オマタセシマシタのオーナー・斉藤慎二さんのお面をかぶった関係者と、喜びに浸る渡辺竜也騎手(右)

 「お待たせしました」とガッツポーズも飛び出し、V字勝負服の渡辺竜也騎手(22)がきっちりとVゴールを決めた。応援に詰め掛けたファンは熱狂。笠松競馬場に大きな拍手と歓声が響いた。

 人気お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二さん(40)が馬主を務めるオマタセシマシタ(牝3歳、笹野博司厩舎)が26日、1番人気に応えて待望の初勝利を飾った。門別、金沢を経て通算10戦目。笠松ではデビュー戦となった3Rの3歳戦(1400メートル)。「初勝利を頂くため、全力で頑張ります」と斉藤オーナーへの約束通り、同じ船橋市出身の渡辺騎手が「愛馬初勝利」をプレゼントした。

 斉藤オーナーは東京での仕事のため、来場できなかったがライブ映像で応援。自らのユーチューブ配信では「行け行けー、よし勝ったー」と絶叫。「涙が止まらない。勝っちゃったよ。渡辺騎手が完璧な騎乗をしてくれて、ガッツポーズにはしびれました」と愛馬の初Vに大興奮だった。

返し馬ではUターンを嫌がり、外ラチにぶつかりそうになったオマタセシマシタ

 ■返し馬では外ラチにぶつかりそうに、悲鳴も

 暮れの金沢では降雪の影響でレース中止となり、笠松でも天候不良の心配もあったが、斉藤オーナーの願いが届いたかのように晴れ上がって好コンディション。3番・オマタセシマシタが内馬場パドックに登場すると、コースの外ラチ沿いでは、カメラやスマホを手にした若者ら大勢のファンが熱~い視線を送った。

 1、2Rを連勝した渡辺騎手がまたがり、返し馬に向かったが、オマタセシマシタは4コーナー奥でうるさい様子を見せた。走るのを嫌がるかのように、なかなかUターンせず、外ラチにぶつかりそうに。「キャー、危ない」と悲鳴も上がり、ファンをハラハラさせた。それでも機嫌が直ったのか、ゲート近くでの輪乗りに向かうことなく、ようやく反転。ラチ沿いのファンの前を軽快に駆け抜けていった。

初勝利を飾ったオマタセシマシタ。渡辺竜也騎手がガッツポーズでゴールイン

 ■半馬身差で1着ゴール、ビシッと歓喜の勝利

 オマタセシマシタは単勝2.1倍とファンの支持を集めてゲートイン。前走、出遅れたが、今回はスタートでつまずいて左によれるシーンがあり、ここでもヒヤッとさせた。それでも渡辺騎手の手綱さばきに応えて、1周目のゴール前では3番手をキープ。強敵は逃げたヤマジュンゲノム(伊藤強一厩舎)=丸野勝虎騎手=で、予想通りの展開となった。

 3コーナーで2番手に上がったオマタセシマシタ。4コーナーでは外に振られることもなく、課題をクリア。最後の直線では2頭での激しいたたき合いとなったが、残り100メートルを切ると、オマタセシマシタがグイッと前に出て半馬身差で1着ゴール。昨年、笠松の年間最多勝を飾った新エース・渡辺騎手がビシッと初勝利を決めてくれた。

 普段はゴールインでガッツポーズなど見せない渡辺騎手だが、注目馬とのコンビで最高のパフーマンスとなって「お待たせV」を表現。装鞍所エリアに戻ってきて、笹野調教師や厩務員の出迎えを受けて下馬する際にも「お待たせしました」と一言。駆け付けた関係者が「斉藤オーナーのお面」をかぶって、口取り撮影にも参加。初Vの歓喜に浸った。

デビュー10戦目で初勝利のオマタセシマシタと喜びの関係者

 ■斉藤オーナー「興奮しちゃって、感謝しかないです」

 オマタセシマシタを管理する笹野博司調教師は「おめでとうございます。うれしいですね」と勝利を電話で報告すると、斉藤オーナーは「やったあー。笹野さ~ん、本当にありがとうございます」と喜びを爆発させた。「渡辺騎手のガッツポーズ、めっちゃ格好良かったです。ここまで馬を仕上げてもらって。興奮しちゃって、感謝しかないです」と初Vに感極まった様子だった。

 注目馬で名トレーナーぶりを発揮した笹野調教師は「3番手といい位置が取れた。向正面で気合を入れつつ、3~4コーナーでは外に他馬が来なくて(2番手で)進んでいけた。最後の直線は僕らも必死に応援して、着差はわずかでしたが、オマタセちゃんがよく頑張ってくれました。レース後の歩様は問題なく、けがなどなくて大丈夫です」と伝えた。「きょうはご飯を多めにあげてください」との斉藤オーナーの声には「多分完食すると思います」と。初勝利という最高の報告ができ、ホッとした表情だった。

きっちり仕事を果たし、笑顔の渡辺騎手

 ■「4コーナーに向かって、もう1個ギアを上げた」

 取材規制のため、インタビューなども装鞍所のエリア外での対応となった。1Rから3連勝で「お待たせV」を決めた渡辺騎手に喜びの声を聞いた。

 ―2、3番手からの競馬を予想していましたが、レースプランはどうでしたか。

 「出たなりで行こうと思っていました。前へ行く脚はなかったですが、展開やメンバー的にも1列目を狙っていました。スタートはそこそこでしたね。ちょっとつまずき加減でしたが、予定通り1列目を取れたんで」

1周目のゴール前、3番手につけたオマタセシマシタ(3)

 ―向正面から3コーナーにかけては。

 「1コーナーからあまり手応えがよくなかったので、向正面に入ってすぐ、追っつけた感じでした。ハミを取ってスピードに乗りだして良かったが、3コーナーからまた手応えが怪しくなった。4コーナーに向かって、もう1個ギアを上げるイメージで気合をつけて行きました」

最後の直線での激しいたたき合い。ヤマジュンゲノムをかわして先頭に立ったオマタセシマシタ(中央)

 ―最後の直線はどうでしたか。

 「4コーナーで反応があったんで、直線では前の馬をとらえられると追っていて、最後は半馬身差で勝てて良かったです。勝利はゴール板前まで分からなかったんで、一生懸命追いました」

 ―調教段階ではどんな感じでしたか。

 「ソツなく調教をこなしましたし、追い切りも2回。やるべきことをやって、いい状態でレースを迎えられたのも結果につながったと。雪が降った日の前に追い切りをこなせて、その後も順調に乗れて良かったです」

 ■「斉藤オーナーはすごい。競馬場が盛り上がった」

 ―話題性が高い斉藤オーナーの馬でしたが、どんな意識で乗りましたか。

 「注目されているプレッシャーはあったんですが『レースに行ってしまえば、他のレースとやることは変わらない』と自分に言い聞かせて乗りました」

 ―渡辺騎手からも斉藤オーナーにメッセージを。

 「まあ『お待たせしました』とお伝えください。きょうはファンが多くて、たくさん写真を撮ってもらったし、斉藤オーナーの存在はすごいなと思いました。最高の舞台を用意していただき、こうやって競馬場が盛り上がっていくことは良いことかなと思います」

「お待たせしました」とVゴールを決め、装鞍所に戻った渡辺騎手と愛馬

 ―オマタセシマシタの次走に向けては。

 「1勝させていただいてホッとしています。目標としていた初勝利でしたが、船橋移籍に向けては賞金が足りないので。やることは変わらなく、次のレースに向けていい状態に持っていければいいです」

 ―連勝しちゃうと、条件をクリアして笠松から船橋へ移籍するようですね。

 「それはオーナーの意向なんで、僕たちが考えることじゃないんで。全力でやるだけです」

 前日に5勝、この日も4勝と絶好調だった渡辺騎手。いい流れで、オマタセシマシタの一戦を迎え、勝負強さを発揮して素晴らしい騎乗を見せてくれた。

オマタセシマシタの返し馬では、大勢のファンがスマホなどを構え、熱い視線を送った

 ■「最後はしっかりと伸びて、格好良かった」

 ゴール前で応援したファンたちにもレースの感想を聞いた。

 「仕掛けがちょっと早くて、直線を向いてどうかなあと思ったが、最後はしっかりと伸びて押し切ったので格好良かったです。さすが渡辺騎手だなあと。もう1個しっかり勝って船橋に行ってほしい」と男性ファン。次走はクラスが上がりそうだが「時計は1分33秒台でしたが、ここで1回走ったんで、タイムも詰めてくると思うんで。相手も強くなるが、頑張ってほしいです」。渡辺騎手については「朝から連勝でイケイケモードでした。『笠松競馬を引っ張っていかなきゃ』という自覚もあるのでしょう」と頼もしい存在に成長。今後は渡辺騎手に続く若手の成長や新人騎手の加入も期待していた。

 ■「2勝し移籍しちゃうと寂しい」「競り合いになって行けーと」

 女性ファンは「勝ったのはうれしいですが、2勝して移籍しちゃうとちょっと寂しいですね。また勝ってほしいけど、すごく複雑な気持ちです」と。次は2、3着でもいいから、もう少し笠松にいてほしいということだろう。

 「最後の直線では、みんなワーッとなって歓声が上がり、競り合いになって『行けー』と盛り上がりました。平場のレースなのに、渡辺騎手がガッツポーズをしていた。プレッシャーもあったでしょうが、1着ゴールをオーナーにアピールしたのでは」と、生観戦での熱狂ぶりも伝えてくれた。

返し馬に向かうオマタセシマシタと渡辺騎手

 また「応援幕もあったし、オマタセちゃんを見たくて、初めて笠松競馬場に来た若い人が多く、単勝馬券などを買っていた。柵にぶつかりそうになったが、返し馬をしてくれて、撮影するファンのためにも存在感をアピールできて良かった。話題の馬がいると、笠松競馬も盛り上がりますよね。斉藤オーナーが来場したら、もっとすごいだろうな」とも。

 ■ぜひ来場して、お面なしで2勝目ゲットを

 笠松では月に2回ほど走る馬が多い。オマタセシマシタも順調なら、次走は2月6~10日の如月シリーズか。「応援していただいた皆さんに、馬券でもやっと貢献できました。今度は笠松競馬場で観戦できるといいです」と斉藤オーナー。ぜひライブで観戦していただいて、2勝目ゲットの口取りでは、お面などのかぶり物なしで愛馬の手綱を持って、渡辺騎手、笹野調教師らと記念撮影を行いたい。