群馬や千葉、滋賀、愛知のように、警察官通報を一括受理して円滑に精神保健指定医の診察へとつなぐ仕組みを築いている自治体は、実は少数派だ。取材班が全都道府県の担当者への聞き取りや公表資料などを通して調べたところ、一括方式や、担当指定医をあらかじめ定める「当番制」などの仕組みを運用しているのは38%に当たる18都府県にとどまった。岐阜は昨年、当番制の導入を検討すると決めたが、人手の問題から容易ではないことが、他県への取材から分かってきた。

 「指定医を探すのに、現場は特に苦しんでいる」。県名を出さないことを条件に、ある自治体の担当者が実情を語ってくれた。

 指定医を対象にした研修会を開くなど、確保に向けて「努力はしている」。ただ、効果は乏しい。その県では、特に夜間の警察官通報が診察につながるまで時間がかかる問題があるといい、「指定医にとっては慈善事業や、使命感としてやっている向きが大きい。深夜でも対応するなど指定医の生活を犠牲にするので、行政として答えは出しづらい」と明かす。「田舎は人材も限られる。この制度自体が理想論なのではないか」

◇確保まで電話

 警察官通報を一括受理する仕組みは「センター方式」と呼ばれる。当事者の情報を集約でき、拠点に職員が常駐するため夜間や休日でも対応が迅速。指定医につなぐかの判断にも、ぶれが出にくい。ただ、1カ所の拠点からそれぞれの現場へ駆け付ける形になるため、「面積の広い自治体には向かないのではないか」(滋賀の担当者)。岐阜は全国で7番目に面積が広い。

 各都道府県が運用する仕組みはさまざまだ。群馬や千葉などのセンター方式をはじめ、栃木、奈良などは、県立病院で一括対応するなどして情報を集約している。仕組みがある18都府県のうち12府県は人口10万人当たりの指定医数が全国平均(10・6人)を下回っており、指定医が少ない実情をそれぞれの仕組みで補っていることが分かる。

 一方、岐阜(7・7人)を含む残りの29道県では、措置診察の必要がある場合にその都度、県保健所の職員が病院や指定医個人に電話連絡する手段をとる。指定医を確保できるまで電話をかけ続けるため、対応に何時間もかかる場合がある。「当番制の導入を試みたが、業界団体から異議が出て断念した経緯がある」と明かした自治体の担当者もいた。

◇合った仕組み

 措置入院制度に関する国のガイドライン策定に携わった千葉大社会精神保健教育研究センター(千葉市中央区)の椎名明大特任教授は「指定医の資格を取得するには経験年数などさまざまな関門があり、急には増やせない」と指摘する。「地元の医大で育てても都会へ出て行ってしまいがちなのは精神科医も同じで、深刻な地域偏在が起きている」と明かす。

 センター方式を採用して人員不足を補っている滋賀県で、全国精神保健福祉センター長会長を務める辻本哲士氏は「制度運用が各地で違うのは事実だが、全国一律にできるものでもない」とし、「関係機関が顔を合わせて議論を重ねる中で、岐阜に合った仕組みを築くことが重要。それが当事者本人の支援にもつながるはず」と語る。