツさん(中央)ら関係者(笠松競馬提供)

 ■「内に突っ込んで、馬を信じて追った」

 笠松で地方通算2588勝目を挙げ、ウイナーズサークルで、ファンの熱い声援と拍手を浴びた御神本騎手。

 優勝馬ルーチェドーロは、脚元の不安で前走競走中止となり、やや人気を落としていたが、自力を発揮した。「きょうは返し馬から前向きに走ってくれ、厩舎の仕上げと馬の力を信じて騎乗した」と復調に手応えを感じていた。「吉原騎手の後ろでじっと我慢してましたが、ペースが流れていなかったので、(アポロビビが)向正面で動いて、良い流れに乗れた。内が重いことは分かっていたが、そこしか通る所がなく、突っ込んで馬を信じて追いました。最後は馬がしっかり辛抱してくれた」と愛馬の頑張りをたたえた。連覇を狙って来年また参戦する可能性もあり、「ルーチェドーロはもっと強くなる馬。応援してください」とファンに呼び掛けていた。
            

優勝馬ルーチェドーロと池田孝調教師(左)ら喜びの関係者(笠松競馬提供)

 ■池田調教師は「名手の腕一つで勝てた」

 ルーチェドーロを管理する池田孝調教師は、川崎からの遠征で最高の結果となった。「休養が長かったが、立て直して仕上げた。小回りコースへの遠征は初めてで、不安もあったが、御神本騎手が馬の癖を分かっていて『こういう競馬がいいな』と思い通りに乗ってくれた。名手の腕一つで勝たせてもらった」と喜びをかみしめていた。

 レースが大きく動いた向正面から勝負どころの3コーナーへの下り坂。左海騎手のアポロビビがまくっていったが、「あそこから行かないと、間に合わないからね」。ルーチェドーロについては「気難しい馬ですが、小回りもこなしてくれて、経験を積めばもっと良くなる。厩務員さんの仕上げと、桜井光輔騎手が折り合いをつけて大事に調教してくれたことも大きかった」と、スタッフ一丸で重賞Vにつなげた。

 今後は暮れの浦和・ゴールドカップ(22日)が目標となる。「年も若いし、力をつけられる馬。インをあれだけ回って、右回りもいいと分かった」と、園田など小回りコースでのダートグレード挑戦にも意欲を示していた。

1周目ゴール前。強力な遠征馬を相手に、笠松勢ではインシュラー(前から4頭目)が積極策で先団に加わった

 ■笠松勢撃沈、大差で7~9着

 今年は笠松から3頭が参戦したが、大差で撃沈した。一昨年3着だった大将格・ウインハピネスは出走を回避。インシュラーが積極策を見せ、好位を追走したが、3コーナーでは離されて8着。トロピカルストーム=馬渕繁治騎手=が7着、ナリノクリスティー=松本剛志騎手=は9着に終わった。3頭とも1分29秒台で、それなりの実力は発揮したが、相手が強すぎた。

 名古屋からはロッキーブレイヴ=岡部誠騎手=が参戦。10月の笠松・オータムカップ勝ち馬で、3着の期待もあったが、ここでは力不足で6着が精いっぱい。10年前のレースではラブミーチャンがゴール寸前、エーシンクールディに差し切られ2着となったが、笠松勢2頭による一騎打ちは名勝負だった。

 笠松グランプリは、オグリキャップ記念と並ぶ看板レースだけに、アンカツさんが言うように「馬場を貸すだけ」ではファンは納得できない。来年4歳になるイイネイイネイイネやドミニクら重賞経験馬には、応援する笠松ファンのためにも春秋のビッグレースに挑戦し、地元馬の意地を見せるべきだ。

名鉄ブラスバンド部のファンファーレが高らかに響き渡り、笠松グランプリを盛り上げた

 ■名鉄ブラスバンド部のファンファーレ高らか

 この日は、笠松グランプリならではのイベントでもファンを楽しませた。朝から雨が降り続く悪天候だったが、笠松グランプリ前には、みんなの願いが通じたかのように、一時的に雨がやんだ。レース発走時には、名鉄ブラスバンド部の精鋭15人によるファンファーレの生演奏が高らかに鳴り響いた。スタート地点では9頭が次々とゲートインし、一斉にきれいなスタートを切った。

 一昨年はコロナ禍のため活動休止で、昨年は岐阜工業高校吹奏楽部が代役を務め、名鉄ブラスバンド部の登場は3年ぶり。東スタンドのキャロットシートで演奏し、迫力ある響きとともに、ファンの大きな拍手にも包まれ、笠松競馬の大一番を盛り上げた。

表彰式でアンカツさん(左)から花束を贈呈された御神本騎手(笠松競馬提供)

 ■アンカツさん、デビュー当時の写真にびっくり

 笠松のレジェンド・アンカツさんは、4月のオグリキャップ記念に続いて来場。笠松グランプリのウェブ予想会ライブ配信では、笠松デビュー当時の懐かしい写真が披露されるサプライズも。3年目からは騎手リーディングを獲得したが「写真はまだ十代の頃でしょう。面白いね」とアンカツスマイル。結婚後「髪形は嫁さんの好みで」と長髪にもしていたとか。

 オグリキャップ、オグリローマンの兄妹やライデンリーダー、フェートノーザンといった笠松時代に騎乗した名馬たちの思い出も語った。朝日杯2着のレジェンドハンターも印象に残る馬で「『ジェット機』と呼ぶほどのスピードで、豪快なフットワークがすごかった」と懐かしそうに振り返っていた。

 笠松グランプリの予想では「◎ダノングッド、○スティールペガサス、▲ルーチェドーロ」とし、パドック解説も務めたが「ゴール的中」とはならなかぅた。
 
 表彰式のプレゼンターとしても登場。「アンカツさん、待ってたよ」とファンの熱い声援も飛び、人気抜群。御神本騎手に「うまく乗りましたね」と祝福の花束を贈呈。笠松競馬場ならではのアットホームな雰囲気で、ファンと一体になって笑顔があふれた。記念撮影では、御神本騎手もうれしそうにアンカツさんと談笑。雨空だったが、ウイナーズサークルで表彰式が行えて本当に良かった。
             
 今年の笠松グランプリは、珍しく火曜日開催だった。注目された当日の馬券販売は約3億8000万円で、昨年(約5億5000万円)を大きく下回った。昼間の同じ時間帯に開催された金沢、園田、水沢と競合地区が多く、伸び悩んだ。今シリーズは5日間連続開催で、水、木曜日には4億円以上売れ、トータルの数字で見ればまずまずだった。 

パドック前に整列する騎手は4人だけ。少頭数のレースが相次いだ笠松競馬

 ■馬不足が深刻、5頭立てなど少頭数目立つ

 2年前、520頭ほどいた笠松競馬の所属馬。一連の不祥事で約100頭減少していたが、11月末現在で493頭まで持ち直した。それでも、今シリーズの出走頭数は各レース7頭前後と少頭数が目立った。特に初日は1~4Rが5頭立てになるなど、ゲートやパドックでもガサガサ感が漂った。3Rでは3連複の配当が100円の元返し。3連単では万馬券が少なく、1000円以下の低配当も多かった。

 不祥事で開催できなかった日々を思えば、頭数が少なくても、厩舎関係者にとっては「生活のため、レースができるだけ幸せ」と感じてもらえればいいが、荒れにくい少頭数では馬券的な妙味がなく、多くは売れない。

 夏場の3日間開催では12Rまで編成できたが、秋冬は4日、5日間開催も多い。このため出走馬が十分に集まらずに、1日10Rでもやりくりが大変になる。期間限定騎乗では、多くの騎手に来てもらえているが、他地区から競走馬は来ない。けがで療養中の馬もいるし、名古屋からの参戦はあるが、やはり少なくなっている。

 「助っ人」として来場した騎手には1頭でも多く騎乗してほしいが、その分、地元騎手の騎乗は減っている。5~8頭立てがほとんどで「笠松の騎手が少なくて寂しいよね。1人しか乗っていないレースもあった」と地元ファンを嘆かせている。レギュラーの所属騎手は9人と少ないが、出走馬も明らかに足りない。2日で1レースしか乗れない笠松の若手騎手もいて、馬不足は深刻だ。

 ■強い馬づくりができるよう支援策必要

 地方競馬の西日本地区では高知666頭、金沢714頭、佐賀819頭、名古屋894頭。開催日数が多い兵庫は、笠松の3倍超の1551頭もいる。

 厩舎関係者にとっても、競馬場運営の生命線は「まずレースで使える馬がいること」である。馬不足解消のためには、笠松の厩舎にもっと多く預けてもらえるよう、重賞レースの賞金アップや出走手当増額など、競馬場サイドによるサポート強化が課題だ。かつては、中央の重賞レースをあっさり勝つ若駒が多くいた地方競馬の聖地。厩舎が強い馬づくりをできるよう、施設面など環境整備でも支援策が必要になってくる。