
ウイニングラン「やっちゃいました」。18歳若武者の重賞初Vは、何と東海公営「最高峰」のレース。ゴールの瞬間、突き出した左手のステッキにハートを射抜かれたファンたちから大きな「ジュンキコール」も湧き起こった。
3歳馬頂上決戦の「第55回東海優駿」(SPⅠ、2100メートル、1着賞金1400万円)が4日、名古屋競馬場で行われ、望月洵輝騎手騎乗の2番人気サンヨウテイオウ(牡3歳、原口次夫厩舎)が中団後方から豪脚を発揮し圧勝した。3馬身差の2着に10番人気ヴィリケン(角田輝也厩舎)、さらに半馬身差で6番人気エバーシンス(角田輝也厩舎)が3着に突っ込んだ。原口次夫調教師もこのレース初制覇。勝ちタイムは2分19秒2(やや重)。
笠松からただ1頭参戦した3番人気スターサンドビーチ(笹野博司厩舎)は4着、断トツ人気のカワテンマックス(角田輝也厩舎)は6着に敗れ、3連単は58万円超と大荒れになった。勝ったサンヨウテイオウも重賞初制覇。父ルヴァンスレーヴ、母ブラックシンデレラ、母父ハーツクライという血統。
■2コーナー外からロングスパート、4コーナーで先頭

5頭出しの角田輝也厩舎。カワテンティアラの岡部誠騎手が騎乗変更(笠松競馬場調整ルームでの通信機器使用違反)。エレーヌでダービー優勝経験がある筒井勇介騎手が代打騎乗で、ハナを切った。3コーナーまで逃げたが、一気の距離延長を克服できず。勝負どころで後退したが、それなりに見せ場はつくった。
望月騎手はサンヨウテイオウと5度目のコンビ。2周目2コーナーから外を回らせ、馬の勢いに任せてロングスパートを開始。ただ1頭次元の違う伸びを見せて3コーナー3番手、4コーナーで一気に先頭を奪うと、ファンの力強い声援を浴びてそのまま押し切った。

■ゴールの決めポーズもウイニングランも想定通り
最後は後続を引き離して余裕のゴールで、望月騎手はウイニングポーズを準備。右手のステッキを左手に持ち替えて披露し、スタンドで見守るお母さんら家族、友人たち、ファンたちと歓喜の一瞬を共有。「勝ったらやろうとレース前から決めていた」とイメージを膨らませていたウイニングランも「いやあ、やっちゃいましたねウイニングラン。最高でした」と照れ笑い。
ゴール後は感謝の思いを込めて愛馬の首を優しくたたいたり、たてがみをなでたりしながらコースを1周。ファンの熱い思いが通じたかのようなビクトリーロードを再び駆け抜けた。ゴール前では応援したファンから「ジュンキ、ジュンキ」の祝福コールが響き渡り、大盛り上がりとなった。
昨年末のヤングジョッキーシリーズのファイナル(中京)ではJRA初勝利を飾り、総合2位で表彰台に上がった。単勝99倍、15番人気のアイファースキャンを勝利に導いた。「末恐ろしいルーキー」は再び強烈な一撃を放った。昨年4月から名古屋、笠松で計96勝。今年は名古屋で58勝(リーディング5位)、笠松で15勝。全国リーディングも12位に躍進した。

■同期の明星騎手が重賞V、「今度は俺が」燃える思い
重賞勝ちは、4月に新緑賞を制した同期の笠松・明星晴大騎手(後藤佑耶厩舎)に先を越されていたが、ビッグタイトルですぐに追い付いた。共に身長168センチで並び、普段は仲の良い2人。明星騎手の重賞勝ちを喜んでいた望月騎手だが、内心は「今度は俺が」と燃える思いもあった。
東海優駿は2年前までは「東海ダービー」の名称で親しまれ、名古屋・笠松の人馬が「最も勝ちたいレース」でもある。笠松育ちのオグリキャップは1月のゴールドジュニアを最後に中央入りし、東海ダービー挑戦は断念した。アニメ「ウマ娘シンデレラグレイ」の作中でも、オグリとトレーナーの複雑な思いが描かれ、感動を呼んで「笠松篇」のハイライトシーンにもなった。
昭和の時代から名古屋・笠松の人馬が目標にして55回目を迎えた伝統の一戦。「東京優駿」には「日本ダービー」の副称があるように、レース名は「東海優駿(東海ダービー)」としてもらった方が、関係者やファンにもしっくりくるのでは…。
ということで当欄では「ダービー」の名を使わせていただく。

■ダービー5勝の今井騎手「あと4勝だな」
18歳9カ月という若さで「ダービージョッキー」に輝いた望月騎手。昨年、フークピグマリオンで制覇するなど東海ダービー史上最多の5勝を挙げている今井貴大騎手(36)から「(俺に並ぶまで)あと4勝だな」と冗談ぽく声を掛けられると「できるように頑張ります」と意欲を見せた。
サンヨウテイオウは門別デビューで昨年8月名古屋へ移籍。ライデンリーダー記念10着など重賞戦線では掲示板を外していたが、「ソエ」の不安も解消され、望月騎手との相性抜群で5戦4勝、2着1回となった。
■「ジュンキコール、うれしかった」
断トツ人気のカワテンマックスとは駿蹄賞でクビ差2着だった。「そんなに力量差はないかなと思っていた」。18歳での重みのある「ダービージョッキ-」の称号は「自分でも早くて、荷が重いかとも思いますが、結果を残せてうれしい。『ジュンキコール』はうれしかったです。ありがとうございます」と感謝。「母や親戚の人たち、友達らがいっぱい来ていて勝ちたいなと」。ゴール後「ジュンキおめでとう」の嵐を浴びた。「口取りは母にも来てほしかったですが」と語りつつ、7番サンヨウテイオウのゼッケンを手に、関係者と喜びを分かち合った。

デビューからわずか1年2カ月でここまで来た。今井騎手23歳、アンカツさん25歳でのダービー制覇よりも早い十代での快挙。成長を続ける大器は「初重賞Vがダービーなんて、なかなかないんでありがたいです。年間を通して活躍したいですし、リーディングも取りたい」と闘志めらめら。「サンヨウテイオウと全国でどれだけやれるか、楽しみです。チャレンジャーの気持ちで出走できたらいいですね」と真っすぐ前を見据えた。
■「馬のコンディションが良く、強かった」
ファンに迎えられたウイナーズサークルでの晴れ舞台でも、実況アナのインタビューを受け、多くの声援に応えた。「思っていた以上に馬が強くてびっくりしています。日本ダービーを勝った北村友一騎手が言っていたように、テイオウがダービー馬になれてホッとしています」。

レース展開は「仕掛けずに中団ぐらいを取れたらいいなと。想像以上に馬のコンディションが良かった。最後は甘くなるかなと思ったんですが頑張ってくれました。もまれたくなかったんで、2コーナーを回った時に外に出して、自分からハミを取ったんで、その気持ちに任せて向正面を流していった。4コーナーを回って伸びていたんで、勝てるかなあと」。ゴールインの瞬間は「ホッとしました。馬の成長が著しくて特別な存在です。名古屋で3歳ナンバーワンになって、他地区でも活躍したいし今後もテイオウと頑張っていきたい」と愛馬とのさらなる飛躍を誓った。
■原口調教師、騎手時代にはゴールドレットで「東海3冠」
1週前に本追い切りを済ませ、直前はサッと流して万全の仕上げ。あとは折り合い重視で勝機十分と挑んだ陣営。ジョッキー時代にゴールドレットで東海ダービーを勝ったことがある原口次夫調教師。ゴールドレットといえば23戦20勝、2着3回。その戦績から東海公営史上最強馬であり、その後は競馬本で「東海帝王」と呼ばれたこともあったが、ここでサンヨウテイオウと「帝王つながり」があったとは…。ゴールドレットは原口騎手の手綱で「東海3冠馬」にも輝いた。サンヨウテイオウが馬場改修明けの笠松で開催される岐阜金賞(8月11日)を勝てば2冠馬となる。

■「外に出し、最高の乗り方をしてくれた」
1999年の厩舎開業以来、66歳で初の「ダービートレーナー」となった原口調教師。感激に浸りながら「100%の状態に仕上げて枠順にも恵まれ、あとは望月騎手がどうレースを組み立てるかでした。最高の乗り方をしてくれたから、サンヨウテイオウ、厩務員、騎手らみんなに感謝です。全てを出し切ってくれて素晴らしい勝利でした」と好騎乗をたたえた。
さらに「これまでキングスゾーンなどの名馬も管理したが、やっぱりダービーは勝ちたいですよね。2歳からずっと育ててきて勝つということは調教師みょうりに尽きること。こういう名馬を預からせてもらい、巡り会えたので最高にうれしいです」
望月騎手の騎乗ぶりについては「スタートから慌てずに本命馬をマークしながら、1~2コーナーを回った所で一番外に出せたのが良かった。100%の力を出し、自分の行きたい所にスーッっと上がっていって良かった。2000メートル前後がベストの馬で、他場でも十分に戦える。今後はその路線に近いところで」と。3歳戦なら、岐阜金賞が1900メートルで、1着賞金1000万円も魅力となるがどうか。

■3年連続2着の渡辺騎手、スターサンドビーチで末脚勝負
笠松からただ1頭参戦し、3番人気に推されたスターサンドビーチ。騎乗した渡辺竜也騎手は、このレース、イイネイイネイイネ、ツミキヒトツ、キャッシュブリッツで3年連続2着と「シルバーコレクター」となっており、「今年こそ」の思いは強かった。ゴール前には笠松ファンたちも多く陣取り声援を送った。
ダービー2着といえば、東京ダービーで2着10回の的場文男騎手。1986~89年(88年は参戦せず)は3回連続2着。日本ダービーでは、岡部幸雄騎手が93~95年にビワハヤヒデなどで3年連続2着だったが、84年にシンボリルドルフで勝利を挙げていた。
歴史的にも同じ騎手のダ-ビー4年連続2着はなさそうで、渡辺騎手の初制覇が期待された。スターサンドビーチは4、5番手絶好位。前走・西日本クラシック(園田)で猛追2着があり、距離が延びて持ち味を発揮。自信をつけて2100メートル戦のここはチャンス十分。ファンから「大外枠でレースがしやすいのでは」との声もあった。
渡辺騎手は前走のように末脚に懸けたが、他馬が追撃を開始した3~4コーナーでポジションが下がり、最後はよく伸びてきたが勝ち馬から5馬身差で4着が精いっぱい。馬体重プラス8キロでやや重かったし、馬場は「良」まで回復しておらず、追い込み不発に終わった。

■岐阜金賞は適距離、地元で巻き返しを
笹野調教師は「負けたけど手応えはあった。ジョッキーはいい位置が取れすぎて、結果的には大事に行きすぎた。(道中は)これは勝ったかなとも思ったが(前が止まらない展開で)もうちょっと流れてほしかった」と振り返った。前走のような展開にはならず、初馬場で持ち味を発揮できなかった。笠松での岐阜金賞は適距離の1900メートル。地元で意地を見せて巻き返したい。
ゴール直前では、2頭が外からいい脚で伸びてきた。2着に突っ込んだヴィリケン騎乗の村上弘樹騎手は「前走で乗った丸野さんから『末脚がいい』と聞いていて、スタートも速いから前めにつけて、最後は2着に追い込めた」。ラブミーチャン記念勝ち馬のエバーシンスに騎乗した細川智騎手は「(短期放牧帰りで)リフレッシュはやや不足でしたが、逆に馬は結構気合が乗っていて寝ぼけていなかった。追い切りも抜群で折り合いも良く、いい脚を使ってくれた。賢い馬でレースが分かっていますね」と最後の切れ味を引き出した。
単勝1.3倍と人気を集めたカワテンマックスは、スタートで他馬とちょっと接触した影響もあって反応が悪く、流れに乗れず後方からの競馬となった。4コーナーで3番手に押し上げたが、最後の直線で伸びを欠き、掲示板も外れて完敗となった。

■明星騎手と望月騎手、熱いバトルを
新年度、笠松で新緑賞を勝った明星騎手。同期では一番乗りの重賞V。これに刺激を受けて発奮した望月騎手は東海優駿Vという快挙。共に18歳の「キラキラ星」で将来性豊か。明星騎手は厩舎の先輩が引退し、有力馬への騎乗も増えてきた。6月の名古屋開催では4日間とも騎乗。望月騎手と共に重賞Vは大きな自信にもなった。成長著しい2人が同じレースで騎乗することも増えており、熱いバトルを見せてくれそうだ。
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
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