笠松競馬の元気娘・深沢杏花騎手(19)が、地方競馬の女性騎手8人で競う「レディスジョッキーズシリーズ2021」に出場。3日間の笠松開催を挟んで盛岡(11月23日)、高知(27日)を転戦。ハードな日程で騎乗をこなし、上位争いに加わるなど奮闘ぶりが目立った。

深沢杏花騎手(右から3人目)らレディスジョッキーズに参戦した騎手たち=盛岡競馬場(NAR提供)

 2016年以降、男性騎手を交えての「レディスヴィクトリーラウンド」として開催されていたが(前回は中止)、女性騎手だけでのレディスジョッキーズが10年ぶりに復活した。深沢騎手は、盛岡初戦を6番手から追い込んで2着、2戦目は7着。続く高知初戦は好位をキープして3着、2戦目は4着。計4戦を終えて総合ポイントで4位につけており、来年2月18日の最終・名古屋戦で「上位表彰」を目指す。

盛岡初戦、猛スパートで2着に届いた

 「左回りは慣れていないんで」と挑んだ盛岡初戦。雨が降り続く中、水が浮いた田んぼのような馬場状態だったが、深沢騎手はグローリアスマイアに騎乗し、最後はすごい脚で猛スパート。勝った馬には離されたが、ゴール前の2着争いで先着した。

 翌日、笠松に戻ってきた深沢騎手は「寒かったです。勝ち馬とは7馬身差だから、悔しいも何もないですよね。それだけ離されたら、どんな乗り方しても負けていた。すごい一脚は使うけど、何か足りないところがあるから、勝ち切れない馬と聞いていました」と振り返った。

盛岡の初戦、グローリアスマイアに騎乗し猛スパートで追い上げる深沢杏花騎手(左端)。ゴールでは2着に突っ込んだ(NAR提供)

 ポジションは後ろから2番目。「盛岡の乗り方がよく分からないので、どこから仕掛けていいのかと。後ろからの競馬になったが、もう少し馬群に付いていければ良かったです」。グローリアスマイアは、岩手リーディングの山本聡哉騎手が乗って前走2着だった馬。「聡哉さんにも『下がっちゃう馬だし、出たなりでいいよ』と言われた。追い出してムチを入れたら、直線は結構動いてくれて2着に届いて良かったです」と笑顔だった。

 逃げ切ったのは神尾香澄騎手(川崎)騎乗のエリーグローリー。昨年12月、名古屋・初霜特別で深沢騎手が騎乗した馬(7着)だったが、岩手移籍後の成長が著しく及ばなかった。

盛岡から夜中に戻り、そのまま攻め馬と本番レース

 笠松競馬の自粛中は8カ月間もレースで乗れなかったのに、再開後は一転して騎乗数が増加。特にレディスジョッキーズの期間中は盛岡→笠松→高知と転戦し、寝る暇があまりない強行軍となった。

 その過密スケジュールをちょっと振り返ってみると―。23日の盛岡2戦目(第11R、17時40分発走)は夕方に騎乗を終えたが、笠松はレース開催中でもあり、地元へとんぼ返り。新幹線などで6時間余り、夜中に笠松競馬場へ帰ってきて、そのまま徹夜でいつもの「調教タイム」に突入した。

 笠松のジョッキー不足は深刻で、みんな1人で30頭前後の攻め馬をこなしているハードな現状。このため、帰ったばかりの深沢騎手も午前9時までびっしり。これまで乗り込んできた馬たちのコンディションづくりに励んだ。そしてここからが本番。午後からのレースには、笠松第4R(12時20分発走)から騎乗したが、過労によるけがが心配でもあった。

 最終レース後はさすがにお疲れモード。笠松から高知への連戦が待ち受け、「忙しすぎて、きついです。もうちょっと間隔を空けてほしかったです。(盛岡から笠松へ)午前0時半に帰ってきて、そのまま攻め馬をやってたんで、寝てなかったです」。午後からのレース騎乗前に、ようやく1~2時間寝ることができたが、発走の50分前には検量があるため、すぐにレースのため準備に追われた。

高知では見せ場たっぷりの3着、浜尚美騎手が連勝

 笠松での3日間の騎乗を終えて、初参戦となった高知競馬場へ。ナイター開催だが、JRAネット投票向けもあって、注目のレディスジョッキーズは第3R(16時05分発走)から2戦。秋晴れの下、熱戦を繰り広げた。

 初戦は4番人気のドゥオンフルールに騎乗。好位から4コーナーではインを突いて3着と好走した。勝てそうな勢いもあったが、内の砂が深くて最後の一伸びを欠いて2馬身届かなかった。「馬場が重たくて馬を動かし切れなくて悔しかったです」と深沢騎手。2戦目は6番人気のウインバイタルに騎乗。中団のまま4着に終わった。地元・高知の浜尚美騎手が地の利を生かした快走を見せ、ともに2番人気馬で連勝を飾った。

別府真衣騎手とお別れ、宮下瞳騎手ら「寂しい」

 盛岡から高知へと中3日での開催は、確かに厳しいローテーションだが、華やかで名残惜しいレースになった。11月末で騎手引退の地元・高知の別府真衣騎手を囲んで、女性騎手仲間たちとのお別れのステージにもなったからだ。

調教師に転身する別府真衣騎手(右)との別れを惜しみ、健闘をたたえ合う宮下瞳騎手(NAR提供)

 愛知の宮下瞳騎手は「パワーとか刺激をもらってたんで寂しいです。調教師として頑張ってほしい」とエールを送ると、別府騎手は「(瞳さんは)憧れの先輩で、いつかは超えたいなあと思っていましたが、かなわなかったです。調教師として1000勝を目指したい。瞳さんにも来ていただいて乗ってもらいたいです」と応え、お互いの健闘をたたえ合った。

 別府騎手はレディスジョッキーズでは過去に2度優勝するなど勝負強さ抜群の「女王」だった。父は別府真司調教師で、笠松グランプリをダノングッドで制覇したばかり。28日の「真衣ラストラン」ではダノンチャンスに騎乗し、2番手から差し切りV。1000勝超えの宮下騎手に続く女性騎手歴代2位の747勝目を飾った。12月1日から調教師に転身、新たなステージでの活躍が期待されている。8日には34歳の誕生日を迎えた。

深沢騎手、2月に名古屋であと2戦

 盛岡、高知の計4戦を終えて1番人気馬が2勝、2番人気馬が2勝。2着も上位人気馬で決まっており、やはり騎乗馬の「くじ運次第」ともいえるジョッキー戦。もし何年後かに笠松でもレディスジョッキーズが開かれる機会があったら、笠松名物でもある「前走1着馬」ばかりを集めたレースのように、実力伯仲の一戦で腕を競うことができれば、より盛り上がることだろう。

 総合1位は浜尚美騎手の95ポイントで大きくリード。2位は神尾香澄騎手で66ポイント、3位は佐々木世麗騎手(兵庫)で61ポイント。
 
 4位の深沢杏花騎手は53ポイントで上位を追い、関本玲花騎手(岩手)が5位、宮下瞳騎手は6位。鎖骨骨折のため欠場した木之前葵騎手(愛知)は、名古屋で騎乗する見込み。深沢騎手にとっても騎乗経験が多い名古屋では2月にあと2戦。勝利をゲットしてベスト3に食い込みたい。

船橋・クイーン賞では武豊、ルメール騎手らの背中を追った

 12月1日の船橋・クイーン賞(交流GⅢ)には、笠松から2頭が参戦。ナラ(牝5歳、伊藤勝好厩舎)に松本剛志騎手、ハナウタマジリ(牝3歳、伊藤勝好厩舎)には深沢騎手が騎乗した。パドック周回からテレビやネットのライブ映像を通して、全国の競馬ファンに、戦線復帰した元気な笠松勢の姿をアピールしてくれた。JRA勢も相手で、能力的には厳しい挑戦になったが、他地区地方所属馬の出走枠を生かした参戦。パドックで長く周回を重ねる笠松の競走馬と厩務員さんの晴れ姿もまぶしかった。

 勝ったダイアナブライト(川崎、牝5歳)に5秒以上離されて12着、14着に終わった笠松勢。JRAの馬には武豊、ルメール騎手らも騎乗。松本騎手のナラは、川田将雅騎手の騎乗馬(エリザベスタワー)に先着。深沢騎手は1頭だけ大きく引き離されながらも、最後まで諦めずに、南関東やJRAのトップジョッキーの背中を追った。ともに全国区での大きな経験になった。

 深沢騎手は笠松開催中の12月17日に20歳の誕生日を迎える。昨春のデビュー後は、不祥事によるレース自粛などで試練の日々を過ごしてきたが、ようやく笠松競馬も明るさを取り戻してきた。攻め馬や本番レースが続くが、けがなどには十分に気を付けて騎乗していきたい。競泳や体幹トレーニングで鍛えてきた身体能力は高いものがある。来年に向けて、もう1段階ギアを上げて成長した姿を見せてくれそうだ。

北海道から助っ人・馬渕繁治騎手、差し切りV決めた

 ジョッキー不足で依然として非常事態が続く笠松競馬。渡辺竜也騎手、長江慶悟騎手が落馬事故で戦線離脱。レースで騎乗可能な所属騎手は7人にまで減っていたが、北海道競馬所属のベテラン・馬渕繁治騎手(55)が来年2月までの3カ月間、笠松で期間限定騎乗。地方競馬通算963勝で、同期の田口輝彦厩舎に所属。昨年度も笠松で騎乗し3勝(1月前半まで)を挙げている。

笠松での期間限定騎乗で、1着ゴールを決めた馬渕繁治騎手

 歓迎セレモニーでは「水がきれいで食べ物がおいしいです。馬場自体もきれいで乗りやすいですね。常に安全に、でも目いっぱい乗れれば」と頼もしい助っ人が来てくれた。11月23日第3Rで、お世話になっている田口厩舎のディザネイションで差し切りを決めて、まず1勝。ゴールでは騎乗馬に感謝するように頭を下げて、勝利の味をかみしめている姿が印象的だった。

昨年は手ぶらで帰った関本玲花騎手と池田敦騎手

 昨冬、馬渕騎手とともに期間限定で笠松に来てくれた関本玲花騎手(岩手)と池田敦騎手(金沢)。攻め馬には励んでもらえたが、不祥事のため、一度もレースに騎乗することなく、手ぶらで帰らせてしまった。2人が一時所属した笠松の厩舎は既に廃業している。

 冬季休業になる岩手や金沢からは、今冬も期間限定で来て助けてほしいが、受け入れ厩舎はあるのかどうか。競馬組合や厩舎には、関本騎手と池田騎手には何とか来ていただけるよう努力をお願いしたい。現在の笠松競馬は騎乗機会が多いので、残念な思いをさせた昨冬の分まで、いっぱい勝って稼いでいただけるといい。

黒沢愛斗騎手も来てくれた、笠松初V目指して

 北海道からは黒沢愛斗騎手(34)も笠松での期間限定騎乗(2カ月間)をスタートさせた。森山英雄厩舎に所属。08年にデビューし、地方競馬通算315勝。

笠松での期間限定騎乗で、パドックからレースに向かう黒沢愛斗騎手

 歓迎セレモニーでは「小回りの競馬場はあまり乗ったことがないので、すごく楽しみです。体が小さいので他の騎手に負けないように頑張っています。一鞍一鞍大事に乗って、多く勝ちたいです」。岐阜での楽しみについては「温泉に入れたらいいなと思います」と。9年前にも期間限定で参戦した黒沢騎手。騎乗機会に恵まれず未勝利だっただけに、今回はまず「笠松初V]を飾って、勝利を積み重ねていきたい。

イイネイイネイイネ、16日のジュニアキング出走へ

 笠松所属馬は約470頭で、激減時よりも50頭ほど増えた。年内の開催は14~17日のウインターシリーズと27日、29~31日の年末特別シリーズ。16日の2歳戦「ジュニアキング」(準重賞)には、名古屋・ゴールドウィングVのドミニクも出走登録していたが回避。イイネイイネイイネやカントリードーロは参戦予定で、注目の一戦となる。入場無料が続く笠松競馬場で、ご当地グルメを味わいながら、ゆったりとライブ観戦を楽しんでいただきたい。