整形外科医 今泉佳宣氏

 前回、糖尿病と整形外科というテーマでお話ししたところ、「なぜ糖尿病があると骨がもろくなるのですか?」という質問をいただきました。今回はその質問にお答えします。

 近年、糖尿病の人は骨粗しょう症になりやすいことが分かってきました。糖尿病ではない人と比べ、1型糖尿病患者で6~7倍、2型糖尿病患者で1.5~2倍、骨折の危険性が高いことが報告されています。

 その理由の一つがインスリンの関与です。インスリンには血糖値を下げる働きのほかに、骨芽細胞に作用して骨の形成を促す働きがあります。1型糖尿病では、インスリンがほとんど分泌されないため、骨形成が低下して骨粗しょう症になりやすくなります。

 一方、2型糖尿病ではインスリンを分泌する能力は保たれており、骨量も減少していませんが、終末糖化産物などの骨に悪影響を及ぼす要因が増え、骨の質が悪くなるため、骨粗しょう症になりやすくなります。長期間高血糖が持続すると、1型コラーゲンなどの骨に含まれているタンパク質がグリケーション(糖化)され、骨の正常な新陳代謝を障害することで、骨の力学的強度を減弱させるのではないかと考えられています。

 また2型糖尿病の発症に関与する腫瘍壊死(えし)性因子が、骨を形成する骨芽細胞の機能を低下させるとともに、骨を壊す破骨細胞の数の増加や機能の亢進(こうしん)をもたらすことが報告されています。

 加えて糖尿病で食事療法をしていると、カロリー制限から十分なカルシウム量を摂取できないため、カルシウム摂取不足となります。その結果、血液中のカルシウムを補うために骨からカルシウムが溶け出し、骨量が減少する原因の一つと考えられています。 

 わが国ではこれまでの疫学研究で、糖尿病が骨粗しょう症の危険因子になると報告されていました。しかし国際的には、糖尿病は骨粗しょう症の危険因子ではないとの意見が広く採用されていました。このような疫学的差異は日本人と欧米人では、インスリンの分泌能力およびインスリンの感受性が異なるためにもたらされていたのではないかと想像されています。

 しかし欧米人においても、最近の大規模臨床試験では、糖尿病患者では健常者に比べて骨折頻度が2倍程度にまで増加していることが明らかとされ、糖尿病における骨強度の低下の意義が、いま国際的に問い直されつつあります。

(朝日大学村上記念病院教授)