笠松競馬でのJRA交流戦で、デビュー初勝利を飾って笑顔の田口貫太騎手

 「田口貫太だ、ゴールイン」「貫ちゃんすごい、勝った」。デビュー初勝利を地元・笠松競馬場でのJRA交流戦で飾り、スタンド一帯は大きな歓声に包まれた。今年のJRA新人6人のうちでは「V1号の大アーチ」。翌日にも2日連続勝利となる「V2号」をかっ飛ばし、里帰り騎乗で地元ファンを喜ばせた。
 
 岐阜県岐南町出身で、JRAデビューを果たしたばかりの田口貫太騎手(19)=栗東、大橋勇樹厩舎=。8日の笠松競馬8R「JRA交流・朧月(おぼろづき)特別」に参戦し、1番人気に応えて鮮やかな差し切り勝ち。9日9R「花見月特別」では4番人気で逃げ切り勝ちを決めた。 
 
 両親は笠松競馬の元ジョッキー。父の輝彦さんは現調教師で、母の広美さん(旧姓中島)は笠松初の女性騎手として活躍した。その競馬ファミリーの「良血」を受け継いで、4日に阪神競馬場でデビュー。土・日曜の2日間は初戦の2着が最高だったが、水・木曜には笠松競馬場で騎乗。家族や地元ファンの応援を背に、最高のパフォーマンスを見せた。

サンマルパトロールに騎乗し初勝利のゴールを決めた田口騎手

 ■永島まなみ騎手と競り合い、大きな1勝

 田口騎手は笠松競馬場近くで生まれ育ったが、笠松コースで騎乗するのは初めて。初戦は地元馬で3着。続くJRA交流戦では自厩舎のサンマルパトロール(牡3歳)に騎乗。7頭立て1400メートル戦(3歳2組・中央未勝利)で好スタート。先団4番手から徐々にポジションを上げ、3~4コーナーでは逃げた永島まなみ騎手のビービーザンダーを追って一騎打ち。4コーナーを回って先頭を奪ったが、永島騎手に食い下がられて激しいたたき合い。最後は2馬身半突き放し、ジョッキー人生の第一歩となる大きな1勝を飾った。

 馬主さん、大橋調教師ら厩舎スタッフらに迎えられて、歓喜に浸った田口騎手。優勝馬との口取り撮影には田口調教師をはじめ、笠松・名古屋の各騎手、永島騎手(2着)や同期の佐藤翔馬騎手(4着)も加わり、地方・中央の垣根を超えて祝福を受けた。

サンマルパトロールと、田口騎手の初勝利を祝う厩舎関係者や騎手たち

 ■「おめでとう」と祝福の嵐

 早速、初体験となった勝利の味を聞くと「うれしかったですね」と第一声。「大橋先生が、笠松の場で強い馬を用意してくださって感謝しかないです。ゲートを出たら気合をつけて前に行って、びっしり追ってこいと言われました」。道中の展開や手応えは「永島さんが相手だと思っていて、外に切り替えてそのまま永島さんを見ながら競馬ができたんで良かったです。4コーナー辺りでは2頭になって、手応えもあったんで大丈夫だと。これまで勝ったことがなかったんで、最後まで必死でした」とレースを振り返った。

 ガッツポーズなど目立ったアクションをする余裕はなかったが、ゴール後は向正面まで初勝利の味をかみしめながら流していってUターン。装鞍所に戻ってくると、大橋調教師や厩務員らから「おめでとう」と祝福を受けたり、「よくやった」と頭をなでられたりで、初々しい貫太スマイルがはじけた。

「よくやった」。頭をなでられて初勝利の祝福を受ける田口騎手(左)

 ■「貫ちゃん、お帰りー」、将来大物になる素質も

 「初めて馬を見たのも笠松でしたし、この競馬場で勝つことができて、こんな強い馬を用意してくださった関係者の方に感謝したいです」。家族もみんな応援に来ていて、わが子のレースを見守った輝彦さんからも「おめでとう。良かったな」と祝福を受けた。笠松の騎手からも「みんなに『おめでとう』と言ってもらって、うれしかったです」と喜びに浸った。

 輝彦さんは「ホッとしました。これから頑張ってやっていってくれればいいです」。JRAのレースは、4日に阪神競馬場で観戦。「そつなく乗っていたんで、いいんじゃないですか。初めてにしては落ち着いていた。これからもまた頼むよ」と貫太騎手に声を掛け、一歩一歩の成長を期待していた。
 
 ライブ観戦した地元ファンからは「貫ちゃん、お帰りー。頑張って」の声も飛び交い、1着でゴールインすると「貫ちゃん、勝ってる」と大盛り上がり。「貫太君はデビュー前から笠松競馬場に来ていて、お父さんの管理馬の重賞Vでは表彰式にも参加して、うれしそうでした。その貫太君が笠松で初勝利を飾り、ご家族や応援する馬主さんたちは感無量でしょう」。レースでは「追い出しを我慢して、最後は伸びていた。将来大物になる素質があり、がんがん勝って笠松競馬も盛り上げてほしい」と期待していた。                

パドック前に整列。左から田口騎手、永島まなみ騎手、岡部誠騎手、今村聖奈騎手

 ■2勝目は逃げ切り「次は中央で勝ちたい」

 9日にはエキストラ騎乗を含めて4頭に乗ることができた。9Rの「花見月特別」(A3組・中央1勝クラス)でも自厩舎のメイショウサトワ(牡5歳)に騎乗。好スタートからハナを奪ったが、3~4コーナーでは永島まなみ騎手のマサカウマザンマイ(笠松で3勝の実績)に詰め寄られ、最後の直線はまたも2人のデッドヒート。ゴールでは半馬身先着し、交流戦V2を決めた。1月に笠松初騎乗Vを決めた今村聖奈騎手も参戦しており、大勢のファンが熱い視線を送った。

メイショウサトワで逃げ切り、2勝目を飾った田口騎手

 逃げ切りで2勝目を飾った田口騎手は「良かったです。大橋先生から『行けたら行け』と言われていて、スタートも速くてすんなりハナに立てました。まだペースもグチャグチャでしたが」と振り返った。レース後には「あんな遅いペースじゃ、まくられちゃうよ」と、周りのジョッキーの声もあったそうで「これからは馬のリズム良く逃げられるといいです」と。ゴール前は際どくなったが「永島さんが4コーナーで並びかけてきたので、馬に『頑張ってくれ』と必死に追いました。馬が本当に強かったです。次は中央で勝ちたいので頑張ります」。大橋調教師は「初めて前へ行って、どうしていいか戸惑っていたが、これも経験だから、どんどん乗っていければ」と飛躍を期待していた。

メイショウサトワと、2勝目の喜びに浸る関係者

 ■騎手・調教師コンビでの「親子制覇」はお預け

 10Rでは父・田口厩舎のピューリファイ(牡4歳)に騎乗。「毎日攻め馬をしてくださっている深沢騎手がいるのに乗せていただき、周りのジョッキーの方にも感謝です。(笠松での)エキストラでも中央でもどんどん騎乗していきたいです」と意欲。その10Rは前走1着馬ばかりが集結したハイレベルな一戦。深沢杏花騎手のメイショウセントレが勝って、田口騎手のピューリファイは最後方から追い上げたが7着。騎手・調教師コンビによる「親子制覇」はお預けとなったが、笠松での2勝について輝彦さんは「勝てたんで良かったです。出来すぎでしょう」と貫太君の頑張りをたたえていた。

阪神競馬場でのデビュー戦ではクリノクリスタル(真ん中)に騎乗し、ハナ差で2着に突っ込んだ

 ■阪神でのデビュー戦いきなり2着

 JRAでのデビュー戦は、阪神競馬1Rだった。芦毛馬で5番人気・クリノクリスタル(牝3歳、大橋勇樹厩舎)に騎乗し、7番手から追走。ラストの切れ味を発揮し、大外から強襲。横山典弘騎手のロンシャンクイーンには3馬身離されたが、大外から豪快に追い込み、ハナ差で2着争いを制した。

 検量室前に戻ってくると「いい競馬をしたよ」と大橋調教師らに迎えられ、笑顔を見せていたがちょっぴり悔しそうな表情も。目標とする先輩・北村友一騎手も騎乗しており、レース内容について「どうだった」と話し合う姿も見られた。

 9Rでは父が管理していたビルボードクィーンにも騎乗。9着には終わったが、デビュー初日に吉田オーナーの勝負服姿で参戦でき、笠松ファンらを喜ばせた。

デビュー戦2着でゴール後、検量室前に戻ってきた田口騎手

 ■「緊張してましたが、冷静に乗れた」

 初日、6頭の騎乗を終えて「初めての競馬で、まだ分からないことだらけですが、徐々にレースの流れも分かってきたんで、次につなげたいです」。新人では2着は最高の成績だった。最初のレースは「緊張してましたが、冷静に乗れました。ゲートが開いて馬がしっかりと出て、スムーズな競馬ができた。最後も外に出してしっかり伸びてくれ、馬が頑張ってくれました」と好感触。この日、同じレースでの騎乗が多かった川田将雅騎手ら先輩からはアドバイスを受け、「前の馬との距離とか、行き過ぎてしまったりとかあるので注意していきたいです」と反省点も忘れなかった。

 2日目6Rでは、自厩舎の7番人気・タマモモンレーブに騎乗して3着。ここでもハナ差で馬券圏内を確保し、勝負強さも発揮した。2日間で9頭に騎乗。このうち自厩舎の馬が6頭で、いっぱい乗せてもらった。

紹介セレモニーで注目を浴びた河原田菜々騎手(左)と田口騎手

 ■新人紹介セレモニー「こつこつとやって、いつか花を咲かせるよう」

 8日・阪神4R後には新人騎手紹介セレモニーも行われ、河原田菜々騎手(18)とともに登場。大勢のカメラマンの前でインタビューを受けた。
 
 田口騎手は「模擬レースとはスピード感が違って、現役競走馬の違いを知りました。日本ダービーを見てジョッキーを目指したので、ダービーを勝てるような騎手になりたいです」。自分のセールスポイントは「騎乗面ではどんな馬でもゴール板までしっかり追って、馬の全能力を発揮させることを心掛けて乗るようにしています」。笠松競馬元騎手である両親からは「騎手の人生は長いから、焦らず最初はこつこつとやって、いつか花を咲かせられるよう頑張ってと言われました」。

父が管理していたビルボードクィーンに騎乗した田口騎手

 9Rでは、笠松からの転入馬ビルボードクィーンに騎乗。「オーナーの吉田勝利さんが、中央に移籍させてくださって、僕に乗せてくださるので、とても感謝しています」。同期の河原田騎手との新人同士の仲についても聞かれ「まあ、たまにしゃべるぐらいですね」とお互い同じ受け答えで、笑いの渦となった。これからの抱負としては「馬主さん、厩舎関係者から愛され、勝てる騎手になれるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします」と意欲を示した。

 カメラマンらからは「しゃべりもしっかりしているね」の声。初戦2着で、ファンからは「ありがとう、当たったよ。頑張れよー」という声も飛んでいた。

 ■「JRA騎手、時々笠松騎手」二刀流にも

 11、12日には阪神競馬場で騎乗。未勝利戦を中心にそれぞれ6頭、5頭の計11頭で新人としては恵まれた騎乗数といえる。有力馬への騎乗もあり「ワンチャンあるよ」と、次の目標へ闘志ギラギラ。明るい愛されキャラの田口騎手。どんどん経験を積んで、1年目の大きな目標である30勝超えを達成したい。地方競馬で行われるJRA交流戦での1勝は、JRAでの「見習騎手」の1勝として加算され、笠松での2勝は大きなステップになった。101勝目を挙げれば「減量の恩恵」はなくなるが、一人前の騎手として認められることになる。

 土・日曜はJRAで騎乗し、水・木曜には地方競馬でのJRA交流戦へ遠征。自厩舎の馬にいっぱい乗せてもらって、今後も笠松で騎乗するチャンスが増えそうだ。お父さんが調教師で、吉田勝利オーナーの強力なバックアップもあって信頼感を増す田口騎手。かつての笠松時代のアンカツさんのように、中央・地方を行き来する「二刀流ジョッキー」の可能性を秘めた存在。「JRA騎手、時々笠松騎手」になって、地元ファンを喜ばせてくれそうだ。

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