シンデレラグレイ賞やコラボイベント開催で、早朝から並ぶウマ娘ファン

 「ウマ娘を応援、育成中のトレーナーの皆さん。オグリキャップデビューの地へようこそ」

 ここは「名馬、名手の里 ドリームスタジアム」の愛称がある笠松競馬場。ウマ娘コラボイベントが今年はパワーアップして開催され、殺到した聖地巡礼の若者たちが熱狂した。

 看板レース・オグリキャップ記念の翌日(4月28日)。芦毛馬だらけの「ウマ娘シンデレラグレイ賞」に続いて、オグリキャップ役声優の高柳知葉さんがトークショーで「聖地降臨」を果たした。早朝から大勢の若者らが開門待ち。グッズ購入や場内グルメを満喫し、オリジナルクリアうちわやウマ娘ポストカードもゲットした。10~20代の若いエネルギーがあふれ、ライブ会場となった笠松競馬場。迫力満点の人馬の熱戦とともに、ファン一人一人が追い求めた、それぞれの「ドリーム」も熱く駆け抜けた。

 オグリキャップが主人公で、笠松競馬場を舞台にした漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」は3年前に連載がスタートし、大ヒット。コラボイベントは、集英社とCygames(サイゲームス)の協力で、昨年に引き続き「ウマ娘プリティーダービー連携事業」として実施された。

第2駐車場北側の待機エリアで開門を待つファンたち

 ■ 開門前から「ウマ娘パワー」ですごい行列

 笠松競馬場内が熱く燃え上がるのは、やはりオグリキャップ絡み。今年の一番乗りのファンはどこから来た人なのか。昨年のように徹夜組はいたのか。待機列に突撃して聞いてみた。
 
 午前6時15分、まだ熟睡中だったが、携帯音とともに「もういっぱい並んでいるよ」との情報が入った。「出遅れたかな」と飛び起きて7時20分には現地に到着。「ウマ娘パワー」で行列は今年もすごいことになっていた。

 笠松競馬場内では9時まで調教タイム。開門は10時だが、前回は2時間以上早まった。今回は第2駐車場北側に、7時半から並ぶことができる待機エリアが設けられたが、既に満杯だった。
 
 聖地巡礼ファンは行列に並ぶこともイベントの一環のようだ。昨年は1列に並んで、最後尾は第2駐車場を突き抜けて木曽川堤防道路へと延びた。車の往来もあって危険なことから、今年はスタッフの指示に従い、横5人ずつの待機列が組まれ、混乱なく開門を待った。 

開門とともに入場するファンたち。クリアうちわをゲットし、お目当ての店へダッシュした

 ■ 一番乗り? たまたま居た場所が待機列の「一番前」に

 大勢の人が並ぶ待機エリアで「一番乗り」のファンを見つけた。昨年は午前1時に来場した東京の19歳男性だったが、今年は様子が違った。待機列の先頭は三重県四日市の40歳男性で、たまたま居た場所が「一番前」になったそうだ。「始発電車で来て、笠松に着いたのは7時すぎ。メチャ並んでいてすごいことになっていた。オグリキャップ記念にも来たし、きょうは栗毛馬や芦毛馬のコラボレースが楽しみ。若い人が多いけど、幅広い年代の人が来てますね」と長い行列に驚いた様子。実質の一番乗りは車で到着した遠来の徹夜組か、車中泊で夜明けを待ったとみられる。

 2番目に並んでいたのは愛知県からの23歳男性。「きょうは馬券を買いながらイベントなどを楽しみたい。好きなウマ娘はメジロドーベルです」。岐阜県北方町の25歳男性は「シンボリルドルフが好き。グルメを味わいたいし、友達にあげるポストカードも欲しい」と開門待ち。「ゴールドシップやサクラバクシンオーが好き。ウマ娘に興味を持って、競馬をいろいろと見るようになった」という声も聞かれた。
 

オグリキャップのTシャツなどウマ娘グッズが並んだポップアップストア

 ■ クリアうちわをゲット、飲食店前でも長い行列

 ゴールデンウイーク直前の平日だったが、午前9時には待機列が1500人を超え、開門は9時半に早まった。待ちわびていたファンたちは続々と正門をくぐると、お目当てのオリジナルクリアうちわをゲット。来場者特典としてプレゼントされ、4000枚(昨年1500枚)が用意された。ファン休憩所内にはウマ娘関連グッズのポップアップストアがオープン。場内売店やキッチンカーでも500円以上の購入にウマ娘ポストカードがプレゼントされた。各飲食店前には50人ほどの行列ができ、スタンプラリーのようにカード11枚の「コンプリート」を目指し、場内を周回する熱心なウマ娘ファンの姿もあった

にぎわう場内の飲食店前。ご当地グルメを買い求め、その味を堪能した

 「ファンの勝負飯・どて飯」や「タマモクロスのきしめん」でも評判の丸金食堂では「蹄鉄クッキー&笠松隕石最中」のお土産セットも限定販売。おでん、大判焼なども飛ぶように売れ、11時頃にはポストカード配布が終了となった。 
 
 オグリキャップは大食いキャラで有名だが、昨年は1R開始前に各店の食材がなくなる想定外の事態も起きたため、今年は準備万端。一時的に品切れになる人気商品もあったが、来場者は整然と並び、お店の人が「最後尾はどこですか?」などと声掛けしながら手際良く販売。食材も豊富に用意され、今年は混乱なくスムーズな流れだった。            

オグリキャップ像前ではウマ娘の等身大パネルが設置され、記念写真の撮影スポットとして人気を集めた

 ■オグリとライバルたちの等身大パネルも

 オグリキャップ像前にイナリワンとスーパークリーク、特設ステージにはオグリキャップとタマモクロスの等身大パネルを設置。 昨年の2頭から4頭に増え、「芦毛対決」「平成3強」と呼ばれたオグリのライバルたちが勢ぞろい。カメラやスマホを手にしたファンたちが、来場記念の写真撮影を楽しんでいた。

 トークショーを開いた声優の2人、高柳知葉さんと井上遥乃さんもオグリキャップ像前で写真撮影(自身のツイッター上でアップ)。ファンも待ち望んだ聖地デビューをようやく実現でき、にこやかだった。

 横浜市の24歳男性は「シンデレラグレイからオグリキャップのファンになった。おいしい物を食べながらレースを見て楽しむことに、すごくはまって笠松にも来た」。飲食店前ではテーブル席も設けられ「大阪から車で午前1時頃に着いた」という男性は、京都や名古屋から来たウマ娘ファンと合流し、笠松グルメをおいしそうに味わっていた。
 

ウマ娘のコスプレ仲間。ビールや串カツを手に、宴会モードで笠松競馬場での一日を満喫した

 ■コスプレレース仲間、宴会モードで大盛り上がり

 1月に笠松競馬場で開かれたコスプレレースのイベントに参加し、仲良くなったというグループは真っ昼間から宴会モード。笠松のゴール前で転んだイナリワン姿のコスプレ男性ら愛知の男女7人グループで、ビールと串カツなどを賞味しながら、「推し馬」について語り合い大盛り上がり。

 「オグリの里・聖地編」を購入していただいたオグリキャップ姿の男性は「来年もコスプレレースが開かれたら1着になりたい」と笠松競馬場が気に入った様子。ウマ娘のキャラクターではないが、漫画で登場したマーチトウショウ(作中・フジマサマーチ)にふんした男性は「作品の姿からイメージし、日本では僕だけかも」とご満悦。オグリキャップ像前やスタンド前でもコスプレ撮影のポーズを決めていた。

「ウマ娘ベルノライト賞」は栗毛馬限定。美しい馬体でスタンド前を駆け抜けた

 ■ベルノライト賞 、栗毛馬9頭ピカピカに輝く

 昨年のレースは雨で不良馬場だったが、今年は好天に恵まれて良馬場。10R「第1回ウマ娘ベルノライト賞」(C級選抜、1400メートル)は栗毛馬限定で9頭が登場。ベルノライトは、漫画ではオグリキャップ笠松時代の親友で、中央でサポート役も果たした。オグリと同期の牝馬・ツインビーとみられている。同じレースでは走っていないが、笠松で10勝を飾った。

 栗毛馬は笠松にも多くいる。ベルノライト賞では藤原幹生騎手騎乗の4番人気グレイトボルケーノが鮮やかな差し切り勝ち。逃げたランディス(岡部誠騎手)が2着、後方から追い上げたパステルモグモグ(深沢杏花騎手)が3着 。ピカピカに輝く栗毛の美しい馬体が躍動し疾走。スタンド前も埋めたウマ娘ファンたちを魅了した。

ラチ沿いでスマホ撮影を楽しむファンの目の前を通り、返し馬に向かう芦毛馬たち

 ■ シンデレラグレイ賞、至近距離のラチ沿いでファン熱視線

 最終12Rは芦毛馬による「第2回ウマ娘シンデレラグレイ賞」(C級選抜、1400メートル)。日本の競馬場で唯一、世界的にも珍しい内馬場パドックで出走11頭が周回を始めると、スタンドやラチ沿いでは大勢のファンが注目。

 マイクロバスで登場したジョッキーたちはパドック前で整列。ファンに向かって一礼して騎乗馬に向かうと、早くも温かい拍手が湧き起こった。「パドックで騎手の騎乗時、ファンから拍手が起こる前代未聞の事態が起きた」というツイッター上の声もあった。内馬場パドックならではの熱い応援で、ジョッキーの背中を押して元気づけた。

 パドックはコース越しで遠いが、返し馬に向かう芦毛馬たちは、ラチ沿いをゆっくりと第4コーナー方面へ。馬とファンとは1メートルほどの至近距離。カメラやスマホを構えてシャッターチャンスとなり、熱い視線を注いでいた。

「ウマ娘シンデレラグレイ賞」で先頭に立ち、優勝を飾った大原浩司騎手騎乗のエイシンウパシ(左)

 ■大原騎手&エイシンウパシが制覇、ゴールで長く大きな拍手

 ファンファーレが高らかに鳴り響くと、再び拍手が送られゲートオープン。長江慶悟騎手の積極策でナエギジョーが逃げ、大原浩司騎手が騎乗したエイシンウパシ(笹野博司厩舎)が2番手から追う展開。3コーナーでは先頭を奪い、4コーナーを回って最後の直線でも楽な手応え。コロナ対策が緩和され、観客席からは「大原、行けー」「差せー」などと大声が飛び交った。

 エイシンウパシは1番人気に応えてそのまま押し切り、ゴールイン。全11頭の無事完走をたたえるかのように大きな拍手が長く響き渡り、15秒ほど続いた。昨年もそうだったが、ギャンブル色の強い通常のレースとはちょっと違った感覚。ウマ娘シンデレラグレイ賞ならではで、独特の雰囲気と魅力が詰まったレースになった。

 来場したウマ娘ファンは、競馬場でレースを見るのが初めての人もいて、応援の記念馬券を100円ずつ買う程度。発走は16時50分で、まだ馬券を買えない10代のファンも学校帰りに来場した。芦毛馬だけの躍動感は壮観で、ファンの気分はウマ娘トレーナー。「アスリートである人馬の頑張りで、いいレースを見せてもらった」と純粋に感激。木曽川河畔にあるのどかな競馬場は、コンサートのライブ会場のような一体感がみなぎった。

1着でゴールするエイシンウパシと大原騎手。ファンから大きな拍手が送られ、長く鳴り響いた

 ■ゴールドシップ産駒、2年連続の2着

 勝ったエイシンウパシは4歳牝馬。父・エイシンヒカリで母・エイシンルンナ。中央から園田、金沢、名古屋を経て笠松転入。スピードを武器にコースとの相性抜群で3勝目を飾った。3馬身差でスノーディザイア(保園翔也騎手)が2着。松本親子(剛志、一心騎手)の騎乗馬が3、4着で続いた。

 レースでゴールインすることは人馬にとって「最低限の仕事」だろうが、競走馬たちの存在は厩舎関係者の生活を支える「生命線」でもある。もちろん勝利を求められるが、地方競馬では「丈夫で長持ち」も大切で、けがなどなく元気に装鞍所へ戻ってくることが最大の使命。担当厩務員たちは常に「無事」を願っている。

 厳しい競走馬の世界。第1回シンデレラグレイ賞の女王・ヤマニンカホンは、レース中のけがで既に引退。昨年出走した芦毛馬のうち今年も参戦できたのは、カリーナチャム(水野善太厩舎)ただ一頭(8着)。B級に昇格したり、他地区へ移籍した馬も多い。ウマ娘キャラ的には、昨年2着だったのがゴールドシップ産駒のメイショウイナセ。今年の2着馬スノーディザイアもゴールドシップ産駒で、後方からよく追い上げた。来年も開催されれば、出走してほしい血統となる。

 シンデレラグレイ賞初代クイーンの深沢杏花騎手はパットサイテで連覇を狙ったが、力不足でしんがり負けに終わった。11R、クインズミントで勝利を飾った深沢騎手は今年17勝目。名古屋でも3月に初勝利を挙げており、通算90勝。ウマ娘レースVをステップに、一人前のジョッキーへと大きく羽ばたきつつあり、騎手編の「笠松発シンデレラストーリー」として、全国の重賞やジョッキー戦などでも注目していきたい。