人員体制の拡充を図る県保健所。精神保健指定医の当番制導入を見据え、医療機関との連携強化を目指す=各務原市那加不動丘、岐阜保健所

 厚生労働省が発表する全国の精神科病院などの状況をまとめた資料は、毎年6月30日時点の調査をベースとしているため「630調査」といわれる。2020年度の630調査によると、人口10万人当たりの精神保健指定医の数は全国平均の10・6人に対し、岐阜は7・7人。全国で3番目に少ない。

 「警察官が千件通報しても1万件通報しても、保健所はそれだけの数の精神保健指定医を確保できない。片っ端から『診察不要』という判断をしなければ業務が回らないという背景は、確かにある」。国のガイドライン策定に携わった千葉大社会精神保健教育研究センター(千葉市)の椎名明大特任教授は、岐阜県での措置診察率の低さは人員不足に起因している可能性があると指摘する。

 精神保健福祉法は、措置診察に関して2人以上の精神保健指定医が診察に当たるよう定めている。さらに、ガイドラインではその2人は同じ医療機関ではないことを原則としているなど、細かい規定が設けられている。

 精神保健指定医になるためのハードルも高い。精神科医としての勤務年数などの要件や口頭試問のほか、疾病の診断や治療などについて論じる「ケースレポート」の提出が求められ、措置入院に関する症例を経験することが必須項目になっている。

 岐阜大大学院医学系研究科精神医学分野の塩入俊樹教授は「措置入院数が少なければケースレポートが書けず、精神保健指定医が増えないという悪循環になっている」と指摘する。

◆県内保健所減

 通報を受理する県保健所も人手には余裕がない。1989年に全国で848カ所あった保健所は、2020年には469カ所と半減。1994年の保健所法改正がきっかけとされており、岐阜市を含め県内では14カ所から8カ所に減少した。保健所1カ所当たりの守備範囲が広がる中で、県内の警察官通報は2004年に初めて100件を超えると、14年には千件を超えた。

 病床数にも相対的な不足がある。20年度の630調査によると、精神科病院のうち措置入院の受け入れができる病床の数は人口10万人当たりで全国平均の26・7人に対し、岐阜は7・2人と全国で2番目に低い。

◆「ワースト3」

 県が5月から11月にかけて開いた関係者検討会議でも、こうした体制面での不足が指摘された。会議での意見を踏まえ、県は保健師の確保や、より専門的な知見を持つ精神保健福祉士の配置を模索する方針を決めた。さらには、精神保健指定医の手配を円滑に行えるよう医療機関との連携を強め「当番制」を導入するなど、新体制構築の具体的な検討に入るとしている。

 一方、県は取材に「体制を持続的にしていくために、余裕のある人員が必要ということ。人がいないから診察につなげていなかったという話ではない」と、あくまで県の措置診察率の低さは人員不足によるものではないと説明。病床の数についても「一定のベッドは確保されている」とする。人口比で精神保健指定医の数は全国ワースト3、病床数はワースト2であるにもかかわらず、それが要因ではないと主張する。

 では、答えはどこにあるのか。

 【精神保健指定医】 精神保健福祉法18条が定める、医師の国家資格の一つ。3年以上にわたる精神科での従事を含めて5年以上、診断や治療の経験があり、必要な研修を修了した医師から、厚生労働大臣が指定する。医師で唯一、精神疾患の症状から当事者を強制入院させる必要があるかを判定する権限を持つ。