整形外科医 今泉佳宣氏

 中高年で股関節が痛くなる病気の一つに大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)症があります。股関節は大腿骨の骨頭と呼ばれる球状の部分が、骨盤の骨である寛骨の臼蓋(きゅうがい)と呼ばれる部分にはまり込んだ構造をしています。大腿骨頭を栄養している血管の血流が途絶えることで阻血性壊死という状態が起こり、骨や骨の表面を覆う関節軟骨が部分的に死んでしまいます。この壊死した骨の部分が大きいと体重を支えきれなくなって、大腿骨頭がつぶれてしまい(陥没変形)、痛みが出ます。

 大腿骨頭への血流が障害されるのには、いくつかの原因があります。大腿骨頸(けい)部骨折や外傷性股関節脱臼などの外傷で大腿骨頭を栄養する血管が破綻することや、潜函(せんかん)病といってダイビングなどで潜水した時に、水圧の急な変化で気泡が血管内に詰まって壊死につながることがあります。また、このような原因がなく大腿骨頭壊死を生じることがあり、それを特発性大腿骨頭壊死症と呼びます。特発性大腿骨頭壊死症は厚生労働省の難治性特定疾患に指定されています。年間の新規発生患者数は約2千人です。

 特発性という言葉は「原因がはっきり分からない」という意味で、文字通り特発性大腿骨頭壊死症は原因不明の病気です。しかし興味深いことにお酒や、さまざまな疾患の治療薬であるステロイドと関連があります。

 アルコール関連特発性大腿骨頭壊死症は長期飲酒や多量飲酒が危険因子とされ、男性患者数は女性の8倍多いとの報告があります。また、ステロイド関連特発性大腿骨頭壊死症は女性患者の7割に見られ、大腿骨頭壊死症患者の半数にステロイド治療歴があります。

 症状は股関節の痛みですが、大腿骨頭壊死が発生しただけの時点では痛みはありません。痛みは壊死した大腿骨頭に陥没が生じたときに出現し、この時点が大腿骨頭壊死症の発症となります。そのため大腿骨頭壊死症の発生と発症の間には数カ月から数年の時間差があります。痛みの特徴は急に生じる股関節部痛ですが、腰痛、膝部(しつぶ)痛、臀部(でんぶ)痛などで初発する場合もあります。また、初期の痛みが安静により2~3週で消退し、再び増強したときには大腿骨頭の圧潰(あっかい)が進行していることがあります。アルコール愛飲歴やステロイド投与歴のある患者さんがこれらの症状を訴えた場合は、本疾患を念頭において検査を行います。

 次回は特発性大腿骨頭壊死症の検査と治療についてお話をします。